126話 これが、スライムの対処法ですか?
「せ、セイン・・・ト」
「ソフィー。ストップもう良いよ」
「で、でも・・・。助けられる方がまだいます」
フラフラするソフィーを抱きかかえるとこちらを向いて申し訳なさそうにそんな事を言いだした。
「このままではソフィーが倒れてしまうよ」
「しかし・・・はい。」
俺は、無言でソフィー見つめると彼女が申し訳無さそうに目をそらした。
誰もソフィーを攻めることなんで出来るわけがない。彼女は意識が薄れぶっ倒れそうになる位まで魔力を使い。現に気持ち悪そうな顔色をしていた。
完全に魔力切れを起こしている症状だ。
気を失わないのは彼女の強さだろう。
実際、使うところを見ていたがソフィーの治癒魔法はかなり強力だ。
恐らくこの世の歴史を変えてしまうだろう。
だが、それに伴うリスクも大きい。あまりにも魔力消費が高すぎる。
俺から離れて起き上がろうとするソフィー、
--ガタッ!
「ソフィー!!」
ソフィーが倒れたので体を支える。
「あっ、すい・・ません。」
ソフィーは再度俺から離れ治癒魔法を使おうとしていた。
だが、体に力が入っていない。人助けに躍起になっているがソフィーを止めないと死んでしまう。今も辛そうな顔をしながら詠唱しようとしていた。
−−フワァァ
突然、甘い花の匂いがしだした。と、同時に意識が若干眠気に襲われた。
やばっ。
慌てて口に手を当てる。睡眠系のガス攻撃みたいだった。
俺は直ぐに口を塞いだ為少しクラっと来ただけで済んだ。
でも、ソフィーは既に落ちていた。
俺の腕の中で『スー、スー』と、寝息を立てていた。
俺は匂いを嗅がない様に息を止め、ソフィーを抱き上げる。
ソフィーは余程疲れていたのだろう、グッスリ眠っていた。
少し離れたベットに寝かせる。
良く眠っているのでこのまま横にしていれば直に気分も良くなるだろう。
ユキマルもソフィーが心配だったのか近寄ってきてソフィーに添い寝していた。
ふむ。ソフィーはこれで問題なさそうだ。
さて、この不意打ちをした人にいきなりこんな事をした理由を聞いてみようか?
土系の魔法で植物を扱う魔法がある。そして、植物系には睡眠を誘うものがある。
と、言うことで犯人はコイツだ!!
「エリーさん? 何の前触れもなく魔法使うとか、いきなりは酷いんじゃないんですか?」
俺は少し不機嫌そうにエリーに言ったが、エリーは特に気にする素振りも見せず。
むしろ、呆れた様子で反論してきた。
「そう? あのままだとソフィーが倒れちゃいそうだと思っただけだよ。それに事前に伝えたら警戒されるでしょ。逆に聞くけどあんたはどうやって止めるつもりだったの?」
確かにその通りだ。あのままだとソフィーは取り返しのつかない状態に成るまで頑張っていただろう。実はあそこでエリーが止めてくれたのはかなり助かった。
くっ。エリーがまともな事を言うからこっちは戸惑うんだよ。
「あ、ありがとう。た、確かにエリーの言う・・・とおりだ。」
不本意ながらも同意せざるを得ない。
何故か悔しい・・・でも、感じちゃう。ビクン。ビクン。
なんて冗談はさておき。
エリーも疲れているのに大したものだ。
先程の話に戻るが、ソフィーの治癒魔法のお蔭で俺達の心も大分助かった。エリーも俺もせっかくスライムから助けだしても生かす事が出来なかった。
スライムを除去しても失った体を再生させる力は持っていなかったからだ。
助け出した人達の内、何人亡くなったのか分からない。
せっかく助けた人の墓まで俺達が作っていたのだ。
心は折れかかっていた。
そこに現れたソフィーが天使に見えたと言っても過言でない。
更に言えば今回ソフィーに見てもらった人達は特に具合の悪い人達だった。
症状の軽い人達は回復薬やカズハとアクアの力で持ち直す事が出来たため命の危険は回避出来た。しかし、先程も言ったとおり重症な人は俺達では全く歯が立たない。
なので、ソフィーに対応してもらった人はそういう人が多くなってしまった。
既に意識が無かった人達も混じっており最初から賭けは五分五分。全員が助かる訳が無いのだ。
お願いしておいて何だがあまりに必死なソフィーの姿を少し不憫に思えた。
必死に頑張る姿を見守る事しか出来なかった。
それに引き換え、エリーも正論を言っているにも関わらず皆から『大丈夫』とか、『びっくりした』とか言われてるとか不憫な気がした。
真面目な事を言っただけなのに誤解されるって悲しいなぁ。
「何だか失礼などもり方だけど? 一応、どういたしまして。で、今後はどうするの? このままじゃ埒があかないよ。王都全体を更地にしちゃう?」
そう。それも考えないといけない。
スライムの除去だが何とかしないと建物を全部破壊されかねない。
一応、プロメテが(嬉しそうに)スライムを除去しているが、建物も除去している。
要は、プロメテが力任せに暴れているので建物も破壊されているのだ。
「あれ? エリー。たまにはまともな事言うね」
「たまにって何よ」
「あっ、ゴメン。本音が出た」
「ふぬぅ!」
エリーとベネがじゃれていた。この二人仲いいな。
しかも、ベネが俺の思っていた事を口にしてくれた。ベネありがとう。
「元を断つって考えは悪く無いと思うぜ」
「おっ、ビル。おかえり」
「何だよ。お前は帰りを待つ女房か?」
「うっせーな。お前こそこんなに早く帰ってきやがって、何かしら情報は掴んで来たか?」
「あぁ。その辺はバッチリだ」
コイツの名前はビル。
エリーと俺が助けた街の人だ。比較的軽症だったのでソフィーに頼らず回復出来た人の1人だ。色々話を聞くと下街の有力者の孫だと言う。
身内の人の事を聞いたら、「さぁ。恨みも買ってる人だし既に殺られちゃってるかもな」なんてあっけらかんと言われてしまった。肝が座りすぎてビックリだったわ。
助けた人達が街の外に避難する中、「城下内の情報集めが出来ないと不便だろ」と言って俺達を助けてくれている。
それに俺に昔助けられているらしく、その恩を返すまで協力するって話だ。
うーん。全く記憶が無いなぁ。
と、言う経歴は関係無しに俺と非常に相性が良い。
意識が戻ってから数回会話しただけでタメ口で喋れる仲になっている。
コイツからはどうにも一也と同じ匂いを感じるんだよ。
この世界に来てからこんなにゆるく喋れる奴が居なかったので気が楽だ。
ただ、ビルと喋っているとエリーとベネからジットリとした視線を感じる様な気がするんだ。なんだろうか怒られる様な事はしていない筈だが?
・・・エリーとベネside
「また、一緒に喋ってる・・・」
「何? エリー妬いてるの」
「そ、そんなんじゃないわよ」
「馬鹿ね。そんなんじゃあの二人のことを楽しめないわよ」
「楽しむって何?」
「ふふふっ、エリー耳を貸して」
(ゴショゴショ)
「!!? そ、そんな事が」
「ね。そう思うでしょ」
「え? だって、そんな? えっ? えっ?」
エリーとベネの視線が変に熱くなったのはこの頃からか・・・
・・・イッセイside
「お前らの言うとおり城に行ってミサキって、モンスター? に会ってきたぞ・・・てか、モンスターが何で普通に喋ってんだよ。って、何で俺も普通に会話してきたんだよ?」
「「「そこは触れてはいけない。」」」
「アッハイ」
ビルに頼んだのは裏道を駆使して城にたどり着く事、そしてミサキさんか王家の誰かに俺が書いた手紙を渡して貰うことだった。
スライムが城下内を徘徊しており地下と地上関係無しに存在している。
俺が行っても良かったがこのスライム共をが気になって道草を食う可能性が大だったのでビルに行ってもらったのだ。
「そして、モンスターの出処だがやっぱり『始まりの泉』が臭いな」
「やっぱりか・・・」
ついでにこの辺一帯の確認もお願いしたのだ。スライムの発生源を知らなければ止める事が出来ない。で、被害の大きい所を中心に調べて貰ったのだ。
どうやら、狙い通りの場所からスライムが湧いている様だ。
ガブリエル様の石像が城下の中心にある。
この国の始まりの地としてガブリエル様が水を沸かせた場所だ。被害の規模やモンスターの湧き状況から恐らくそこかなと睨んでいたのだが、どうやら当たりのようだ。
ちなみに城下の被害状況だが、商人街は壊滅。下街はほぼ全壊。城や貴族街は高台にあるためほぼ無傷。学園や機関等が集まる行政区は、まぁ、|師匠とかミサキさんとか《あの人達》が居たら問題が起こるはずもない。違う意味の問題は起きそうだが。
「おっと、これもモンスターの人から預かってきたんだ」
ビルが取り出したのは緑色の液体だった。って、コラコラ何処から出している?
ビルはおもむろにズボンの中を弄り液体を出した。
女の子がいるんだから遠慮しなさい。
「何だこれ?」
「何でもスライムに効く液体。らしいぜ」
「どうやって使うんだ?」
「あっ」
あっ、じゃねーよ。
コイツ。使い方聞いてこなかったのかよ・・・
・・・
「おや、イッセイ君。君も来たのかい? さっき君のお使いの子が来たから『激 スライムコロリ』を渡したんだけど」
「実は・・・」
俺はここに来た経緯を説明した。その、スライムコロリ(今知った)とやらの使い方を聞きに来たのである。
ビルの奴がミサキさんから使い方を聞いてくれればこんな二度手間を取らなくても済んだのだ。
その事をミサキさんに愚痴ったら。
「アハハッ。確かに私もあの子に説明してなかったね。私も悪かったよ」
「いえ。悪いのはアイツですから」
ミサキさんに渡されたのは、『激 スライムコロリの使い方』と書かれたスクロールだった。
虫を殺す薬もこんな様な説明書付いてたなぁ・・・。
スクロールを開いてみると使い方の他に目に入ったときや誤って飲んでしまったときの対処法が書いてある。
って、成分にドクロマークしか載ってねぇ!! しかも、下にドクロのマーク=死って描いてあるじゃねーか。
と言うかスプーンですくって振りまくタイプの薬剤なのに飲むやつとかいるのか? どんなグルメの冒険者だよ・・・。
「ふふっ、仲が良いのは悪いことじゃないよ。っと、君は白虎かな?」
「・・・あぁ、久しいな朱雀」
そう言えばユキマルを連れてきていたんだった。
ユキマルに気付いたミサキさんは、懐かしそうに話しだした。
「しかし、驚いた。随分小さくなってしまったね」
「それはお互い様だ。お前などモンスター化しているではないか、鳥のなせる技か?」
「う、うるさい猫だな。こ、これには深い訳が有るんだよ」
うーん。これは、仲がいいのか?
猫と鳥・・・いや、サイクロプスが威嚇し合っている。
「喧嘩するなよ」
あまりに見苦しいので仲裁に入ってしまった。
「グッ、イッセイ君が言うなら許してやっても良いよ」
「ふん。鳥風情が・・・時にお主は姫と契約出来たのか?」
「あん? 急にどうしたの」
ユキマルがこちらを見ているので聞かれたく無い話しなんだと思ったが、
「イッセイ。お前も聞いてくれ」
と、言われた。
急にどうしたんだと思ったが取り敢えず話を聞くことにする。
いつになく歯切れの悪い喋り方をするユキマル。
何か重大な事があるのか?
「ふむ。何と伝えて良いのか分からぬのだが、ワシはどうやら姫と契約出来ぬ様だ」
「「はぁ?」」
バッチリ、ミサキさんとタイミングが被ってしまった。
いや待て、そんなことよりユキマルさんは神獣の一神ですよね?
「そんなに力が落ちちゃったの?」
「ワシも最初はそうかと思っていたんだがどうも違うようじゃ。姫と契約を結ぼうとしたがアクセス権すら出てこない」
頭が痛くなる話だった。
ソフィーと鏡が融合したのならユキマルも契約出来る筈なんだけど。今度、ソフィーにもそれとなく聞いてみるか。
「ここで悩んでもしょうがないわ。もう少し様子を見ましょう」
「そうじゃな。忙しいとこ悪かった」
「あら。凄く素直じゃない」
「ふん。姫達と一緒にいればワシ等のいざこざなんて屁みたいなモンじゃわい」
「そうね。頑張ってるものねあの娘」
「そう言えばソフィーが治癒魔法とか言うのを身につけましたね」
「え?」
「あれは凄いのう。みるみる体が治っていく様は見ていて気持ちが良いわい」
「ちょ。ちょ・・・・ちょっと待って?」
「はい?」
ミサキさんが焦りながら俺たちの会話を止める。
どうしたと言うのか?
「治癒魔法って、何?」
「治癒魔法は治癒魔法でしょ」
俺の答えにユキマルも頷いていた。実際、目の前で見てるしね。
しかし、あれは凄い。回復魔法も一緒のカテゴリーに入るのだろうが、さしずめ。ベ○マやケ○ルガだ。俺も怪我をした際には使ってもらうことにしよう。
「アリエナインダケド」
ミサキさんがふしぎな踊りを踊った。
サイクロプスが頭を抱えてふしぎな踊りを踊ると魔力じゃなくて、呆れた顔になるのは今日初めて知った。
「ユキマル。帰ろっか」
「心得た」
俺達は下街に戻る事にした。
やっぱり効く薬には『コロリ』が付くんすね。(未使用)
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次話は金曜日投稿予定です。
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