109話 そのダサイあだ名は何ですか?
公爵領にお邪魔して早3日が過ぎようとしていた。
アレン兄様監修のもとで、現場検証も先日無事に終え、無事安全も確認された事で公爵領と王都を繋ぐ道は再度利用可能になった。
(まぁ、ユキマルが俺達の近くに居る時点で安全は確保されている訳だが・・・。とは口が裂けても絶対に言えない。)
そして、ユキマルに憑いていた【得体のしれないモノ】についても捜索したが現在は完全にロストしてしる状態だ。
片っ端から街で突っ立っている魂魄達に確認したが特に有力な情報を得ることも無く追跡が出来なくなったのだ。このままでは方方から心配されると悪いので一旦は王都に戻る方向で調整中だ。
では、何故直ぐに帰らないか。
そう言われると耳が痛いが帰るに帰れない事情がある。
実は・・・。
今現在、王都に向けた道の使用再開に向けて目下整備中なのである。
現場検証のあの日、いかにも現場監督っぽい人が居るなーとは思っていたのだが、査察が終わった直後に職人と一緒に道路になだれ込んでいき、一気に現場を仕切り始めてしまったのである。
因みに点検と整備が終わるまで後2〜3日はかかる予定との事だ。
仕事がはえー。って、直さなくても通れるけどな・・・。
と、思っていたが実は、公爵様よりモンスター討伐のセレモニーを行うのが真の目的だったらしくソフィーには確実に参加して欲しかった様だ。
まぁ、折角王族の人間が公爵家の問題を解決してみせた事へのお礼も兼ねて王都への復興凱旋をしたいのは判るけど・・・。
ぶっちゃけどうでも良い事だと思った。
ソフィーは流石だ。そういう扱いに理解しているので特に断ろうとはしなかった。
むしろ俺達に「ごめんね」っと、言ってくれた心遣いが嬉しかった。
それともう一つ俺達と言うかソフィーに滞在していて欲しい理由があった様だ。
あの日以来、毎日のようにソフィー宛にツッコミ指南の依頼が来る。
どうやらツッコミを受ける事への快感に目覚めたようなのだ。
あー。因みにツッコミ指南については俺は当然スルーだ。
公爵様のもとでお笑いについて研究している面々や公爵様のお弟子さん達が数多くおり。その皆さんの中では『ツッコミと言えばソフィア姫』なんて俺だったら恥ずかしくって速攻で逃げ出すような通名まで付いていた。
それで、俺がその話を聞いた時そのネタでソフィーをイジったんだ。「ソフィーにツッコミってなんか卑猥だね」って言ったら。ソフィーが俺に「頭湧いてんの?」って返してきた。
それを見ていた公爵様達は当然の様にソフィーを讃えていた。
そういった経緯から彼女は『師匠』と呼ばれる様になっていた。その後、ソフィーから『お前逃げんじゃねーぞ。』って目で見られた気がするが、一国の姫がそんな酷い顔をする訳が無い。
俺はソフィーを信じてる。
兎に角、ソフィーには『ソフィーみたいな可愛い娘が教えた方がみんなが熱心に聞く。僕なら間違いなく聞くよ』と、伝えると忽ち顔を紅くして快諾してくれた。
え? ソフィーはまぁ、婚約者候補だけど友達みたいなものだし。聞きに行くでしょ。
で、そういう経緯もあってソフィーがお笑いの研究をしている人の所へツッコミの指導に行っている。
因みにユキマルはソフィーにくっついて行くらしい。
護衛が欲しかったので、ありがたい。
問題はこちら側。
ここ数日、全く成果が上がっていない事に愚痴が出始めていた。
「本当にこっちに逃げてきたのかな〜?」
「情報のソースが私達の確認できない方法だから信じるしかないよ。面倒だけど」
チラリとこちらを見る2人。悪気は無いんだろうがちょっと疲れて来てる。そのアピールが凄い。
エリーは、愚痴っぽい事を呟き。ベネは半ば諦めている。
情報の収集を道で突っ立ってる魂魄だけに頼っている現状なかなか有益な情報は掴めない。
見てるやつは成仏している可能性もあるしな・・・
確かにキツイはキツイけどさ。
「ふぅ。2人は僕を信用してないって事か・・・悲しいな」
わざと言ってみる。
特に気にしてる訳ではないが、駄々っ子みたいになってしまっても困るからだ。
「うっ。何だか性格悪くなってない」
「確かに私達が一番ダメージを受ける方法を取ってきてるわね」
渋々ではあるが、2人とも体を動かし始める。効いたみたいだな。
取り敢えず体を動かしていれば心が腐ることはない。
一応はフォローも入れておく。
「僕はエリーとベネの事を信じてるよ。君達が居るから僕は戦えるんだ」
「それはどうも・・・」
「うっわー。イッセイ君凄く軟派な発言だね。顔が熱くなるよ」
明らかに喜んでいる2人。
ベネは素直に笑顔をこっちを向いてくるが、エリーに至っては素っ気ない態度で顔を背けている。2人とも違う反応で可愛いな。
ソフィーも含めて妹って感じだからつい構いたくなっちゃうんだよな。
と、言ってもいつまでも成果の出ない事に付き合わせるのも悪いからな。
今日は街に繰り出そうと思っていたのだ。
「まぁ、でも今日は僕達で街を見学しようと思っているけど、どうかな?」
「お?」
「いいねぇ~。」
地に落ちていたやる気メーターが一瞬で天に登った瞬間だった。2人の顔がパァっと明るくなった。
「じゃあ。折角だから王都とは違う町並みを見学しよう」
「おぉー」
「うん」
元気良く頷く2人。こういう時は年相応だな。
手を繋いで俺達の先頭をかけていくエリーとベネを見てほっこりする。
「・・・イッセイ。父上から話は聞いていたが、想像してたより大人だな」
アレン兄様が苦笑いで話しかけてくる。
そうだ。今日は兄様が色々案内してくれるんだった。もともと兄様に空いてる日を聞いていたのだ。で、兄様に教えてもらいながら街をぶらつこうとしていた。
「あっ、兄様。今日はありがとうございます」
「いや。良いよ。こっちこそ色々連れ回して悪かったね」
「僕は大丈夫ですよ。兄様も仕事ですし気にしないでください」
兄様に小声で話す。
何故か兄様が苦笑いで話し始めた。
「そ、そうか。まぁ、でも2人とも嬉しそうだよな。イッセイを好いてくれているみたいだし、姫の他に2人とも将来を約束しているのか?」
「えっ? 2人は大切な友人ですよ。最近、タメ口で話をしないとダメだと叱られたばかりですが」
「なるほど。天然か・・・。これはあの2人は大変だ」
「え? なんですか」
「いや。独り言だよ」
あれれ? 予想外の反応だなぁ。
・・・まぁいいか。
眼の前に広がる広大な土地と発展と衰退した地域。
良くある都市に見える表と裏の顔だ。
とは言っても、元々この土地は何も無い、だだの野原だったのだそうだ。
それを歴代のウッザー公爵家はここまで発展させたのだから統治能力は相当高かいのだろう。ウッザー公爵家の得意分野は土木と建築だ。
歴史的資料を見て分かったことだが、かなり正確な地籍測量や地質調査といった緻密な調査を行って設計されていたようだ。
初期の頃は数十名で領地を耕しここまで街を発展させたという事だが・・・
今いるこの町並みを見ると凄すぎるだろ・・・。
新しい技法を取り入れており建築素材の新しい開発にも着手しているらしい。
こっそり教えてもらったのが、消耗した建築素材を魔力で修復出来るようにする素材を開発中なんだとか・・・。
それが現実になれば古くなった家なんかも魔力で直せるし、仮に建て替えの時に解体した素材がそのまま使えるって事だ。ファンタジーは建物もファンタジーらしい。
と、言う具合に数代で築いたとは思えない程の発展だ。
証拠のマジックペーパー(動く新聞みたいなものだ)を使った記録媒体を見せてもらった時は思わず『マジか』ってつぶやいてしまった。
それだけでは無い、今はその工事の知識を外に派遣している専門の商会を持っている。なので、この王国の土木建築のほぼ全件に関わっているらしい。
まさかこの世界にゼネコンがあるとは驚きだ。
当然、腕が立てば国内はモチロン国外にも人を派遣する商会になっていく訳で、どうせなら商品も輸出入しようって事で今の規模になったらしい。
そんな訳もあって街は刺激的なモノや新しい産業等で賑わっていた。
・・・
「皆は何処か行きたい場所があるのかい?」
「うーん。大体回ったよね」
「うん。」
両手いっぱいに食べ物を持って美味しそうに、ほうばっている2人。
主にお菓子だが、兄様に今この街で流行りの砂糖を使ったお菓子を紹介してもらった。
と言っても砂糖自体が高級品なのでケーキの様な上品な物はまだ無いそうでいろんな食べ物にまぶして食べるのが一般的なんだとか・・・・。
真新しいのを色々試すのは良いですけど僕はイラナイデス。
今度、砂糖を使った簡単なお菓子でも作ってみるか、という事でこっそり砂糖を購入。
まぁ、大体は見て回ったのでそろそろ買い物はいいかな・・・。
(と言うか割符の内容が底をつきそうなのでそろそろ許して欲しい・・・デス。)
「結構食べたし」
「見たいのも見たしね。私達は大丈夫だよ」
と、言うことで2人は満足してくれた様だ。
じゃ、ちょっと俺に付き合って貰いましょうかね。
「イッセイはどこかあるかい?」
「僕ですか? そうですね。僕は錬金の出来る場所に行きたいです」
「錬金が出来る場所? 品物を売ってる場所じゃなくて」
「はい。折角なのでみんなの分のアクセサリーでも創ろうと思いまして」
「「えっ!?」」
俺が錬金すると言ったらエリーとベネが反応した。
何? どうした。
「ほぅ。結構マメなんだな。よし分かった案内するよ」
「ありがとうございます。アレン兄様」
「イッセイ。大丈夫なの?」
エリーが小声で話てきた。
あの事を気にしているのかな?
「大丈夫。問題ないよ」
俺はエリーに笑顔で答えた。
アレンはこの時、何も知らないとはいえイッセイを案内した事を深く反省する事になる。
・・・・
「ここだ。腕利きの錬金術師が沢山いるからすきな人に声を掛ければ良いよ」
アレン兄様に連れてきてもらったのはこの都で一番有名な工房だ。一階が成果品の販売店になっているらしくお客さんが盛況に入っていた。
俺は工房に行きたい旨を兄様に話すと、
「ハンドメイドを渡すのかイッセイはツウだな」
と、褒めてくれた。
やっぱり兄様もそう思ういますよね。自分で創ったほうが安いし愛着も湧きますよね。
「アレン兄様ありがとうございます。では、エリーとベネはどんなアクセサリーが良いか考えといて」
「「はーい」」
アレン兄様のおかげで工房は出入り自由とまでは行かないまでもある程度見学はさせてもらえる。直接交渉もしてくれるらしいのでいい工場があれば貸してもらおう。
「僕は工房を覗かせてもらって・・・」
工房の奥に入っていく。
俺みたいな子供が入ってくると大抵の職人さんは2パターンの顔をする。
「ちっ。ガキが邪魔すんなよ」 ってタイプと
「坊っちゃん。何かお探しですか?」 ってタイプだ。
そして今まさに後者のタイプの奴に絡まれた。ウザい。
「いえ。皆さんの工場を見せていただきたくて・・・。」
「では! 私の工房へ」
「い、いえ。自分でゆっくりと見ますので・・・」
「それでは日が暮れますよ」
って、俺の手をグイグイと引っ張り始めた。
でた。こう言う人って人の話を聞かずに突き進むからな・・・
どう抵抗しようか迷っていると、
「うっせーな・・・・て、あれ? 坊主・・ちゃん。もしかして、シェルバルト家のご子息の?」
この人は俺を見て一番最初に目を逸らした職人さんのはず。さっきまでしていた拡大鏡みたいなメガネは外して立ち上がっていた。大方騒ぎ出した職人に注意しようと立ち上がったのだろう。
勢いが死んで変なアクセントで喋っていた。
坊主ちゃんって変な言い回しだな。
「僕をご存知なのですか?」
引っ張る職人の手を引き剥がす。
うまく乗っかって逃げよう。
「ワッツさん。私が最初に声を掛けたんだ。じゃまするな!」
どこからどう見ても営業向きの職人さんがワッツさんと呼ばれた職人にまくしたてていた。
「ワシはシェルバルト領の宝石商で働いてた錬金術師ですよ」
「って、無視すんな!!」
しかし、ワッツさんは聞いていなかった。
って、えぇーーーー!
あの時の職人さん!?
ソフィーのプレゼントを造った時、工房を借りた職人さんを思い出した。
あの後も一度だけ借りたんだっけ・・・。
「あのときの職人さんですか? どうしてこんな所に」
「いや・・・あの・・・お客さん?」
俺も懐かしさのあまり声を挙げてしまった。
久しぶりに合って何だか自然に手を取り合ってしまった。
「いやー。懐かしい坊っちゃん大きくなりましたね」
「あれから何年経ってると思ってるんですか。おじさんこそ元気ですか?」
「うぅぅ。グスン。」
お互いに思い出話に花を咲かせていたが、さっきの職人さんを頬っておいたのに気付いた。
しかも、泣いてるし・・・・
「あぁ。コイツは大丈夫ですよ。自分の思い通りにならないと癇癪を起こすんでさぁ。・・・オイ小僧。この御方は神に愛されし錬金術師だ。ここに降臨されただけでも奇跡なんだぞ」
降臨ってなんの話・・・。
「おぉ。貴方がかの有名な神に愛されし錬金術師ですか」
ワッツさんが騒いだおかげで工房の全職員が顔を出してきた。正直に言うと恥ずかしいから止めてほしい。
そんな事は露知らずワッツさんは俺がしたおイタを自分の事のように皆に言い聞かせていた。
ガッツさんがある程度話し終えると皆が目を輝かしながら俺を見ていた。
プレリードックが群れをなして俺を見ている様な感覚だった。
と、言うかそのあだ名すっごいイヤなんですが・・・
「まぁ、何かを作らせていただく予定でしたので僕としても工房をお借りできるのは助かります」
「「「おぉー」」」
職人のみなさんが一斉に騒いだため建物が一瞬揺れた。
お兄ちゃんはまだ何も知らない・・・。
お読みいただきましてありがとうございます。
次話は火曜日の投稿となります。
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