96話 非恋にまつわる物語とその結果ですか?
平成最後の投稿が間話も含め丁度100話となりました。
お読み頂きまして、ありがとうございます。
非恋に走ったとある恋人同士の2人は守護神ガブリエルが作った川に架かる橋の上で逢引を繰り返していた。
そこに居たのは某国の王子と敵国の姫。
追手を差し向けられ、傷ついても愛する人の元へと進む。
王子が橋に着いたときには愛する姫は既に亡骸だった。
王子は神に祈った。
「どうかお願いだ。この我が身は好きにしてくれていい。だが、彼女は、彼女の心を救ってあげて欲しい。私の愛するこの女性を!!」
叫ぶ王子の前に守護神ガブリエルが現れる。
そして、ガブリエルは2人の恋人に永遠の祝福を与えるのであった。
こんな物語がこの国には伝わっている。
その為、王家の婚姻にまつわる儀式は大体この物語を演じる事で縁起を担いでいる。
アレックス司祭(仮)が簡単な説明を合図にオーケストラが悲しい音楽を奏でた。
第一幕の始まりである。
音楽に合わせて壇上の左右からお義兄さんと姉様が壇上へと上がる。
予め壇上がアーチ型の形になっているのは、この場所が婚姻の義を行う場所だからなんだろう。
2人が壇上に上がるとお互いに手を取り合い、愛の言葉を口にする。
アレックス司祭(仮)が承認の口上を口にするとオーケストラが何とも麗しき調べを奏でる。
そして、ステンドガラスが一斉に輝いた。
壇上の目の前に薄っすらと人の形が形成されている。
あら? あれって、ガブリエル様? 神様出張サービスもやっているのか?
俺は、ガブリエル様のサービス精神に感動を覚えていたが、周りはそうでは無かった。確実に混乱し、皆沈黙している。
アレックス司祭(仮)も腰を抜かしていてガブリエル様がサプライズで出てきた事にビックリしているようだった。
オーケストラの皆さんはその皆の気もちを代返するみたいに音で表現する。
ざわざわしたような不安を煽る音楽だ。
よくやるね。っと思ったが、それよりも・・・
神様なのにビビられるって、何だか悲しいね。
で、進行も止まってしまったので姉様達とガブリエル様は無言でお互いに顔を見つめ合ったまま固まっている。
ガブリエル様がチラチラこっちを見て助けを求めてくる。
まぁ、この中でガブリエル様と会話した事あるのって俺くらいだろうからなぁ。
・・・フォローするか。
壇上近くへと移動し頭を下げて声を掛ける。
「守護神ガブリエル。」
俺の声を聞いたガブリエル様は、すぐに振り向き俺を見てホッとしたような表情を浮かべる。
って、あんたも不安だったのかよ!
じゃあ、何で出てきたし・・・。
俺が声を掛けたことで周りのみんなからも驚きと戸惑いの声があがる。
「2人の祝福をしてくれる為に降臨してくださったのですか?」
ガブリエル様はコクコクと頷いた。
あれ? 喋らないの?
俺の思った事は通じる様で、ガブリエル様は口元に手をやって『☓』を作った。
喋れないのかよ・・・。
最初から俺を巻き込むつもりだったのかもしれない。
申し訳ないけどこう言うのは、さっさといなくなってくれたほうが良い。
何でかは知らないけど失ってからのほうが実感が湧くもんだ。
なので、話を進めよう。
「婚約の儀を行うお2人は、ガブリエル様に誓ってください。そうすれば、祝福を授けてくれる。と、おっしゃられてます。」
俺の進行に合わせてガブリエル様は2人に向き直る。
そして、ニッコリと微笑んだ。
こういう時、神様は役者だと思う。
そう思った瞬間、ガブリエル様は俺に向けて睨みを向けてきた。
やべっ。
目を逸すように姉様達を見ると、お義兄さんが姉様の盾になって前に出ているのが好印象だった。
それを見たガブリエル様も同じ事を思って居たのだろう。微笑んでいた。
本当はアレックス司祭(仮)がお互いが2人の約束を結び、承認する。
そうすると結婚の儀の時に神々より祝福を得られる。と言う話だったのだ。
ただのげん担ぎだと思うのだが、今回は本当に加護を受けられそうだ。
「レイモンド=ララ=ガブリエールは宣言する。カレン=ル=シェルバルトを伴侶にすべく式までに王位を受け継ぎたいと思います。」
オーケストラも口上に箔を付ける音楽を奏でた。
この人達はブレないな・・・。
レイモンド様の口上に周りから"おぉ"と言う声が上がる。
周りも復活してきた。
ハードルが上がって姉様は大丈夫かなと思ったが案の定上がっているようだ。しかし、髪の後ろから○んしん○イメェがひょっこり顔を出した。
そんなネタをするおかっぱの芸人を俺も知っている。
どうでもいいか。
○イメェのお陰か自信を取り戻した姉様は輝く笑顔で宣言した。
「私、カレン=ル=シェルバルトは、レイモンド=ララ=ガブリエールを生涯愛する為全力で取り組みます。」
オーケストラが、華やかで若い音楽を奏でる。まるで姉様の感情を表現するかのようだ。
その効果もあってか姉らしい宣言で、場は盛大な拍手と喝采を浴びていた。
ガブリエル様も姉様の言葉に満足したのか、微笑んで何かを口にしていた。
だが、音が出ないので誰も気付かず。皆頭に『?』を浮かべていた。
俺の方に向かって、涙目で口元を主張するガブリエル様。
あっ、読口しろって事ですね。
えぇーっと・・・。わ・れ・が・け・い・あ・い・す・る・こ・ど・も・た・ち・よ・こ・ん・か・い・・・。
なげーよ!!
「・・・・お2人を祝福するそうです。」
待ってましたとばかりにオーケストラが華やかな音を鳴らす。
復活したアレックス司祭(仮)が、
「ここに1つの奇跡が形を生した。」
締めくくってくれた。
天高らかに宣言すると会場は今日一番の大盛り上がりを見せた。
何だか、2人を子供の頃から見ててくっつけば良いなぁ。的な事を言い出し始めたので、適当に切った。
ガブリエル様は話足りないのか不満げな顔をしていたが、拍手喝采を浴びると満足げな顔をして帰っていった。
疲れた・・・。
続きはアレックス司祭(仮)に戻すともとの場所へ帰る。
もとの場所に戻るとベネとソフィーが、
「本物のガブリエル様?」
「イッセイ君はあの方に会ったことがあるんですか?」
と、聞いてきたので内緒にして貰った。
2人は、驚いた顔をしていたけど、
「普段はもっとまともなんだけどね。」
と言ったら非常に驚かれた。
でも、中にはこの婚約を面白くないと思っている人も当然いるようでそこかしこで殺気を感じる。
女性が姉様に向けて殺気を送っているのは流石にツッコめない・・・。が、貴族の大人が姉様に殺気を向けてくるのには同情の余地は無い。
流石にこの場で事を起こす来は無いとは思われる。が、用心に越したことはない。
もっともこんな所で何か事を起こせばお家取り潰しどころでは無いと分かっている人達だからだ。
とりあえずは目に焼き付けて後日殺ろうって事なのかもしれない。
まぁ、俺が気づいたって事は・・・。
「この様な晴れやかな場所で無粋ね。」
「ねー。」
「あっ、あの人知ってるよ。伯爵だったと思う。」
皆にもバレるし、とっくに身バレしていた。
式も順調に進み終わりも近い。
既に帰った貴族も居たくらい、今ここに残っているのは王家に近い人かこれから近付こうとしている人と、
「さっきの伯爵まだ残ってるよ。」
「ちょっとおかしいね。警戒はしておくよ。」
「うん。」
姉様かお義兄さんを狙っている輩だった。
チャンスがあるとすればこの後に皆と挨拶する際、最も接近できる。何かあるならそのタイミングだ。
「では、将来の王妃と王に挨拶を行う。」
俺達は家族関係者の子供なので、多少自由にポジションが取れる。なので挨拶している来賓の後ろ側を取らせて貰う事にした。
姉様が手を差し出すと通る貴族が皆その手に挨拶する。
これは、本来は膝をつき手を取って挨拶する事で確定する挨拶なのだが、まだ普通の貴族である姉には手の甲に立ったまま挨拶している。
中には膝を付く貴族も居るのでその辺は自由らしい。
問題の伯爵の順番がきた。何か起こっては困るので警戒を強くする。
伯爵は跪き姉様から差し出された手に触れた。
その瞬間姉様は苦悶も表情を見せた。
「っ・・・。」
その場で崩れる姉様。
お義兄さんのレイモンドさんが直ぐに抱きかかえる。
あの野郎やりやがった。
俺が直ぐにテーブルに置かれたナイフとフォークを取って実行犯の伯爵の足に投げる。
「ぐはっ!?」
「誰か!! カレンを誰か!」
お義兄さんがグッタリしている姉様を抱きかかえて助けを求めている様だ。ソフィーとミサキさんが既に向かっていてカズハを召喚している。
「ソフィー。その精霊は? いや今はいい。カレンを頼む。」
「レイ。お前の目指す王としての覚悟を見せてもらうぞ。」
レオ叔父さんは伯爵を抱き上げる。
抵抗する気のない伯爵は薄い笑みを浮かべてお義兄さんを見ていた。
「貴様。ウラーギリ伯爵。何を・・・貴様何をしたか解っているのか?」
「クククッ、この毒はこの世でも治すのが困難な猛毒の1つ。下等な人族が死にゆくだけだ。これは貴様らへの宣戦布告の第一歩。我等が神への覇業のな!」
自分の思いを轟々と叫ぶウラーギリ伯爵。
幸せいっぱいだった筈のこの現場は今は一刻を争う戦場と化していた。
父様と母様も姉様へと駆け寄っていた。
ミサキさんが陣頭指揮を取りテーブルの上の物を床に落とすと姉様が運ばれる。
ソフィーがカズハを肩に乗せ姉様に魔法を掛けていた。
エリーとベネッタがソフィーの近くで魔力のサポートをしている。
全てがコマ送りの様にゆっくりと流れていた。
ミサキさんが姉様の腕を取って首を左右に振った。
皆が肩をガックリと落としている。
お義兄さんがウラーギリ伯爵を殴ろうとして止められていた。
「クハハッ。我が神よ聖戦の時は来た。今こそ覇業を・・・そして、裸の王国よ。先程の喜劇と同じく無能な神に媚びるが良い。グフッ・・・」
毒を持っていたのかウラーギリ伯爵が血を吐いて床に倒れた。
えっ? 何これ? なんの冗談だ。
嘘だろ? 嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
頭の中に渦が出来たような感覚を覚える。
目の前の焦点が定まらない。怒りが悲しみが怨みが身体の中で暴れているようだ。
(お前が弱いからこうなった。)
違う。奴等のせいだ。
(奴等? お前が取り逃がした敵だろ?)
奴等は滑稽だ。俺の手だけじゃ足りない。
(あぁ。仲間が悪かったか、運が無かったな。)
違う仲間は・・・
(じゃあ。お前が弱かったから姉は護れなかった?)
・・・・俺のせいだ。
(認めたな?)
あぁ・・・。俺が弱いせいだ。
(クハハ。なら、力を貸してやる。)
俺の中の声が止んだかと思うと意識が飛んだ。
・・・
白い世界に来ていた。俺はそこで水の中に浮いたような感覚を覚えていた。
先程の怒りに任せた感情とは裏腹に今は倦怠感とただただ無関心に囚われていた。
・・・もう、どうでも良いか。
そう思うのは姉様を守れなかった俺の心。その心に語りかけてくる。
--あなたはそれで良いの?
あぁ。もう、何もかも面倒臭い。
--本当に?
もう嫌なんだ。誰かを殺したり、殺されたり。
--あなたのその優しさはとても尊いもの。でもまだ間に合うかもよ?
何が間に合うんだ!! 俺は姉様が死ぬのを目の前で見たんだ!!
--うん。そうだね。彼女は死んだ。
・・・そうだろう。わざわざ思い出せないでくれ!!
--うん。でも君が気づかないともっと大変事になるよ。
俺に地獄を味わえと言うのか・・・。
--地獄かどうかは一度世界を見てからにしたほうが良いと思うよ。
どうあっても寝かせないつもりか?
--そうだね。君は私のためにここまで来てくれたんだよね?
お前は!?
そんなやり取りをしている間に白い世界から追い出された。
「イッセイ君。駄目!!」
ソフィーが俺の手を強く握ってきた。
「!!」
俺。一体何を?
一瞬意識が無くなり途轍もない破壊衝動に駆られた所までは覚えているがその後の意識はない。
妙に頭がスッキリし始める。そして辺りを見て更に驚いた。
天井を見ると黒い雲が見えた。屋根が完全に消し飛んでいたのだ。
床には先程この部屋に居た皆が横たわっていた。
「死んでる・・・のか?」
「死んではいないよ。」
ソフィーが俺の後ろで姉様の頭を撫でていた。
何となくいつもと違う雰囲気を纏っている。
そして、姉様の後ろから、○んしん○イメェがひょっこりと現れて服のシワを直していた。
「イッセイ様。奇跡です。カレン様が・・カレン様が。」
○イメェの必死のセリフの後、死んだと思っていた姉様がピクリと動いた。
「何故? 姉様は死んだ筈だ。」
「それは、この子の力。」
ソフィーが右手を差し出すとその上には小さくなった鳥の様な物が乗っており息も絶え絶えだった。
何となく見覚えがある気がする。
「この子はミサキの本体。本来死にゆく者を救う事は出来ないけど、彼女は例外なの。自分の魂を使う事で死の淵から救えるのよ。」
「えっ、そうなると・・・どうなるんだ?」
話のセオリーで行けばミサキさんは死ぬんだろうが、
ーーバチバチ・・・ボッ。
ソフィーの掌で灰になったミサキさん。
俺が思わず叫びそうになったがソフィーが口の指を立てて『静かに』のジェスチャーをしてきた。
黙って頷き静かに見守ると、
−−メラメラメラ。
灰は再び燃え上がり鳥の形を形成する。
「何だこれ?」
「神獣は死なないよ。ただ、こうやって転生するんだけど数年は子供のままだから戦いなんかには出せないんだ。当然、さっきの様な魔法も使えない。しかし、さっきのはなんだい? 君はそんなに弱い人間だったっけ? お爺さんの葬式の時はもっと毅然としていたでしょ?」
ミサキさんの事と言うより神獣のことをよく知っている。
そして何より俺の爺ちゃんの事を知っているってのは?
まさか、この子は・・・
恐る恐る聞いてみる。
「ま、まさか、鏡か?」
目の前のソフィーは頷いた。
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