⑦
「……ルナシー」
「ほう、やっともう1体の神器も現れたか」
ラルゴはほくそ笑む。
「ライ。ごめんなさい」
「謝るならなんで来た!支部に居ろと言っただろ。いいか、お前は狙われているんだ」
「ライも一緒。私も、戦いたい」
おばあちゃんのためにも。と強い意思を訴える彼女の言葉と目に、彼は嘆息した。
「……死ぬなよ」
「うん。いくよ、アテナ」
ライが業火を放つと同時に、彼女は神器のペンダントから無数の白い羽を発生させる。
「エンジェル・アベンジャー」
彼女が呟くと羽はまるで細切れになったレーザーのようにラルゴに襲いかかる。
しかし、先に届いた業火をアレスの顔に吸収させた彼は、吸い取った炎を吐き出して羽を燃やしつくす。
「リフト・ジャック」
「っ!」
だが彼の背後に回り込んでいたライが彼を空中に浮かせて投げ飛ばした。
「アイス・ エベレスト」
ついでライの魔術で氷山を発生させて身体を貫く。
加えてルナシーのアテナの力、白い羽で追撃した。
「ぐはぁ……ぐっ」
空間移動魔術を使う暇もなく与えられる攻撃に黒い血を吐くラルゴは、身体を貫く氷山を破壊すると、向かいのビルに飛び降りた。
「……さすがに、2体を同時に相手するのは少しきついか」
よろけるラルゴ。彼にトドメを刺そうとする2人の攻撃を吸収し、右掌を掲げた。
するとライのリフト・ジャックのように2人の身体は浮き出し、奥まで吹っ飛ばされた。
「くっ……大丈夫か、ルナシー」
「う、うん……っ!」
砂埃を落としながら起き上がると、彼女は空を見て目を見開いた。
「どうした?」
「……ライ。あれ」
彼女の指差す方向を見ると、先ほどまで空を覆っていた赤い結界魔術が消えていく様子が見えた。
「あれって」
「あぁ。どうやら誰かが敵の結界操縦者を殺したようだ」
よし。と、目の前の敵を倒すべくハデスを構え動き出そうとするライ。
「っ!」
だが、すぐに身体を硬直させた。
対岸のビルにいたはずの魔人、ラルゴの姿が消えていた。
どこかに移動し2人を攻撃するとも思われたが、すでに彼の魔力自体も消えていることに気づく。
「……逃げたか」
「坊ちゃん!ルナシー様!」
「!」
2人が振り返ると、燕尾服を着た背の高い男が彼らの元へやってきた。
「……統。なんでお前」
「申し訳ありません!ルナシー様はお止めしたのですが、隙をつかれてしまいまして……坊ちゃんの専属執事でありながらとんだ失態を」
「そうじゃない。お前、今まで何を」
そこまで言ってライは気づいた。
彼の燕尾服はところどころ擦り切れており、その隙間から見える肌は血で湿っていた。
「……統、まさかお前がやったのか」
ライがすでに元の青々しさを取り戻した空を見ながら問うと、統、もとい藤枝統は微笑む。
「はい。結界を操っていた魔術士は私が倒しました。殺し損ねはしましたが……」
「いやよくやった。さすがだ」
「この藤枝統。天華院家の執事ですから」
乱れた燕尾服を整えお辞儀をしてみせる統に、ライも微笑みを見せた。
「しかし、やったのは私だけではありません」
ほら。と統が街中を指差すと、巨漢魔人を倒しガッツポーズを掲げて喜ぶ特殊捜査局の魔術士らや生き残った警官らの姿が見えた。
その傍には破壊された建物や抉られた道路、ひっくり返り燃えたパトカーが対比して映る。
「……多くの犠牲を出したな」
「えぇ。尊い命でした。ですがこの街は救われ、魔人たちを倒せました」
「俺とお前は1人ずつ逃したがな」
「そうですね。坊ちゃんとルナシー様が無事で何よりですが」
彼の言葉に、ライはルナシーを見やる。
彼女は無表情で街を眺めていた。
彼はそんな彼女の頭をポンポンと優しく叩くと、再び街を見つめる。
「これで公になってしまったな。魔人も、魔術士も」
「……そうですね。これから、世界のあり方は少し変わるかもしれません」
統は答えると、ライを見る。
「坊ちゃん。日本へ戻りましょう」
「……紅愛か」
「それともう1人、新人の神器使いの少年が。奴らとの戦いはまだ終わっていません。ポセイドンを持ったシャルライトは結局ニューヨークでは姿を見せませんでした」
次彼らがいく場所は、間違いなく日本です。と強く言い切る彼の言葉に、ライは静かに瞳を閉じて頷いた。




