③
ーーニューヨーク、セントラルパーク
マンハッタン最大の面積を誇るこの公園の中央部にある巨大貯水池、ジャクリーン・ケネディ・オナシス貯水池。
その地下深くに拠点を構える魔術協会ニューヨーク支部は、今まさに混乱状態を迎えていた。
「ユニオン・スクエアで起きた爆発事件だが、巨大な赤い魔力反応を探知している。ただちに特殊捜査局の連中を現場に派遣するんだ!これはただのテロじゃない。魔人による襲撃だ」
ニューヨーク支部の敏腕副支部長、ジャスティン・ジェラート。
彼は29歳という若さで童顔ながら、その鍛え抜かれた肉体と自信に満ちた強力な言動で部下に次々と指示を与える。
「副支部長!爆発現場周辺にて民衆を襲う上級魔人を確認。現在、偶然駆け付けていたニューヨーク市警が交戦中とのことです」
「なに、すぐに追い返せ!奴らの出る幕じゃない。これはただのテロとは違うんだぞ」
「副支部長、州兵も戦闘機と戦車を携えマンハッタンへ向かっています。どうやらこちらの指示とは別に動いているようで」
「やめさせろ!マンハッタンはいま魔人の強力な結界が張られてる。粉微塵になるぞ」
ジャスティンはスマホを耳に当てながら支部内を練り歩く。両手を部下への指示に使っているため、魔術で空中に浮かせている状態だ。
「いいか。ホワイトハウスには迅速に事態を伝え、大統領をエアフォースワンで西海岸に避難させろ。念のため飛行機から12時間は出させるな。……下手に指示されても、魔人への知識を持たないアレでは事態を悪化させるだけだからな」
「はい!」
「あのっ」
次々と彼の指示でテキパキと応答し動く部下たちの中、1人の若い女は困惑した様子で彼に問うた。
「……なんだ、新人か?」
「はい。今月支部サポート局に配属された、ジェシカ・ワトソンです」
ジェシカは丸めがねに白衣といった典型的な学者の出で立ちで、その長く伸びた金髪を揺らし青目をパチクリさせる。
「あぁ確か昨夜日本から来た客人の保護を任せていたな」
「はい。ですが、あの、その……」
「なんだ?はっきりいうんだ」
断固として曖昧さを許さないその瞳にジェシカは根負けした。
「じ、実は、いなくなったんです。女の子の方はいたんですけど、男の子は、どこにも……」
「でも、この支部の最深部から出れるはずないのに、強力な結界だってあるし、監視の魔術士の方もいたのに。本当に、すみません」
怒られる覚悟で頭を下げるが、予想外にも、ジャスティンは、あぁ。と納得したように頷いた。
「……爆発現場にいったな」
「え?」
「あの子はただの客人ではないからな。なぜ、彼を、いや彼らを最もセキュリティの高い最深部に置いて魔術士の監視までつけたかわかるか?」
ジェシカは頭をふる。
ジャスティンは何度も頷くと。
「君は、たしか魔力を持たない子だな。ハーバードを経てニューヨーク支部サポート局に入局。元々はFBIの所属だったらしいが、捜査力よりカウンセリング力を買われてここに移ったそうだな」
「はい。そうですけど」
「私はブラウン卒で経営学を学んでいたが魔術士だったからここにきた。ジェシカ、魔術や魔力についての知識は?」
「えぇと。入局前にここの図書館で教科書を一冊」
「……なるほどな。ついてくるんだ」
彼は顎に手を添え自慢の顎ヒゲを撫でると、彼女を別室に案内する。




