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その瞬間。


スッと、ドアノブに掛けた彼のゴツゴツした黒い手の上に、細くて白い手が置かれる。


「うわぁ!!なんだ!」

「出ちゃダメでしょー」

「っ!!」


熱い物に触れたかのようにビクリと身体を震わせ振り向けば、今の今までボンネットに乗って彼を誘惑していた女が助手席に座っていた。


「んふふ」

「ななななんだお前は!さっきまで外にそこにいたじゃねぇか!なんで中に……ロックもしてたのに!!」


女は答えず、妖艶で怪しげな笑みを向ける。


「っ!おおおい寄るなクソ!逮捕するぞ!」

「んふ。いいことしましょ!おまわりさん」


近づく女の身体。彼は逃げようと何度もドアノブを引くも一向に開かない。


「え?な、なんでだなんで……っくそ」


ジェイコブは腰に巻いたホルスターから拳銃を取り出すと銃口を女に向けた。


もう片方の手で、女に見えないよう銃のホルスターの横に刺した無線機のスイッチを入れる。


「離れろ。……撃つぞ」

「んふふ。いいよ」


撃ってみて。と変わらない笑顔で答える女に更に恐怖する彼は引き金を持つ手を震わせる。


「いいか最後だ。離れ」


グサリ。言葉を言い終える前に、女は片腕をサーベルに変形させて彼の顔を貫いた。


「ぐはぁ。……なんだ、この……バケモノが」

「煩い」


最後の一撃を心臓に喰らわせると、彼の動きは止まり、その場に倒れた。


「んふふ……うん?」


死んだジェイコブの身体を物色しようと彼の遺体を動かした、女はふと気がつく。


「……この男」


女はスイッチがオンになった無線機を彼の身体から無理矢理引き剥がすと、素手で潰した。


しばらく真顔になるも、残骸と化した無線機を放り投げ再び笑う。


「まぁいいっか。んふふ。じゃあ、頂きます」



ジェイコブの生命エネルギーと血液を貪り尽くした女がその血だらけの口を拭いて車から出ると、木の陰に2人の男が立っていた。


「……ラージャ。遊びすぎだ」

「ごめーんラルゴ隊長ー!でも、しょうがないから許して。んふふ。だって美味しいんだもん。それに、人間の男って面白いんだから。ちょっと脂肪のついた胸見せるだけで隙だらけ。ホント笑える。ただの膨らみ。ただの脂肪なのに」


女ことラージャの言葉に、ラルゴと呼ばれた男は嘆息する。


彼はパーマの掛かった紫色のミディアムヘアを手で梳くと、その手を腰にあてる。


彼の左頬には、彼女と同じタトゥーが刻まれている。


「……とりあえず、早く始めろ」

「はーい!」


元気よく答えたラージャは、パトカーの車体に手を触れた。


すると、パトカーの地面に巨大な赤い魔術陣が広がった。


「よし。ラージャ。俺たちは移動するぞ。ベザスタも島中に結界を張り終わるころだ」

「んふふ、ホントにやっちゃうの?」

「あぁ。……グロッグ。後は頼んだぞ」


ラルゴの言葉に、彼の背後にいるスキンヘッドのグロッグはその巨漢を奮い立たせ頷く。


「任せてくれ隊長。……とにかく暴れればいいんだよな」

「そうだ。アレが発動したら、巨人化して好きなだけ暴れろ。この島はもうお前の遊び場だ」


グロッグはニンマリと笑顔を浮かべると、ラルゴらと同じタトゥーの入った岩のような左拳を握りしめる。


「……よし、いくぞ」

「うん!」


ラルゴとラージャが空間移動魔術でその場を後にすると、即座に魔術陣が光って大きな爆発を起こした。



爆発を起こしたユニオン・スクエアから1.5km北にある摩天楼、エンパイアステートビルの頂上付近に移動した2人は、大きな黒煙が上がる下界を見つめる。


「いい眺めだな」

「隊長。結界をマンハッタン全土に張り終わった」

「ご苦労だベザスタ。この島にやってくる人間どもはお前の結界が殲滅してやれ」

「はい」


ラルゴの言葉に、あご髭を蓄えた筋肉質の男ことベザスタは、オールバックにセットされた赤い頭を深々と下げる。


黒煙を眺めながらピンク色の髪を風に靡かせるラージャは口を歪めた。


「ラルゴ。さっきの人間、死ぬ前に助け呼んでたよ」


ラルゴは微笑む。


「いいじゃないか。徹底的に呼び寄せ、徹底的に壊してやろう。人間共とこの世界を」


彼は楽しげに呟くと、ジャケットの懐から懐中時計を取り出す。


紫色の目を細めると。


「……奴は必ずここへくる。奴から神器を奪い、シャルライトと共に、この世界とデルスパルタ帝国、いやノックスを我らのものにするのだ」


そう言ってマンハッタンの街を睨んだ。


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