①
ーーアメリカ、ニューヨーク。
高層ビル群の林立するマンハッタン島。
その中南部に位置する、ミッドタウンエリアの14丁目から17丁目に渡って広がる公園、ユニオンスクエア。
日曜日の昼下がり、公園北部では青空市場ことグリーンマーケットが開かれ多くの人々で賑わう。
その東端を走る通り沿いに、一台のパトカーが停まっていた。
「やっぱこの味だな!そしてこの曲!」
通りを挟んで公園とは反対側にあるドーナツ屋、ダーキンドーナツで買った好物のチョコドーナツを頬張りながら、車内でお気に入りのレディ・ガガを聴く黒人の男の名は、ジェイコブ。
ニューヨーク市警の中年警官である彼は、恒例のパトロールの合間に休憩を取っていた。
至福の時間。チョコドーナツをブラックコーヒーで流し込むと、満面の笑みを浮かべる。
「んん?ふむ。……あむっ」
2つ目のドーナツに手を掛ける瞬間。ぷっくりと膨らむ腹を一目見るも、気にせず大きな口に放り込んだ。
咀嚼の音と鼻歌をBGMに合わせる。
面倒な事件もなく、この上ないほど彼は上機嫌であった。
警察無線では、ハーレム地区のコンビニで発生した強盗事件について伝えていた。
店主を撃ってレジの金を奪った犯人はサウスブロンクス方面に逃走中であり、包囲して捕まえるよう呼び掛けていた。
「あっちは相変わらず治安わりーな。……ま、ミッドタウンなんて昼間は観光客か家族連ればっかだからな。あってもスリくらいだ」
楽なもんよ。と2つ目のドーナツも平らげらジェイコブは、3つ目に手を掛けようとして動きを止めた。
「……ん?」
ジェイコブは目を怪訝そうに目を細めた
なんと車の目の前に女が立っており、フロントガラス越しに笑顔で手を振っていた。
水色のホットパンツから肉感的な生足を出し、ハートが描かれた白のTシャツに黒のパーカーを羽織りフードを被った、アーティスティックな出で立ちの女。
Tシャツから浮き出た豊満な胸が彼女の動きに合わせ揺れる。
「おぉ……ほぉ……」
感嘆の声を上げるジェイコブ。
思わず手を振り返す。
フードからはピンク色のロングヘアがはみ出しており、左腿には幾何学模様とヘビを模したタトゥーが顔を出している。
その派手さが更に彼の心を射止めた。
女はその様子にニヤリと唇を歪めると、2歩3歩と近づき、突き出すように尻をボンネットに乗せて身を乗り出した。
「わぁお!……っととイカンイカン。ストリッパーか?こんな昼間から警官を挑発しやがって」
思わず傾きそうになる気持ちを理性で抑え、落ち着きを取り戻すためにコーヒーを一口飲む。
「よし。注意してやらねばな。クソ売女め」
舌打ちをするジェイコブ。
いざ外に出ようと、彼はカップを置いて扉に手を掛けた。




