④
「こちらで、少々お待ちください」
数多の本が置かれた書物室に到着すると、仲瀬は一行を抑え奥の本棚へ向かった。
「皆様。そのまま離れていてください」
彼が注意を促し1冊の本押し込むと、大きな音を立てて本棚が縦に割れる。
2重3重。からくりのように壁が開くと、やがて石造りの廊下が現れた。
両サイドの壁には等間隔で松明が取り付けられており、どこまでも続く道を照らす。
「わお」
「……それでは、いきましょう」
薄気味悪い石造りの廊下を歩く一行は、円形の広場に到着した。
仲瀬は広場の中心で立ち止まると、振り返る。
「少々揺れますので、壁にある取っ手にお捕まりください」
彼の言葉にみな大人しく捕まると、仲瀬は白手袋を嵌めた右手を床に置いた。
興奮する薙沙や湊の一方、希一は声もなく顔を伏せている。
フェリアスと紅愛は何食わぬ顔で立っている。
「それでは、後は頼みましたよ。フェリアス」
「わかってますよ。おじさま」
ブーヴ。そう仲瀬が呟くと青い魔術陣が床一面に現れ、空間が大きく揺れた。
「なっ?!」
高速エレベーターにでも乗ったかのような衝撃に耐えながら、彼らは目を閉じた。
「ついたぞ」
フェリアスの言葉に一行が目を開くと、先ほどの広場より遥かに広大な空間が現れた。
「ここは」
「黒帝院家の地下闘技場よ、湊。ここで魔術の訓練をするわ。……希一、そんな暗い顔しないでちょうだい」
「別に、してねぇよ」
「この間を思い出してウズウズするだろ、少年」
ニヤニヤするフェリアスを希一は無言で睨むが、彼女は気にも留めず、アジャスト。と呟いて闘技場の明かりを調整した。
明るくなると、闘技場の奥にピッチングマシンのような機械が2つ現れた。
「……これはいったい」
「ダミー魔人発生機だ。魔術士が訓練で使う」
希一の言葉にフェリアスは答えると、赤い手帳を紅愛を除く4人に渡す。
「魔術手帳だ。さっき紅愛がいったRatpigの魔術陣が刻まれているから、必要な時に取り出して使うんだ」
「さて。これからお前たちには、ダミー魔人と戦ってもらう。希一、お前はまず見ていろ」
フェリアスは彼を闘技場の後ろへ誘導すると、彼を椅子に座らせる。隣には紅愛が腰掛けた。
紅愛は足を組み、傍の彼を見やる。
「希一、みんなの魔術兵器と魔術の使い方、よく見ておきなさい」
「あぁ」
「あとであなたのも見せてもらうわ。この間渡した魔術書、呼んで勉強してきたでしょ」
「もちろんだ、後で見せてやるよ」
「その意気よ。……フェリアス、始めて」
紅愛の指示でフェリアスが指を鳴らすと、二つのダミー魔人発生器から二発ずつ光が放たれた。
光は魔人の形へ変わり、4体の下級魔人となって飛びかかる。
「ウッディー!……フォース・アラウンド」
まずは湊が魔術兵器の斧を呼び出すと、斧周りの地面を浮かせて飛びかかる魔人に攻撃した。
前の2体それぞれに直撃するも、魔人は口から炎を放つ。
「スコアラル」
すかさず凛が伸ばしきった黒髪を靡かせ、コルトガバメントによく似た拳銃を呼び出した。
日常で見せるほんわかした雰囲気とは異なり、殺し屋のように鋭い瞳で狙いを定める。
「ゲイザー・ショット」
凛の言葉と共に銃弾が2発放たれると、銃弾の脇から幾多ものウォーターレーザーがまるで間欠泉のように発射された。
ウォーターレーザーは炎を打ち消すと、前の2体の魔人の身体を貫いた。
倒れ、消える魔人の影から更に2体の魔人が現れ牙を剥く。
「ラウラ!」
薙沙が叫ぶと、彼女の片手に黄色の手袋が現れ、その上に大きな鷹が止まった。
「いっけー!」
彼女がそういって腕を振ると、ラウラと呼ばれた大鷹は翼を広げて空中を飛び、魔人の頭上を取る。
「ラウラ、アメイジング・ツイスター!」
彼女の指示にラウラは翼を小刻みに振ると、巨大な竜巻を発生させた。
竜巻は猛スピードで降下し、残る2体を巻き込んだ。
風に身体を切られ、ボロボロになりながら竜巻の中で翻弄された魔人はやがて空中に放り出された。
「湊!」
「あぁ」
薙沙の呼びかけに彼は頷き、構える。
「おらぁ!」
ちょうど魔人が湊の元へ落ちてくるタイミングで、彼はウッディーを思い切り振り回し2体もろとも叩きつぶした。
断末魔とともに、残る魔人も消える。




