③
「ようこそおいでくださいました」
「いらっしゃいませ!」
屋敷に入ると、
老齢な執事の挨拶を皮切りに、レッドカーペットを挟むように並ぶ燕尾服集団とメイド服集団が頭を下げ、希一らを迎えた。
「おぉーイケメン執事にかわいいメイドさんがいっぱいだぁ……」
「すげぇな……」
「うん。緊張する」
薙沙ら初訪問の3人は、セレブリティ溢れる光景に完全に圧倒されていた。
「仲瀬執事長。あとはお願い致します」
「わかった。お前は下のアレの準備を整えておくんだ」
「かしこまりました。……して、お嬢様はどちらに?」
「客間だ。あとは任せろ」
「はい」
老齢執事こと、仲瀬は耳打ちする律の肩を叩くと前に出た。
律が玄関ホールを去るのを見送り、口を開く。
「それでは皆様。ここからは私、執事長の仲瀬ご案内しますのでこちらへどうぞ。大理石の床は滑り易いため、カーペットの上をお歩き下さい」
4人が通された客間には、端と端で声が聞こえないほど長いダイニングテーブルがあった。
天井にはいくつもの巨大なシャンデリアがぶら下がっており、部屋全体にキラキラとした印象を与えている。
「……みんな、待たせたわね」
4人が各々席について黒帝院家製の紅茶やケーキを食べていると、魔術部部長、紅愛が堂々とした足取りで現れた。
その手には、希一を屋敷へ強制連行したときにも見せた赤い手帳を持っている。
「休日にわざわざ集まってもらったのは他でもない。この間の歓迎会の後に話した通り、今日は訓練よ。希一の魔術訓練のため。そして、お互いの魔術をよく知るためよ。希一以外も今回を上手く使って新たに吸収して」」
彼女は手帳を開くと、ページに掌をあてる。
青く光ったと同時に再び掌を離すと、手帳から缶ジュースのようなものが現れた。
青と白のツートンカラーの缶表面には、デフォルメされたネズミと豚がハイタッチしている様子が描かれている。
「これはRatpig。魔力補強剤よ。今日は1日みっちり訓練するからみんないつも以上に魔力を消費すると思うわ。魔力が低下すればパフォーマンスも悪くなり、その後のコンディションにも影響を及ぼす。一区切りついたら飲みなさい」
これは後で渡すわ。と付け足すと、ドリンクをテーブルの上に置いた。
「で、今日の訓練を監修する教官だけど……」
「私か?」
「……ちょっとフェリアス。あなたねぇ」
傍からひょっこりと現れて言葉を遮るフェリアスに、紅愛は苛つきで眉をひそめつつも咳払いでごまかす。
げっ。と思わず希一が声を漏らした。
「まぁいいわ。この褐色のナイスバディ、フェリアス・ベリーがあなたたちの教官を務めるわ。黒帝院家の護衛隊隊長だけど、元は魔術協会ニューヨーク支部特殊捜査局局長。戦闘と暗殺のプロよ」
「紅愛の紹介に預かったフェリアスだ。今日はみっちりお前たちの魔術と戦い方を見てやる。……少年。久しぶりだな」
怪しげな笑みとウィンクを飛ばす彼女に、希一の顔は引き攣る。
「フェリアス。希一をナンパするのは後にしてちょうだい。……みんな、お茶タイムはおしまい。そろそろ移動するわよ」
紅愛が仕切ると、彼女は仲瀬を呼んだ。
「皆様。それでは私についてきてください」
仲瀬は客間の奥に設置された扉を開くと、長い廊下を歩き始めた。
数々の画家の絵が飾られた廊下を、薙沙たちは興味津々にキョロキョロしながら進む。
遭遇する使用人らは、みな一様に仰々しく頭を下げている。
偉くなった気分。と背後で浮かれる薙沙に、希一は、やれやれと呆れ顔で嘆息した。




