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「詰め、甘いんじゃねえか?」


希一はニヤリと口角を吊り上げると、へーラーの刃先を掌にかざして神器を消した。


バツが悪そうに視線をそらす男に、だけど。と希一は切り出す。


「参考にはなったぜ。……だから、初心者の俺に教えてくれよ。魔術士としての魔人との戦い方を」


まっすぐとした視線に射抜かれた男は、気が抜けたように息を漏らし、嘆息した。


「……早坂湊(ハヤサカソウ)だ。湊でいい。名前は?」

「希一。青宮希一だ。よろしく」

「あぁ。……っと」


湊は右腕に身につけた腕時計を見やると、金髪の生えた頭皮をポリポリと掻く。


「思った以上に時間かかっちまったな……」

「早坂くん!」


声の先に2人が目を向けると、まっすぐで艶やかな黒髪を腰下まで伸ばした、いわゆる黒髪ロングの女の子が立っていた。彼女も希一と同じ学校の制服を着ている。


「あぁ姫宮。そっち、もう終わったのか」

「うん。早坂くん、ちょっと遅いよ」

「……すまん」


もうっ。と、姫宮と呼ばれた少女はブレザーのジャケット越しにくびれの浮かぶ腰に手をあて嘆息する。豊満な美乳が僅かに揺れた。


「……ん?」


希一の存在に気づいた少女はチラリと吊り上がった大きな黒目を向ける。ドキっと胸が高鳴るのを彼は感じた。


「…………」

「……なんだ」


じっくりと観察するように見つめた彼女は、やがて納得したように頷く。


希一に緊張が走った。


「……魔人、じゃないみたいでよかった」

「お、おう、俺も魔術士だ。人間だぞ」

「ごめんね。魔人でも上級クラスになると見た目も知能も人間と変わらないレベルだから。念のため」

「そうなのか」

「……あっ」

「ん?」


少女の視線が血の染みた右太ももに向けられていることに気づいた希一は、あぁ。と軽く笑みを漏らす。


「さっき隙を突かれてやられたんだよ。大丈夫だ」

「ダメ。ちょっとそこに寝て」

「え?お、おう」


何とも言えない彼女の言葉の強制力に、希一は困惑しつつも歩道の上に横になる。


「なぁ。いったい何するつもりなんだ」

「いいから黙って寝てろ」


希一。と呼んで彼の元へ近寄る湊は、不敵な笑みを浮かべると更に続けた。


「姫宮の医療魔術は救護魔術士並みだ。寝っ転がってりゃすぐにその傷を治してくれる」

「……医療、魔術」


どぎまぎさせつつ、希一はブレザーのジャケットを脱いでシャツの袖のボタンを外す少女を見つめる。


「少し、動かないでね。ええと……」

「希一だ。お前は確か、姫宮?」

「うん。姫宮凛(ヒメミヤリン)……希一くん、痛むけど我慢してね」

「おう。わかった」


希一がそういって口を閉じると、凛は両手を彼の患部の上にかざす。


「キュアー・キュアー」


彼女がそう呟くと、魔術陣が現れて淡い光が傷口を包み込んだ。


「ぐっ……」

「ごめんね。もうすぐだから」

「あぁ。大丈夫だ」


みるみるうちに光が傷を塞ぎ、垂れた血液は綺麗に吸い取られる。その光景はまるで神の御業であった。


「もう動いて大丈夫」

「ありがとう凛。……すげぇ、完璧に治ってる」


治された右太腿を両手で挟み揉みながら、彼はその感触を確かめる。少しの切れ目さえなく丁寧に塞がれていた。


「幸い大腿動脈も骨も外れてたから、すぐに治せた。危なかったよ」

「そうか。ほんと、ありがとな」

「ううん。これが私の役目だから」


彼女の柔和な笑みに希一は少し頬を赤らめたが、恥ずかしくて顔をそらす。


パンっと湊が手を叩いた。


「よし2人とも、そろそろここを出るぞ。歩道を渡るからついてこいよ」


2人は頷くと、彼に続いて横断歩道を渡る。

対岸まで渡りきると、湊は振り返った。


「元どおりにするからな」


そういって指を鳴らすと、空間を覆っていた魔術陣が消える。

やがて、通りには車の排気音や人ごみが復活した。


希一は目を見張り、口をあんぐりさせる。

魔術というものの不可解さが、身に染みて感じられた。


「なぁ。お前らはいったい」


希一の言葉に、2人は微笑む。


「この辺一体の自警団みたいなもんだ。魔術部って名前で活動してる」

「活動拠点はうちの高校にあるの。……もちろん、表沙汰にはされていないけど」

「魔術部……」


まだ2人の言っていることが飲み込めないでいた。

そんな希一を見かねて湊が彼の肩を叩く。


「ま、ちゃんと紹介してやるから後で部室にこいよ。とりあえず学校だ」


希一は時計を見る。


「げっ」

「もう一限は始まってるな。俺たちは空間移動魔術が使えないから、大人しく電車でいくしかねぇな」

「2人とも、早く」


希一と湊は頷く。

3人は駅に向けて歩き出した。




同時刻。


「…………」


雑居ビルの屋上から、駅に向かう彼らを見送る一つの影があった。


フードで顔を隠したその者は、手袋を嵌めた片手を広告に置き、膝まで伸びたコートの裾を風になびかせる。わずかにフードからはみ出す藍色の髪も波打つ。


「……神器。それにあの翼は」


呟き、微かに微笑む。


「やっと見つけた。……絶対に捕まえてみせる」


強い意志を口にしたその者が広告に置いた手に力を込めると、巨大な広告がバラバラになって壊れる。


フードから覗かせる唇からは、鋭い八重歯を覗かせていた。

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