③
ーー道中。
新緑に満ちた並木通りを歩きながら、彼は自分の現状について考えていた。
「(魔力とやらが覚醒して、魔術が使えるようになった。普通の人間ができないことが、今の俺にはできる)」
握った自らの拳を見つめる。
この手で、あの刀を握っていた実感が蘇った。
「……にしても、他の魔術はどうやったら使えんだよ。全然わかんねー。おれ、いま刀しかだせねぇじゃん」
一瞬、彼は身体に電撃が走ったのを感じた。
「嘘うそ!だせて嬉しいです。……でも、俺もフェリアスさんが使ってたテレポートみたいな魔術とか使ってみてーなー」
『まだあなたには難しいと思うわ』
「(……ナチュラルに話しかけてくんのやめろよ、へーラー)」
希一は訝しげに答えるが、彼女は気にせず続ける。
『わからないことがあれば、いつでもこのお姉さんが相談に乗るわよ。まだまだ何も知らないでしょ』
「(なら、さっきのおれの願望に答えてくれよ)」
希一の言葉に、へーラーは微笑む。
『そうね。使える魔術を増やしたければ、学ぶことね』
「(学ぶ?どうやって)」
『医者も科学者も。……いつの世も、誰もが書物を読んでその知識をつけてきたでしょ。魔術士には魔術書よ』
「(それを読んだら使えるのか?)」
『……いいえ。魔術書はあくまで魔術の原理、出し方を知るためのもの。実際使いこなすためには鍛錬が必要よ。でもともかくは知識から』
「(知識……)」
『そうね、紅愛ちゃんから借りたら?』
「(紅愛から?)」
『あの子黒帝院家のお嬢様でしょ?多分これからのことも考えてたんまり貸してくれるんじゃない?』
「(そうだな。メッセージ送ってみるか。……つうか、あいつんちはなんなんだ?昨日はなんだかんだ、端と端で声が聞こえないくらい広いダイニングに連れてかれて、黒帝院銘柄のアールグレイとお茶菓子でもてなされて終わったけど)」
大通りの信号に差し掛かり、希一は立ち止まった。走り出す車の排気音と共に彼女は答える。
『 1000年以上続く名家。日本2大魔術一族の1つよ。貴族みたいなものね。魔人と戦い、長きに渡りこの国を護っているわ。日本の魔術界の中心的組織である魔術協会東京支部のスポンサーでもある』
「(魔術一族……?)」
『魔術士で構成された一族のこと。魔人と戦うためにあり、この国において古くは将軍の護衛として、時には暗殺者としてもその活躍を見せていたそうよ。罪人を裁く役目も果たしてたとか。戦時中は最終兵器としても。……まぁ、今は一般家庭とそれほど変わらない一族も多いわ』
彼女のところは別格ね。と付け足すへーラーの言葉に希一は大きく頷く。
『話を戻すけど、代々国の認める一族としての役目を務めてきた黒帝院家の者は、みな強大な魔力を持つと言われているの』
「(……紅愛もか?)」
『ええ。それに彼女も特別な存在よ。あなたのように、特別な魔力を持ってる』
「(ということは、神器もか)」
『……近々拝めることを楽しみにしてるわ
。ふふ。手合わせしたい』
「(お前な)」
やる気満々なへーラーに希一は苦笑する。
歩行者信号が青に変わり、傍のサラリーマンやOLと共に希一は再び歩き出す。
その時。
「っ!!なんだ」
大きな地響きが彼の耳をつんざいた。
視界がボヤけ足元がふらつく。
倒れないよう必死で耐えるとやがてふらつきもボヤけも消えたが、それだけでなく周りの一切の音も消えていた。
広い横断歩道に、人の姿も、排気音をかき鳴らす自動車もない。
気づけば、青空が赤い幾何学模様によって覆い尽くされている。
彼が立ち尽くすと、ふいに黒い影が目の前に現れた。
「(……あれは)」
『魔人よ。希一、私を呼んで』




