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PROLOGUE

古の時代から、地球の各地には"魔力"と呼ばれる特別な力をその身に宿す人間が存在した。


そのものたちは魔力を使って複雑な方式の集まりである"魔術陣"を作りだし、それを通して"魔術"と呼ばれる不可思議な業を発動させた。

いわゆる"魔術士"の誕生である。


魔術士たちは、時に民衆を支配する王の助手として、また時に貧民を支える救世主として力を発揮し、人々に崇められ恐れられた。


そして今から3000年以上前。


異世界ノックスから同じように魔術を操る生物"魔人"がやってきて、古代ギリシャを襲った。


彼らは畜生のようなものから人間と違わない見た目のものまで様々だったが、共通して闇のような漆黒の血をその身に流していた。


地球の侵略を試みる彼らに対抗すべく、ギリシャの人々は魔術士を駆使して壮絶な戦いを繰り広げた。


一方で、力を持たない民衆は神話の神に祈りを捧げ、人類勝利のためにただひたすらに天を仰いだ。


だが戦いにより多くの赤い血が流され、街は壊滅の危機に瀕した。


長きに渡る戦いが続いたある時。

科学者たちは死に掛けている魔人を発見し、持ち帰ることに成功する。


彼らは、勝てない要因が魔人の血液にあるのではと分析し、実験として当時のギリシャに捕らえられていた奴隷たちに魔人の黒い血液を注入した。


多くが魔人の血液に身体を侵食され死亡したが、とある12人の奴隷たちは元々魔力を保持していたために侵食されずに生きながらえることができた。



科学者たちが国の王にその事実を伝えると、王は鍛えて戦力にすべく、12人の奴隷たちを闘技場に連れ出し南方の国で捕まえた虎と戦わせた。


だが戦いの瞬間。天候が急に悪くなり、凄まじい轟音と共に雷が闘技場に落ちた。


雷は奴隷たちを直撃した。

彼らは死んだかと思われた。


しかし思わぬことに、12人全員がまるで寝起きのように難なく立ち上がったのである。


そして、なんと彼らに背中には天使のような巨大な翼が生えており、手には仰々しい武器を携えていた。


その日から彼らは12人の魔術士となり、奴隷から解放された。


彼らはアテネの丘にそびえ立つ神殿に登り自らの根城とすると、魔人たちを呼び寄せ手に入れた力で一掃した。


数千、数万とも言われる魔人が殲滅され、戦争は終結を迎えた。人類は勝利を手にしたのだ。


12人の魔術士たちは後に伝説となり、この話は後世まで語り継がれた。


彼らの手に入れた力は"神器"と呼ばれ、そして……。



……後に、12体のうちの半分を、魔人に奪われることとなる。




時は巡り、現代。


ーーイギリス、ロンドン。


例によって鉛を張ったような曇り空のこの街で、今まさに悲劇が起ころうとしていた。


中心地のシティオブロンドンの傍らを流れる、テムズ川の地下深く。


蝋燭の灯りのみを頼りに、荘厳な大広間では政治家や軍人、あらゆる機関のトップが1人の老婆の前に集結していた。


「ただいまゲートを締め切り、最終防護魔術を掛けました。現在この場には招待されたものと協会メンバー、一部信者以外おりません。なお、終了まで出ることもできないように措置完了致しました」


ミセス・エリザベス。と全身を漆黒のローブで覆った男が耳打ちすると、玉座に座る老婆は静かに深く頷いた。


「……それでは、始めるかの」


そう呟くと、老婆はいくつもの指輪や腕輪がついた右手を天井へ掲げた。

すると掌に青い幾何学模様が浮かび、そのまま群衆へ向ける。


「ダウン・テック」


次の瞬間。

幾何学模様から電気が放たれたかと思えば、大広間の奥の蝋燭の火まで波打つほどの衝撃波が走り、群衆の持つスマホの画面が次々と電源を落とした。


「なっ………!?」

「諸君、これより全ての電子機器の電源はお切り願いたい。……と言ってもつける者は必ずいるのでこうさせて貰った。ご了承頂きたい」


驚く群衆を遮るようにミセス・エリザベスは言い放つ。加齢に伴い弱った身体とは裏腹に、彼女の声は強く、逞しく、群衆の誰一人にも反論させぬ勢いがあった。


さて。

と切り出した彼女は、今度は左手を掲げた。


「アジャスト」


蝋燭の火が火力を増し、大広間の灯りは彼女の顔がはっきり見えるほどに力を強める。鷹のように鋭く、大きく開いた紫色の瞳の中に灯りが揺れる。


「皆にこの魔術協会本部へ集まってもらったのは他でもない。……予言が出たのじゃ」


最後の一言にざわめきが広がった。


しかし、電子機器を全て封じられた今、頼れるのは己の耳だけという状況で皆は神経を研ぎ澄ます。


「昨今また魔人たちがその勢力を広げてきておることは知っているじゃろう。先月はパリ支部のあるモンマルトル付近で魔術士が襲撃され、一般市民と旅行者も巻き込まれた。尊き命が65も失われた。……表向きは爆弾テロとなっているがの」


トリコロールの旗を掲げ彼女の目の前に座るパリ支部部員らは、悔しさで唇を噛み締める。

ミセス・エリザベスは彼らを一瞥するとさらに続ける。


「許し難き事態じゃ。ここ20年は一切なかったことが、再び起きている。……いや、さらにひどくなる。世界は混乱に陥り闇に傾くじゃろう。若き魔の勢力によってな」


しかし……。と言の葉を紡ぎ彼女は口を開く。


「極東の島国に、また新たな希望の光が灯るじゃろう。神のご加護。古代ギリシャで活躍した伝説の再来じゃ。……まだ少し時間はかかるが、こちら側も若きものにより希望が作られる」


群衆の瞳に光が宿る。


「皆よ、犠牲はまだ続くじゃろう。だが諦めてはいけない。終わりがくるその日まで戦い続けるのじゃ。必ずやってくる夜明けを迎えるためにな」


「だからこそ今は、人間同士で争いを続けている場合ではない。領土問題、宗教対立、紛争、そして差別。全て無意味じゃ。我々の国も昔は散々好き勝手にやってきた。じゃが、もう結束する時がきたのじゃ。人類という友、家族の安全を脅かす敵を完全に排除し、朝を取り戻す時が」


彼女は拳を思い切り握り、見せつける。


「朝を取り戻せば、悲劇の連鎖はなくなり世界に真の平和が訪れる。わしもそれまで共に戦い続けるつもりじゃ。知っての通り、わし自身も古代ギリシャの伝説兵器、神器をもつ1人じゃからな」


群衆は大きく頷く。彼女に対する絶大な信頼は全く揺らぐことがない。


「……さぁ皆よ、今こそこの魔力で、世界に灯りを灯そう!!」


どこの大統領や首相にも負けない彼女の言葉に群衆は一気に沸いた。


全てを見通す会長の予言には希望があったのだ。と。


「人類に勝り……っ!」


だが、その歓声も長くは続かなかった。


「うっ……ぐはぁ……」

「ミ、ミセス・エリザベス!?」



突如老婆は苦しみに悶え、白目を剥きながら無惨にも玉座から崩れ落ちた。

群衆にどよめきと悲鳴が響く。


「ミセス・エリザベス!!……おい、救護を!」

「……もう、遅い」


慌てふためく信者たちに、1人の協会メンバーが答えた。

その落ち込んだ口調に、群衆は皆肩を落とす。


世界的な大予言者であり偉大な魔術士であり、世界を牽引してきた魔術協会ロンドン本部の会長である偉人、ミセス・エリザベス・ヴェルダルトは儚くもこの世を去った。



絶望が群衆の心を支配し嘆きは続く。


やがて群衆のどよめきは世界のどよめきとなり裏社会で広がることになる。


だが、漆黒のローブを纏った群衆の中の1人は、皆が悲しみに暮れるなか微かに覗かせる唇を歪め微笑んだ。


刹那。


大広間の蝋燭の火は、ひとつ残らず闇に消え去った。



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