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8.砦の主を倒せ


 砦はそこそこ広く、モンスターの数も結構いたが、俺の能力で難なく片付ける事ができた。

 やっと最強の能力を得られたっていう実感が湧いてきた。強そうなモンスターの集団相手に余裕だもんな。悪くない気分だ。


 建物の内部を見て回り、残っている敵がいないか確認していく。

 砦の地下にやたらと開けた場所があった。おそらくは貯蔵庫か何かだったと思われるそこには、蟻どものボスがいた。

 体長が五メートル以上はありそうな特大のマッドアント……こいつが女王蟻か。


「で、でかいな。さすがに手強そうだ……」


 地下空間に潜んでいた巨大蟻を前にして、冷や汗をかく。

 他の蟻どもに比べるとかなりの大物だが……たぶん、大丈夫だろ。俺の攻撃で倒せるはずだ。


 右手を振るい、闇の風を放つ。

 ところがそこで、女王蟻が背中にある羽をバサッと広げ、ギョッとする。

 ……なんだ? まさか飛ぶつもりか? いや、地下でそんな真似をしても飛べるはずが……。


 飛びはしなかった。女王蟻は羽を高速で振動させ、そして、風を起こしたのだ。

 地下空間全体に風が湧き起こり、俺が放った黒き風があらぬ方向へ流されてしまう。


 馬鹿な、あんな方法で防げるのか? 蟻ごときにそんな知恵があるとは……!

 向こうが起こした風に影響されないぐらい強めの攻撃を放ってみるか? しかし、あまり強くすると壁や天井まで壊してしまう恐れが……。

 俺が迷っていると、ラグが手にしたランプを足下に置き、胸を張って叫んだ。


「やっと、あたしの出番が来たな! コイツは任せろ!」


 腰に提げた二本の短剣を抜き、身構えるラグ。

 やる事がなくてイライラしてたみたいだしな。ここは彼女に任せてみるか?


 ラグが敵の隙をうかがっていると、不意に女王蟻が大顎を開き、プシュッと液体を吐いた。

 蟻酸を吐く、とメルが言っていたのを思い出し、冷や汗をかく。


「危ない!」


 するとラグはヒラリと身をかわし、飛んできた蟻酸を回避してみせた。


「へっ、ナメんなよ! こんな攻撃、当たるわけねえっての!」


 ニヤリと不敵に笑うラグ。

 そこへ二発目、三発目の蟻酸が連続で飛んでくる。それもシャワーのように拡散させて。


「嘘ぉっ!?」


 これは避けきれず、蟻酸を浴びてしまうラグ。

 彼女の身体から白い煙が上がり、ギョッとする。もしかして、人間の身体を溶かすぐらいの威力があるのか?


「ラグ! まずい、ラグが溶けてしまう!」


 するとメルが、落ち着いた口調で告げた。


「大丈夫だ。やつらの蟻酸には人を溶かすほどの威力はない」

「ほ、本当か?」

「うむ。せいぜい衣服を溶かすぐらいだ」

「えっ?」


 見ると、メルの言う通り、ラグは身体を溶かされてはいなかった。

 その代わり、とても立派なバストを包んでいる水着のトップスみたいなのを溶かされていた。

 豊かな胸回りがあらわになり、二つのふくらみがブルンと飛び出してきて、ラグは慌てて腕で押さえて隠していた。


「うわっ、なんだこれ!? きゃあああ!」

「……なるほど、お色気要員としての出番が来た、ってわけか」

「んなわけあるか! こら、見るなよ馬鹿! 訴えるぞ!」


 涙目のラグににらまれ、慌てて顔をそむける。

 ……なんてうれしいハプニングなんだ。そういうのはどんどん来い。いくらでも受けて立つぞ。

 ていうか、生で女の胸を見たのは初めてだな。今見た映像を一生忘れられそうにない。

 ラグを連れてきてよかったと心の底から思いつつ、女王蟻をにらむ。

 さすがにここのボスだけあって手強いな。あの蟻酸だけ分けてもらえないだろうか。


「大概の虫は、水攻めや火攻め、中性洗剤に弱いんだが……なんの道具もないんじゃ、どうしようもないか……」


 今さらだが、手ぶらで来たのはまずかったか。しかし、道具をそろえる金がないんだから仕方ない。

 俺は最強のはずなんだ。だったらアイテムなんかに頼らなくても勝てるはず。

 巨大蟻と殴り合いをして勝てるのか怪しいもんだが、『闇の風』が当てられない以上、工夫してみるしかない。


「んじゃ、行くぜ、女王様!」


 床を蹴って踏み込み、一気に間合いを詰める。

 直径が一メートル近くありそうな巨大蟻の頭部に接近し、全力で拳を叩き付ける。

 拳がヒットする瞬間、女王蟻が大顎をガパッと開き、俺の拳に噛み付いて来やがった。

 『ダメージ0』、俺には効いてない。……だが、無茶苦茶痛い!


「いててて! やめろコラ、痛いって! 放せ、この野郎! いたたたたた!」


 体長が五メートル以上ある巨大な蟻に食い付かれ、あまりの痛みに俺は泣きそうだった。

 本当にダメージ0なのかよ!? 洒落にならないぐらい痛いんだが!


「防御力は最強レベルだが、痛みは普通に感じてしまう。クソ人類ベースで魔人に作り替えたために不具合が出ているようだな」


 メルが顎に手をやり、そんな事を呟く。

 ありがたくもなんともない解説をありがとう! ほんと、お前は役立たずの鼻くそだな!

 この痛みは想定外だが、この状態は計算通りだ。

 わざと手に噛み付かせたんだぜ? ……口の中に手を入れるためにな!


「マイナス距離で……食らえ、『闇の風』!」


 食い付かれた右手に意識を集中、蟻の口内で黒き風をぶっ放す。

 ゾゴッ、という重たい切断音が響き、女王蟻の巨体がビクン、と痙攣し、動きが止まる。

 黒い外殻に無数の切れ目が走り、バラバラになって弾け飛ぶ。当たりさえすれば、この威力だ。確かに最強なのかもな。

 そして、やはりグロい。虫ならそうでもないかもと思ったが……でかいせいか、すごく気持ち悪い。


 バラバラになった蟻の残骸から目をそらす。

 傍らには胸を押さえたラグが座り込んでいて、呆然としていた。


「嘘だろ、あのデカブツを一撃かよ……すげえな、あんた……」

「……」

「な、なんだよ。なんで食い入るようにあたしを見てるんだ?」

「いや、蟻の死骸よりもこっちを見てた方が断然いいと思って……」

「ジロジロ見るなよ! 見物料取るぞ!」


 払いたくとも一銭も持っていない。残念だな。

 ラグは荷物から包帯みたいなのを取り出して、胸に巻いてブラの代わりにしていた。

 どうにか片付いたな。後はギルドに戻って、任務完了の報告をして報酬をもらえばいいのか。

 ラグが蟻の死骸の一部を拾い、袋に詰めている。


「それは?」

「仕留めたって証拠になるだろ。手柄を横取りするヤツって結構いるんだぜ」

「なるほど」


 ギルドには調査員がいて、依頼が完了したかどうかを確認してくれるらしい。

 確認を行うのは依頼完了の報告を受けた後である場合が多く、その時間差を利用して他人の手柄を横取りしようとする奴らもいるとか。

 油断も隙もないな。もっとも、実力が物を言う世界でもあるので、そういう不正をやらかすヤツはギルド側からも嫌われるらしいが。


 この砦を調べればアイテムやお宝が眠っていそうだが、そんな余裕はないのでとっとと引き上げる事にする。

 何しろ無茶苦茶腹が減ってるので……この世界に来てから何も食べてないからな……。

 さっさとギルドに戻って報酬をもらおう。その金で好きなだけ食いまくってやるぜ。



 砦を離れ、町の入り口まで戻ってきた所で、ラグが言う。


「餓死寸前のゾンビみたいな顔してるな。飯代ぐらいなら持ってるし、先に奢ってやろうか?」

「いいのか?」

「報酬もらったら飯代返してくれりゃあいいさ。あたしも腹減ったし、そこの食堂でなんか食べてこうぜ」


 もう夜中だが、まだ営業中の食堂があった。いい匂いがしてきて、たまらなくなる。

 ラグに誘われるまま、店に入り、テーブルに着く。メニューはよく分からないので、ラグに任せた。

 ややあって、肉を焼いた物が出てきた。なんの肉なのかは訊かない事にして食べてみる。

 これは……鶏肉かな? 脂が乗ってて美味いな。これなら食べられる。


「これは人喰いトカゲの肉だな。このあたりでは定番の料理だ」

「聞きたくもない情報を……人喰いなのに、人に食われてんのか? 変なの」

「いや、人が食うから人喰いトカゲと呼ばれているらしい」

「ひでえ風評被害だ! トカゲがかわいそうだな」


 メルは果物を取って食べている。ラグは俺と同じ肉料理を食べていたが、やがて酒らしき飲み物をグイグイ飲み始めた。


「ハチオも飲め! あたしの奢りだ!」

「い、いや、俺は未成年で……」

「未成年ってなんだ? いいから飲めって!」


 ラグに勧められ、仕方なくジョッキを受け取る。

 ビールみたいな感じの酒だ。泡が立っていて、ほんのりと甘い。酒なんかほとんど飲んだ事ないけど、これは意外といけるかも。

 アルコールの匂いや味はなく、酔いそうにもないので、炭酸飲料でも飲むような感じでゴクゴクと飲んでしまう。

 ……なんかいい気分だ。頭がボーッとしてきた……。


「おい、ハチオ? もしもーし!」


 ラグの声を聞きながら、俺の意識はフェードアウトしていったのだった――。


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