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7.ダークエルフの少女


 受付のお姉さんは俺の顔をジッと見て、カウンターに身を乗り出してきた。

 声を潜め、ボソボソと囁いてくる。


「失礼しました。魔族との混血の方ですね?」

「えっ?」


 戸惑う俺に、お姉さんは分かってますとばかりにうなずき、言葉を続けた。


「ごく稀にいらっしゃるんですよね、魔族ハーフの方が。その素性のせいで不当な扱いを受ける事も多いとか。ですが、当ギルドなら安心です。何しろ『暗黒ギルド』ですので、脛に傷持つ方々であろうが、どのような種族の方であろうが、平等に扱います」

「そ、そうすか。それはどうも……」


 やはり裏社会的な側面を持つギルドなのか、何者であろうと受け入れる方針らしい。

 おかげで人類の敵扱いされるのは免れたようで一安心だ。やれやれ、あせったぜ。

 お姉さんに笑顔で「暗黒神のご加護があらん事を!」と言われたが……それは加護を受けても大丈夫な神様なのか?


 さて、ギルドの会員として登録され、これで仕事をもらえる状態になった。

 後は仲間を集めてパーティを組んだりして、ギルドで募集している仕事の依頼を引き受け、成功したら報酬をもらう、という流れか。

 仲間はぜひ欲しいが、難しいか。この町に来たばかりの余所者でレベル1じゃな……誰も組みたがらないだろう。


「よう。あんた、初心者なんだって? よければ、あたしと組んでみないか?」

「?」


 いきなり声を掛けられ、首をかしげる。

 それはセミショートの黒髪に褐色の肌をした、背の高い女だった。

 セパレートの水着みたいな服を着ていて、露出が激しい。

 つり目がちの気が強そうな顔付きだが、相当な美人だ。たぶん、俺よりも二つか三つぐらい年上か。

 モデルみたいなプロポーションをしていて、健康的で張りのある身体付きをしている。

 腰にベルトを巻き、大振りの短剣を二本、提げている。


 耳が長くて尖っているが……もしやエルフか? それもダークエルフ?


「あたしはラグ。盗賊シーフだ。ま、見ての通り、ダークエルフでさ。人間は滅多に組んでくれないから、いつも一人で仕事をこなしてるんだ」


 盗賊でダークエルフか。ゲームなんかでもダークエルフは人間と敵対していたりする事が多いが、この世界でもそうなのかな。


「チラッと聞こえたんだが、あんた、魔人なんだろ? だったら人間よりは組みやすいんじゃないかと思ってさ。悪くない話だろ?」

「……」


 なるほどな。お互い、人間には毛嫌いされる種族ってわけか。

 俺自身は普通に人間のつもりだが、転生したこの身体は『魔人』らしいからな。人間には敬遠されるのかもしれない。

 せっかく声を掛けてきてくれたんだし、ここは試しに組んでみるか。相性が悪そうなら今回だけって事にすればいいし。


「分かった、組もう。俺は八雄で、コイツはメル。よろしくな、ラグ」

「おっ、いいのか? へへ、よろしくな、ハチオにメル。損はさせねえから安心していいぜ」


 ダークエルフのラグと組む事になり、仕事を探してみる。

 ラグのレベルは15らしい。HPは70か。結構スペック高いな。

 ギルド内のとある壁一面には、無数の依頼書が貼り付けてあった。これだけ依頼があるって事は、この町におけるギルドの重要度はかなり高いんだろう。

 裏組織的なギルドじゃないかと思ったんだが、俺の勘違いか。このギルドを中心に町は回っているのかもな。


「仲間がいれば、一人じゃやれなかった仕事がこなせるもんな。廃棄された砦に巣くうモンスター退治とかどうだ?」


 ラグが選んだ仕事の依頼内容を見てみる。

 町から少し離れた場所に砦跡があって、そこにいるモンスターを退治して欲しいという内容だった。

 依頼の難度としてはそこそこ難しい仕事で、普通はある程度優秀な熟練パーティが受けるものらしい。

 腕試しにやってみるのには丁度いいか。報酬も結構高額みたいだし、悪くなさそうだ。


「いいな。やってみよう」

「そうこなくちゃ。んじゃ、明日にでも……」

「いや、今すぐ行こう」

「なんでそんなに急ぐ必要が!? もうすぐ日が暮れるのに」


 一泊しようにも宿代すらないのだから仕方がない。

 金が必要なんだと告げると、ラグは呆れたようにため息をついていた。


「文無しかよ。宿代ぐらい、あたしが貸してやってもいいけど……いや、あたしもあんまり手持ちがないんだった……」

「盗賊なのに貧乏なのか。なんとなく金持ってそうなイメージの職業なのに」

「ふっ、金持ちだったら盗賊なんかやってねーよ」


 ともかく、ラグも貧乏らしい。だったら尚更、仕事をこなして報酬を稼がないとな。


「さあ、急ごう。早く金を稼がないと飢え死にしてしまう」

「そこまで切迫してるのかよ!? な、なあ、だったらもっと小さな仕事を受けて小銭を稼いだ方が……」


 ラグの意見はもっともだ。俺も最初はそうしようと思っていた。

 だが、ざっと見たところ、よさそうな仕事はなかった。

 大量発生した小型モンスターの駆除とか、特定のモンスターを捜し出して仕留めるとか……難易度は低くてもクリアするのに時間が掛かりそうな仕事ばかりで、短時間でサクッと稼げそうな依頼は見当たらなかった。

 どうせ手間が掛かるのなら、報酬が大きい方がいい。余計に稼いでおけば後が楽だしな。


 これがゲームなら自分のレベルに見合ったイベントやクエストをコツコツとこなすしかないわけだが、幸いにも俺は戦闘能力だけは飛び抜けているらしいので、多少は無理が利く。難易度の高いミッションにも挑戦していくべきだろう。


「ま、いいけどさ。本当に大丈夫なんだろな? 仕事の途中で死なれても困るんだけど」

「足手まといにはならないように気を付けるよ。飯代と宿代を稼ぐまでは死ねないし」

「そこまで貧しいヤツは初めて見るぜ。こりゃ人選を誤ったかな……」


 ラグはかなり落胆した様子だった。俺があまりにも貧乏だったので組むんじゃなかったと後悔しているようだ。

 そう言うなよ。せっかく組んでくれたんだから、損はさせないつもりだぞ。



 問題の砦は、町から二キロメートルぐらい離れた場所にあった。

 石造りの、それなりに大きな建物だ。外壁にびっしりと蔦が絡みついていて、今は使われていないのが分かる。


「大昔、山の方から来るモンスターを防ぐために建てられたらしい。今は使われてなくて、いつの間にかモンスターの巣になっちまったんだと」


 ラグの説明を聞き、ふんふんとうなずく。

 今は夕暮れ時で、もうすぐ真っ暗になる。夜中にモンスターの巣窟に入るのは自殺行為らしく、ラグは渋っていた。


「なあ、やっぱやめようぜ。明るくなってから入った方がいいって」

「大丈夫だ。実はちゃんと作戦を考えてある」

「作戦? 本当だろうな……」


 俺だってモンスターの巣に飛び込むのは怖い。何かの弾みでダメージを受けたら死んじゃうし。

 だから、砦にたどり着くまでの間、作戦を考えていた。

 モンスターの巣になっている廃墟と化した砦。閉鎖された空間に、存在するのはモンスターだけ。

 なら、何も馬鹿正直に砦の内部を探索する必要はないんじゃないか。要は中にいるモンスターを退治すればいいんだし。


 砦の入り口は開放されていたが、中は真っ暗で、外から見ても建物の内部がどうなっているのか分からない。

 ラグには建物の前で待機してもらい、俺は入り口に近付き、建物内に足を踏み入れた。

 何も見えないが、いる。闇の中で蠢く生き物の気配を感じる……。

 右手を振りかぶり、闇に閉ざされた空間に目掛けて、黒き風を放ってみる。


「はあっ!」


 漆黒の突風が建物の内部を吹き抜けていき、その進路上に存在していた生き物をズタズタに引き裂く。

 ……今ので、十数体のモンスターを仕留めた。感覚で分かる。

 この『闇の風』という能力は、単に黒い風を放つだけじゃない。風を通じて、俺に情報を与えてくれるようだ。

 近くに生きているものはいない。建物に入っても大丈夫だ。


「ラグ、もういいぞ。近い位置にいるモンスターは排除した」

「……マジで? やるねえ、あんた」


 ラグがおそるおそる近付いてくる。

 彼女はランプを持っていて、火を灯して建物の中を照らした。

 モンスターの死骸が転がっているのを見て、ゴクリと喉を鳴らす。


「ほんとだ、死んでるな。コイツは……マッドアントか」


 それは体長が一メートル以上ある、でっかい蟻だった。

 同じヤツが何匹もいて、バラバラになって倒れている。

 つまりこの砦は、蟻型モンスターの巣になっているのか。

 建物の奥の方から、複数の生き物がこちらへ向かってくるのを感じる。

 空気の動きでそれを察知すると、俺は再び腕を振るい、黒き疾風を放った。


「はあっ!」


 手応えあり。敵の新手を仕留めたぞ。

 よし、これなら行けそうだ。敵を倒しながらどんどん進んでいこう。


「行こう、ラグ。モンスターは全部、俺が排除する。これなら危険はないだろ」

「お、おう。武器も持たずにどうするんだ、と思ってたが……あんた、術師だったのか。魔人は伊達じゃねえって事かい? 大した腕前じゃないか」


 ラグから感心したように言われ、少しいい気分になる。

 ふっ、もっとほめてくれ。女からプラス評価された事なんて全然ないから、すっごくうれしいぞ。……我ながら情けないが。


 蟻の気配を察知するなり風を放って排除、安全を確保しながら進む。

 俺と並んで歩きながら、ラグはブツブツと呟いていた。


「……なんだかなあ。暗視とか、気配を消す技術とか、盗賊の本領発揮って場面なのに、あたしは付いてくだけかよ……初心者のあんたに色々教えてやるぐらいの気持ちでいたのによう」

「明かりを持っていてくれて助かる。俺は手ぶらなので」

「手ぶらでモンスターの巣に入るなんて正気かよ! そしてあたしは照明係か……ひでえ扱いだな……」


 楽ができて喜んでくれるのかと思いきや、ラグは面白くなさそうだった。

 彼女にも何か仕事を任せるべきだったか。なら、モンスターについて教えてもらうのはどうだ?


「なあ、ラグ。あのモンスターは……」

「あれはマッドアント、蟻型のモンスターだな。非常に好戦的で凶暴なモンスターで、人を食らう。単体だとそれほど強くはないが、集団で行動するので割と厄介な相手だ。口から蟻酸を飛ばしてくるので気を付けろ」


 説明をしてくれたのは俺の傍らに浮遊しているメルだった。

 コイツ、地理については全然なのにモンスターについては詳しいのか。

 さすがはナビ役だと見直すべきなのかもしれないが、これじゃラグに訊く事がなくなったじゃないか。


「へへ、あたし、なんのために付いてきたのかな……」

「え、ええと、それは……そうだ、お色気要員とかどうだ?」

「なんでモンスター退治にお色気要員が必要なんだよ!」

「お色気なら私がいるしな。間に合っているぞ」

「あたし、こんなちっこい妖精に色気で負けてんの!? ひでえ!」


 髪をかき上げ、セクシーポーズ(?)を取ってみせるメルに、ラグがぐぬぬとうなる。

 あの鼻くそも外見だけはいいからな。あんなミニマムサイズじゃ色気もクソもないと思うが。


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