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6.異世界の町

 メルは安全だと告げ、サリアには納得してもらった。

 どうしようもないヤツではあるが、こんなのでも俺に付いてくれてるナビだしな。いないよりはマシだ。


「フッ、ようやく私のありがたさが分かったか。おい、定期的に私を拝むがいいぞ! 特別に許可してやろう!」

「……」


 無駄に偉そうなのがむかつくが……ここは俺が大人になっておこう。


 森から離れ、草原の中を貫く一本道を、神官見習いだというサリアと歩く。

 ……女と会話するのって苦手なんだが。しかし、黙ってるのも気まずいよな。


「ハチオさんはどちらから来られたのですか?」


 サリアの方から話を振ってきた。

 彼女は普通にコミュニケーション能力を備えてるわけか。見習わないとな。


「うーん、どちらと言われても……ずっと、遠い遠い所……この世の果て、かな」

「まあ、そうなんですか? こちらにはどのようなご用件で?」


 ごく普通の質問だが、困ったな。

 別の世界から転生してきたとか言っても信じてもらえないだろうし、何か用があってここに来たわけでもないし。

 俺としては平和で快適な生活ができればそれでいいんだが……そう言えば、メルなんとかも特に何も言わなかったな。

 普通なら、世界を救えとか、魔王を倒せとか言うんじゃないのか。そういう使命的なものは無しなのか?


 メルをチラッと見てみると、神に等しい超存在の分身だという悪魔みたいな妖精は、ニヤッと邪悪な笑みを浮かべていた。

 ……見るんじゃなかった。コイツ、絶対にロクな事を言わないぞ……。


「こやつは魔人、闇に生きる邪悪な存在よ……社会や秩序の破壊、生きとし生けるもの全ての滅亡、世界の支配と崩壊しか頭にないのだ」

「ええっ!?」

「おいコラ、嘘つくな! そんなの望んでないからな! 俺は自由と平和を愛する善良な市民なんだぞ!」


 めちゃくちゃな事を言うメルにサリアは驚き、俺はすかさず否定しておいた。

 ていうか、魔人なんかにしたのはメルなんとかだろ。俺は希望してないし、邪悪な野望なんか持ってないっての。

 無敵で最強の力を望んだのが間違いだったのかもしれないが……不慮の事故で死んじゃったんだから、そのぐらいは大目に見て欲しいもんだ。


「では、町に到着したら滅ぼすのですか?」

「滅ぼさないから! 頼むから信じてくれ!」


 あせる俺を見て、サリアはクスッと笑った。


「ふふ、冗談ですよ。ハチオさんがそんな非道な真似をするはずないって分かってますから」

「あ、あー、うん。分かってくれてるんならいいんだ」


 どうやら、サリアには信用されているらしい。なんていい子なんだ。もしや女神の生まれ変わりか?

 それに引き替え、この鼻くそ妖精と来たら……道は知らないわ、平気で裏切るわで、ろくでなしすぎるだろ。本体の悪い部分が分離した存在とかじゃないのか?


「鼻くそに善悪などない。人間ごときの価値基準で私という存在を推し量らないでもらおうか」

「……」


 自分の事を鼻くそとか言ってるくせに、やたらと偉そうにしてるのがなんだかな……。

 せめて余計な事は言わないで欲しいもんだ。あんまりうるさいと石でも結び付けて低空飛行しかできなくしてやるぞ。



 やがて、俺達は町にたどり着いた。

 それなりに規模の大きな町みたいだ。石造りの建物がズラリと並ぶ、中世風の町並み。

 道行く人々も西洋風で中世風。まさにファンタジー世界って感じだ。


「あれ、そう言えば、なんで言葉が通じるんだろ?」

「貴様はこの世界の人間として転生したのだから当然だろう。そのぐらいは抜かりないぞ」


 そういうものなのか。変わっていないように見えて、この身体も色々とリニューアルされてるんだな。


「容姿についてはまったく変更していない。その点についてはすまないと思っている」

「なんでそこで頭を下げるんだ? おい、泣きそうな顔で俺を見るなよ……なんだその、容姿をいじるべきだったのに失敗したみたいな反応は……おい、やめろって!」


 別に絶望するほどひどい外見はしてないだろ。……してないよな? そうだと言ってくれ。


「ここは辺境の町、ミスリドカです。割と平和でよいところですよ」


 サリアが呟き、町について簡単に説明してくれた。

 そんなに都会でもなく田舎でもない、そこそこ発展した町らしい。

 本当の意味でのスタート地点にたどり着いたってとこか。ここで異世界の事を色々と学んでいこう。


「とりあえず、泊まる場所を……いや、その前に金をどうにかしないとな」


 何しろ部屋着姿のままで、一銭も持ってないからな。

 どこかでバイトでもするか。異世界で仕事をするとなると、やはりあれかな?


「金を持っていそうなやつを襲うのだな? さすがは魔人、外道よのう」

「そうそう、あそこにいるオッサンなんか手頃そう……って違うわ! 強盗なんかしねえよ!」


 この悪魔が、ロクな事を言わないな。

 サリアが杖を構えてるじゃないか。彼女の前で犯罪行為を匂わせるような発言はよせ。


「ちゃんと働いて稼ぐよ。仕事を紹介してくれる場所は……ギルドみたいなのはあるのかな」


 ゲームなら定番だが、どうだろ。

 するとサリアが答えてくれた。


「もちろん、ありますよ、ギルド。余所者にも仕事を紹介してくれる、便利な組織です」


 あるんだ。これで強盗をしなくてもよさそうだな。いや、ギルドがあってもなくても強盗なんかするつもりはないけど。


「でも、気を付けてくださいね。ギルドに出入りしている人には柄の悪い方々や荒くれ者も多いですから。絡んできたり、騙して利用しようとする人もいますから」

「そ、そうか。分かった、気を付けるよ」


 サリアは用事があるとかでどこかへ行ってしまった。

 後でまた会いましょうと言ってくれたが……知らない町で一人きりってのは少し不安だな。


「私がいるではないか。困った時は頼れ! 遠慮はいらんぞ?」

「……」


 はは、そうかい。ありがたい事を言ってくれるねー。

 ……お前が当てにならないから不安なんだろうが! 地理的な情報は何も持ってないし、頼りなさすぎるだろ。

 ともかくギルドへ行って仕事をもらおう。宿代どころか飯代すらないからな。

 それに、もっと深刻な問題もある。

 俺はダメージ1で死んでしまうんだ。それを防ぐための防具やアイテムを手に入れないとな。



 ギルドは町の東側、裏通りにあった。

 結構、大きくて立派な建物だ。一般人とは明らかに違う、戦士風の出で立ちをした連中が建物の周りに何人かいて、鋭い目を向けてくる。

 素人は近付くな、って雰囲気だな。入りにくいが、仕事をもらわない事にはどうしようもない。


 覚悟を決め、やや緊張しながら建物に入る。

 入ってすぐの所に待合室と受付のカウンターがあり、ここにも戦士風の連中がたむろしていた。

 モロにガンを飛ばしてくるやつが何人かいたが、無視しておく。

 異世界にもチンピラみたいなのがいるのは驚きだが、そんなのと揉めている暇はない。さっさと手続きを済ませよう。


 受付には、眼鏡を掛けた黒髪の美女が座っていた。

 知的な大人の女性って感じだ。薄く笑みを浮かべ、「何か御用かしら、坊や?」とでも言いたげな顔をしている。

 そこはかとなくエロス的なものを感じる……実にすばらしいな。


「あのー、すみません」

「いらっしゃいませー! 『暗黒ギルド』へようこそ!」


 ……ん?

 なんだ、暗黒ギルドって……聞いてないぞ。

 そういや建物の中も薄暗いし、暗い雰囲気が漂ってるな。

 もしかして、ここはまともじゃないギルドなのか? 裏組織的なやつとか?

 帰ろうかと考えていると、メルが受付の女性に近付いて話し掛けていた。


「おい、何かでかい仕事を回せ。大金が必要なのだ」

「登録はお済みでしょうか? まずは会員になっていただきませんと」

「では、すぐに登録しろ。貴様らはラッキーだぞ? 私の連れは無敵無敗の手練れだからな! 百人分、いや千人分の働きをすると考えていいぞ!」


 勝手に俺の事を売り込んでいるメルに冷や汗をかく。

 やめろよ、受付のお姉さんがキョトンとしてるじゃないか……周りにいる柄の悪い連中も注目してるみたいだし、すごく居心地が悪いぞ。


「それでは登録用にレベル判定を行いますが、よろしいでしょうか?」

「好きにしろ。手短にな」


 どこまでも偉そうなメルに、受付のお姉さんが引きつっている。

 ちっちゃい妖精のくせに態度だけは王族か何かみたいだもんな。あいつの本体は神に等しい存在らしいが、分身は鼻くそだし。

 しかし、レベル判定か。ゲームなんかじゃお馴染みだが、この世界にはレベルの概念があるのか。

 俺のレベルっていくつなんだ? 最強だから99とか? ∞とかかな。


 お姉さんがカウンターの上に置いたのは、台座に固定された大型の水晶玉らしき物だった。

 こいつに手を置くと、その人間のレベルが計測されるらしい。

 どんな数値が出るのかちょっと期待しつつ、水晶玉に右手を置いてみる。

 水晶玉が淡い光を放ち、やがて計測が終わった。


「はい、結構です。レベル1、ですか。もしかして初心者さんでした?」


 ……レベル1かよ! ただのビギナーじゃねえか!

 お姉さんの目がすごく優しいものになってるぞ……あれは世の中の事を何も知らないくせに態度だけはでかい、お子様を見る目だ。

 いやまあ、確かに俺はこの世界に来たばかりのビギナーで、何も知らない世間知らずでもあるわけだが……。


「あら? 種族は『魔人』……腕力や防御力の数値が、まるで熟練の戦士レベル……攻撃力や魔力の数値が計測不能? あ、あなた、一体、何者なんですか?」

「!?」


 レベル以外のステータスを確認し、お姉さんは目を丸くしていた。

 おお、どうやら俺が最強で無敵なのは本当らしいな。レベルが低くてもステータスは高いわけか。

 しかし、まずいな。魔人、というのを口にした瞬間、お姉さんの顔付きが変わったぞ。

 人類の敵扱いされたりしたら、仕事をもらうどころじゃないよな……。



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