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5.魔人で凡人

「う、ううーん……あれ、ここは……?」


 次に目覚めた時、俺はミジンコに生まれ変わっていた。

 ……なんて事にはなっていなかった。


「よかった、気が付いたのですね?」


 声を掛けてきたのは例の僧侶ぽい少女だった。ほっとした顔で俺を見つめている。

 身体を起こし、状況を確認する。

 ここは、さっきと同じ場所だ。俺は地面に寝かされていたらしい。


「なんだ、死んだかと思ったけど、気絶してただけか……」

「い、いえ、それはですね……」


 少女が言いにくそうにしていると、妖精のメルが俺の前に浮遊し、サラッと告げた。


「いや、死んだぞ? 貴様は落下してきた大木の直撃を受けたのだ。クリティカルヒットでダメージ1、それで死亡してしまった」

「なっ……!?」


 驚愕の事実を告げられ、冷や汗をかく。

 俺、また死んじゃったのか……ミサイル(偽物)の次は自分が打ち上げた木に潰されちゃうなんて……。


「えっ、じゃあ、どうなって……今の俺は幽霊なのか?」


 するとメルは首を横に振り、少女を指して呟いた。


「この女が蘇生術を使ったのだ。なかなか見事な腕前だったぞ」

「蘇生術?」


 マジか。なるほど、そういう魔法があるんだな。

 俺が目を向けると、少女はやや慌てた様子で呟いた。


「ああ、いえ、そんな大した事は……身体の損傷がほとんどなく、魂が抜ける前だったのでどうにか……」

「へえ、そうなのか」

「すごかったぞ。心臓に手刀を打ち込み、内部から治癒魔法を炸裂させた。あんなの初めて見たな」

「そうなの!? 蘇生術ってそういうのなのか?」


 なんだか想像してたのとは違ってかなり乱暴な感じだが……助けてもらったんだから文句は言うまい。

 危うく二度目の人生終了になるとこだったもんな。次も知的生命体に転生させてもらえるとは限らないし、大事にしないと。


「ともかく助かったよ。どうもありがとう」


 俺が礼を言うと、少女はフルフルと首を横に振った。


「い、いえ、こちらこそ助けていただいて……私のお昼ご飯のために命を落とされたのでは申し訳ないですし、このぐらい当然です」

「そういやそうだったな。危うく昼飯と引き替えに人生終了するとこだったのか……」


 さすがに間抜けすぎる最期だ。今後はもっと注意しないとな……。


「私はサリア。神官見習いで修行中の身です。あの、よろしければお名前を教えていただけませんか?」

「俺? 俺は七隈八雄。一応、旅人、かな?」

「ナナク、マ、ハチオ、さん……? 変わったお名前ですね」


 姓と名を続けて告げたら長い名前だと思われたらしい。

 俺は苦笑し、サリアに告げた。


「八雄でいいよ。その方が呼びやすいだろ」

「ハチオさん……やはり変わっていますが、なんだか親しみやすいお名前ですね」


 ニコッと微笑みかけられ、照れてしまう。

 やっぱりすごい美人だな。レベル高すぎて直視できねえや。


「私はこの先にある町へ行くところだったのですが、あなた方も町へ?」

「あー、うん。町か村まで行く途中だったんだ」

「気ままな旅というわけですか。では、町まで一緒に行きましょう。またモンスターに襲われても困りますし」


 断る理由はないので、うなずいておく。

 道案内がいてくれた方が心強いし、女の子を一人で行かせるのも心配だしな。


「味方になったのなら、あの女のHPが分かるはずだぞ」


 メルが俺の耳元で囁いてくる。

 そうなのか。じゃあ、確かめてみよう。

 サリアをジッと見つめてみると、それらしい数値が空中に浮かび上がった。


 HP 25/30


 ふーん、サリアのHPは30なのか。今は25で、少し消耗してるんだな。

 ……あれ? 確か、メルのHPは200じゃなかったっけ?

 コイツ、小さくて弱いくせにHPだけは人並み以上なのか。俺は1しかないのに、なんか納得いかないな……。


「あっ、お昼ご飯は無事でした。お腹が空いているので、失礼しますね」


 地面に落ちていた荷物袋を拾い、サリアが安堵の息をつく。

 袋から大きな包みを取り出し、中身を披露する。

 なんだあれは? でっかいパン?


「このメガランチョンを食べれば元気百倍です!」

「メ、メガランチョン?」


 四角いパンの塊みたいなのをモグモグと頬張るサリア。

 彼女のHPが回復し、MAXの30になる。

 なるほど、ああして回復するんだな。俺の場合は……どうなるんだ?

 試しに尋ねてみると、メルが答えてくれた。


「貴様は1か0しかないので回復もクソもないぞ」

「そうなのか? やっぱりな……」

「しかし、だからと言って回復が不要というわけではない。食事を取らなかったり、休まずに疲労したりすれば生命力が0になってあの世行きだろうな」

「ダメージ受けなくても死んじゃうのかよ!? な、なあ、俺って、本当に最強なの? すっごく自信がなくなってきたんだけど」

「何事も考え方次第だ。さっきの場面で、貴様に能力がなかったらどうなったと思う? 私は逃げて無事だったとして、貴様はあの女共々猿どものエサになっていただろう。蘇生してくれる者もおらず、一巻の終わり。それがこうして生き長らえているのだから、能力があってよかったと我に感謝するべきだな」

「そんなもんかね。……ん? お前今、自分だけ逃げてたって言ったか?」

「……過去の発言など覚えていない。振り返るな、前を見ろ」

「五秒前の発言ぐらい覚えてろよ! 無責任な!」


 この鼻くそ妖精が……解説してくれるのはありがたいけど、それ以外はクソの役にも立ちそうにないな。


「ずっと気になっていたんですが、そちらは妖精さんですか? かわいいですねー」


 メルを見つめ、サリアが呟く。いつの間にかパンの塊は平らげてしまったらしい。意外と食うタイプなのか?

 しかし、この悪魔がかわいいね……知らないってのは幸せだな。


「あら? よく見ると羽がコウモリみたいで……なんだか魔族ぽいような……?」


 サリアは首をかしげ、手にした杖の先をメルに突き付けた。


「こ、こら、よせ! 私は無害な妖精さんだぞ!」

「ですが、魔族のような姿じゃないですか。神に仕える者として、邪悪な魔族はぶっ殺さないといけないのです」


 なんか、サリアの目がヤバい。狂気が渦巻いているような……言動もおかしいし、ちょっと怖いな。

 もしかして、俺も危ないんじゃないか? 確か俺は『魔人』になっちゃったんだよな。

 見かけは人間のまんまでも、邪悪な気配とか発しているのかもしれないぞ。


「わ、私は安全だぞ! むしろこの男の方が危険だ! 何しろ魔人だからな!」

「えっ?」


 メルの言葉に、サリアが目をパチクリさせる。

 ……って、コイツ、自分が助かるために俺の素性を明かしやがった! 信じられねえ真似しやがる!

 嫌な汗を垂れ流す俺を、サリアがジッと見つめる。


「……」

「え、ええと、その……」


 なんとかして誤魔化せないかと考えていると、サリアはため息をつき、ポツリと呟いた。


「冗談はやめてください。私の見る限り、これほど邪気のない人なんて珍しいぐらいですよ。どこにも魔人の要素は感じられません」


 どうやらサリアの目には、俺は極めて人畜無害な人間に見えるらしい。

 実際、そうだしな。魔人とかにされたといっても外見に変化はないし、能力の方は身体が丈夫になって変な風が起こせるようになったってだけだし。


「そもそも魔人だったら、落ちてきた木に当たっただけで死んじゃうわけないじゃないですか。この人は間違いなく凡人……じゃなくて普通の人です」


 おい今、凡人って言ったな?

 信用してくれるのはいいけど、あんまり軽く見てると泣くぞコラ。


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