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4.謎の少女と人食い猿


「……で、ここはどこなんだよ?」

「知らん」


 扉を抜けた先は、何もない場所だった。

 見渡す限りに広がる草原、土が剥き出しの道。柔らかな陽光が降り注ぎ、なんとものんびりした雰囲気だ。

 闘技場からどこか遠くに転送されたらしく、近くにそれらしい建物は見当たらなかった。


 やっと脱出できたと思ったら、今度はなんにもない田舎道か……。

 案内役はここがどこなのか知らないって言うし……コイツはなんだ、地図が入っていない地図アプリか? ポンコツすぎるだろ。

 道があるって事は人の行き来があるんだろうな。道なりに歩いていけば、いずれどこかの町や村に着くはずだ。


 仕方なく、特に行く当てもないまま、どこへ続いているのか分からない道を歩いていく。

 メルはコウモリみたいな羽をパタパタさせ、俺の隣に浮遊して付いてくる。


「この道はどこまで続いているのだろうな」

「さあな。俺が知りたいよ」

「この世の果てか、はたまた地獄か……永遠にどこにもたどり着けなかったりしてな」

「嫌な事言うなよ!」


 二、三キロは歩いただろうか。青々とした木々が生い茂る森にたどり着いた。道の左手に沿って森が広がっている。

 木陰で少し休もうかと考えていると、先客がいるのに気付いた。


 おお、やっと人を見付けたぞ。よかった……。

 しかもかなりの美人だ。水色の長い髪をしていて、真っ白いローブを着ている。

 手には金属製の杖、背中には円形の盾を装備していて、僧侶か神官ぽい。

 まさにファンタジー世界の住民だな。旅の途中で一休みしていたってとこか。

 なんか毛むくじゃらの猿みたいなのが五匹ぐらいいるが、あの人のペットか何かだろうか。


「こら、お猿さん! 私のお昼ご飯を返しなさい! 天罰が下りますよ!」


 ……どうやらあの猿どもに食料を奪われたらしいな。

 猿どもは子供みたいに小さいが、筋肉が発達していて、牙を剥き出しにした凶悪な面構えをしていた。

 棍棒で武装している。あれもモンスターなのか。


 相手の数が多いし、加勢してやろうかと考えていると、僧侶ぽい少女が叫んだ。


「言葉が通じないのでしょうか……ならば、態度で示すまでです!」


 杖を振り上げ、猿の脳天にガン、と叩き込む。

 殴られた猿が「キィーッ!」と奇声を上げ、猿どもが殺気立ったのが分かった。


「あれ、怒ってる? なぜです!」


 いや、そりゃ怒るわ。どう見ても宣戦布告だし。


「やめてください! 暴力では何も解決しませんよ!」


 猿は聞く耳を持たず、棍棒を振り回して襲い掛かってきた。

 少女は杖を両手で握り締めて構え、猿を迎え撃った。


「この、神をも恐れぬ狼藉者どもめ! 天誅です!」


 杖を自在に振るい、凶暴な猿どもをバシバシと打ちのめしていく。

 清楚可憐な外見とは裏腹にかなり暴力的なのがアレだが、やるじゃないか。

 少女が自分達よりも強いと悟ったのか、猿達は後退し、逃げようとしていた。


「あっ、待ちなさい! お昼ご飯を返してください!」


 渡してたまるかとばかりに、猿は少女の物と思われる荷物を抱え込み、クルリと背を向け駆け出した。

 相手は野生の獣、森の中へ逃げられたら捕まえるのは無理だろう。


 そこで少女は背中に手を回し、担いでいた円形の盾を取り出した。


「逃しません! てい、スピンソーサー!」


 盾を放り投げると、それは円盤のように回転して飛んでいき、逃げる猿達を追尾した。

 荷物を抱えた猿の背中に命中し、猿が悲鳴を上げて倒れる。

 盾は飛行を続け、戻ってきたそれを少女はパシッとキャッチし、倒れた猿に近付き、地面に落ちた荷物を拾おうとした。

 そこで猿達が「ウキィーッ!」と叫び、森の木々がざわめいた。


「あっ! お、お猿さんがこんなに……!」


 たぶん、荷物を盗んだ五匹は先行部隊だったのだろう。

 森の奥には猿の本隊が待ち構えていた。その数は優に百を超えていて、さしもの少女もあせっている様子だ。


 あれはさすがに一人じゃ無理だな。仕方ない、手を貸すか。

 まだ自分の能力がどういうものなのか把握しきれていないのが不安だが……実戦で試してみるか。


 少女に近付き、声を掛けてみる。


「どうも、こんにちは」

「えっ? だ、誰ですか、あなた? さては、お猿さんの手下?」

「誰が猿の手下なんだ……俺はまあ、通りすがりの旅人だよ。ヤバい状況みたいだし、手を貸すぜ」

「助けてくださるのですか? ありがとうございます!」


 ニコッと微笑み、大声でお礼を言う少女に、赤面してしまう。

 ……改めて近くで見てみると、ものすごい美人だな。歳は俺と変わらないぐらいだと思うが、なんていうか次元が違う。

 一般的なちょっとかわいい子しか見た事ないのに、いきなり全国レベルのトップアイドルに遭遇してしまったみたいな感じだ。

 白いローブを羽織っていて、その下は白いワンピースミニみたいな服だ。パッと見ただけで抜群のプロポーションをしているのが分かる。

 胸元の盛り上がりがかなり立派だな。腰の位置が高くて、スラリとした長い脚をしていらっしゃる。


 やっと人に会えたのがうれしくて、ついつい気軽に声を掛けちまったが、俺なんかが口を利いてもいいレベルの人間じゃないな……。

 ま、まあ、ここは異世界なんだし、俺がいた世界の基準で考える必要はないか。この世界では平均的なレベルの美人なのかもしれないし。

 ……平均的な美人ってなんだ? 我ながら意味不明だな。


「できれば穏便に済ませたかったのですが……向こうはやる気満々みたいですね……」

「ああ。獲物を仕留めて、身ぐるみ剥ぐつもりみたいだな。すごい殺気だ」


 メルが傍らに浮遊し、俺に忠告してくる。


「気を付けろ。こいつらは雑食だ。人の肉を食うぞ」

「人間を食うのか? なんて嫌な猿なんだ……」


 つまりあれか。先行部隊が荷物を盗んで逃げ、追ってきた人間を待ち伏せしていた本隊が襲い、食料にしてしまうと。

 いきなり嫌なモンスターに遭遇しちまったな。こんなのが他にもいるのだとすると、結構ハードな世界なのかも。

 しかし、相手がそういう類のモンスターなら、遠慮や加減をする必要はないな。


「あの、随分と軽装みたいですけど、武器はお持ちですか? よければ私のをお貸ししましょうか」


 少女はそう言って、小型のハンマーみたいな武器を差し出してきた。

 なぜハンマー? そんな短いので殴り合うのか。大工用具なんじゃ……。


「いや、いい。まず、俺が攻撃してみるから下がっててくれ」

「は、はあ」


 少女は怪訝そうにしていたが、一歩下がってくれた。

 素直なんだな。説明する手間が省けて助かった。

 さて、それじゃ……この数を相手に、俺の攻撃がどの程度有効なのか、試してみるか。


 イメージとしては、直線的に叩き付けるんじゃなくて、扇状に拡散させるような感じか。

 頼むぜ、上手く行ってくれよ……不発だと猿の反撃をモロに受けそうだし、何より格好悪い。


「……」


 何か掛け声を上げようかと思ったが、失敗した場合、ものすごくみっともないのでやめておいた。

 風を起こす事を念じながら右手を左側に振りかぶり、空間を横薙ぎにするように腕を水平に振る。

 腕の振りに合わせて黒い風がゴオッと湧き起こり、俺の前方に向けて吹き荒れた。


 やった、成功だ! ほぼイメージ通り、扇状に広がる感じで風を起こせたぞ。

 ただ、威力の加減についてはイマイチだったみたいだ。

 猿どもはもれなく全部吹き飛んだんだが、ついでに周囲の木々も根こそぎ吹き飛び、森の一部が更地に変わり、爆弾でも投下されたみたいな感じになってしまった。

 ……ちょっと力みすぎたか? 予想していたよりもかなり強めの威力になってしまった。


 少女は目をまん丸にしている。そりゃまあ、驚くよな。


「な、なんですか、今の……風魔法? でも、あんな黒い風なんて……」


 さすがはファンタジー世界、普通に魔法が存在するらしいな。

 しかし、まずいな。俺の能力は人間が使うタイプの魔法とは違ったのか。


「い、いや、今のはその……」


 何か言い訳をしようとしていると、少女とメルがそろって俺の頭上に目を向け、「あっ」と声を上げた。

 なんだ? 上に何かあるのか?

 見上げてみると、そこには……俺の攻撃で吹き飛んだと思われる、でっかい木が落ちてきていた。

 ……えっ?


 急降下してきた大木が俺の顔面にヒットし、押し潰す。

 ものすごく痛いが、生まれ変わった俺の身体は異様に頑丈らしく、骨が折れたりはしなかった。

 だが――。


 『クリティカル! ダメージ1』


 そんな表示が目の前に浮かび上がる。

 直後、俺の意識は深い闇に沈むようにして薄れていった――。


 ……って、おい!

 まさかこれでゲームオーバーなのかよ……。


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