表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/27

3.闇の風

 黒こげのメルを拾い上げ、少し離れた場所に退避させておく。

 強烈な殺気を放ちまくっている巨大な黒いドラゴンを見上げ、俺は拳を握り締め、ゴクリと喉を鳴らした。


 俺は、無敵で最強の力を与えてもらったはず。

 何か一つの要素だけは人並み以下らしいが、それ以外はハイスペック。戦えば負ける事はない……はずだ。

 なら、モンスターの中でも最強種と名高いドラゴンにも勝てるよな。

 この竜はブラックドラゴンか、ダークドラゴンかは知らないが、ドラゴン族でも強い部類に入りそうだ。

 コイツに勝つ事ができれば、大概のモンスターには勝てるはず。

 正直言ってかなり恐ろしいが……ここは自分に与えられた力を信じてがんばってみるか。


「へ、へいへい、来いや、ドラゴン! この俺の記念すべき最初の獲物にしてあげちゃうぜ!」

『……』


 ドラゴンは何も答えない。気のせいか、俺の事を鬱陶しそうに見ているような気がする。


 ……やれやれだ。いるんだよな、こういう勘違いした馬鹿が。

 俺を誰だと思ってんの? ドラゴンだよ、ドラゴン。

 どんなファンタジー系ゲームでも強敵扱いされてる、最強種のモンスターだよ?

 お前みたいな見るからに初心者の素人が勝てるわけないだろ?

 もっと弱くて小さいモンスターを倒して、腕を磨いてから挑戦しにこいやー。


 ……そんな事を考えていそうな気がする。いや、俺の勝手なイメージだけど。

 まあいいさ。まずはどれだけやれるのか試してみよう。

 超スピードで動いて、超パワーでぶん殴る。

 シンプルだが、どの程度の力を出せるのか確認するのには適した方法だと思う。

 よし、それじゃ動いて……。


 そこでいきなり、シュゴォーーーーッ、と、ドラゴンが火を噴いた。

 紅蓮の炎が俺を包み込み、焼き尽くそうとする。


 あ、あれ? どうなってるんだ?

 ドラゴンの動きは見えていた。口を開け、炎を吐き出す瞬間までしっかり確認できた。

 なのに、避けられなかった。

 恐怖で足がすくんだ、とかじゃない。避けるのが全然間に合わなかった。


 もしかして、スピードは人並みのまま? パワーやスピードをハイスペックにって注文しなかったっけ?

 だが、それほど悲観する事もなさそうだ。

 なぜなら、ものすごく熱いはずの炎が効いていないから。『ダメージ0』という表示が空中に出ている。


 おお、すごいな。スピードじゃなくて防御力が上げられているのか。

 しかし、喜んでいいのか微妙だ。

 なぜなら……すっごく熱いから。


「あ、あつっ! なんだこれ、普通に熱いじゃないか!? うわあああああ!」


 ダメージ0なんだから、俺には効いていないのは間違いない。

 炎に包まれているのに火傷とかはないし、服の表面が焦げているだけみたいだ。

 でも、熱い。本来の熱量を感じてはいないのかもしれないが、めっちゃ熱い。

 つまりなんだ、ダメージはないけど感覚はあるのか?


「く、くそ、これじゃダメージあるのと変わらないじゃないか!」


 右へ左へと動き、炎を避けようとしたが、ドラゴンが首を左右に振って追尾してくる。

 すごく熱いよ! ああくそ、これ本当にダメージ0なのか? マジで熱いのに!


「おい、気を付けろ。少しでもダメージを受ければ死ぬぞ」


 黒こげのメルがどうにか復活し、宙に浮いて声を掛けてくる。


「少しでも? どういう意味だよ!」

「貴様は生命力や攻撃ダメージを数値化して『見る』事ができるはず。貴様にとっては必須能力だからな」


 さっきのあれはやっぱり俺に与えられた特殊スキルだったのか。

 しかし、俺にとっては必須って、どういう意味なんだ?


「自分の生命力を確認してみろ」


 自分のなんてどうやって知れば、と思ったら視界の隅にそれらしい数字が出た。

 これか? これだよな? しかし、これって……。


 HP 1/1


 んん? なんか表示がおかしいぞ。

 最大数値と現在の数値が表示されてるみたいだが、どちらも1って……。

 これじゃまるで、俺のHPは最大で1って事みたいじゃないか。


「その通り。貴様の生命力は1。ミジンコ並みなのだ」

「俺、ミジンコと同等の生命力しかないの!? いくらなんでもひどすぎるだろ!」

「無敵で最強の力を得た代償なのだから仕方あるまい。一つの要素のみ人並み以下になると告げたはずだぞ」

「そ、それが生命力だったのか……なんてこったい」


 そういう場合に犠牲にするのって普通、色んなステータスの中の一要素なんじゃないのか? 器用さとか、すばやさとか、運のよさとか……。

 HPも一要素だと言えばそうかもしれないけど、それは一番犠牲にしちゃいけない要素なんじゃ……。

 いや、だからか。重要な要素だからこそ、他の全てと引き替えにできるぐらい価値があって、釣り合いが取れるんだ。


 事情は分かったが……それならそうと先に言えよ!

 かなりむかつくが、幸いなのはダメージが0に抑えられているって事か。

 たぶん、炎耐性が強いとか、防御力が高いとかなんだろう。

 HPがたったの1でも、ダメージがないなら問題ないよな。熱いのがちょっと嫌だが。


「油断するな。ダメージ1というのは何かの拍子に簡単に受けてしまうぞ。そして、普通の生き物なら問題ない数値のダメージでも、貴様の場合は即死する」


 メルから注意を受け、ゾッとする。

 そういや、ゲームなんかのバトルでも、レベル差のある敵には全然攻撃が効かなくてもダメージ1ぐらいは与えられる場合があるよな。

 つまり俺は、弱い敵の攻撃でHPをちょっと削られただけでも死んじゃうわけか。……ハードすぎないか、それ。


 今はダメージ0だが、ドラゴンが少しばかりやる気になって炎の威力を高めたりした場合、削られるかもしれない。

 くそ、冗談じゃないぞ。そうなる前に倒さないと。


「だ、大丈夫、俺は最強の力をもらったんだ……ドラゴンなんかに負けるもんか!」


 拳を握り締め、気合いを入れ、ドラゴンに挑む。

 しつこく放射されているファイヤーブレスの熱さに我慢して踏み込み、ドラゴンのでっかい頭部に右フックを叩き込む。


「おりゃあ!」


 攻撃は見事に決まり、ドラゴンの頭が横向きにグルン、と大きく振れた。

 これはいける、と思いきや、ドラゴンがバネ仕掛けみたいに勢いよく頭を戻し、鼻先を打ち付けてきた。

 俺はあっさり吹き飛ばされてしまい、石畳の上に転がった。


「いてて……くそ、効いてないのかよ……!」


 痛みはあったが、俺のダメージは0。

 ドラゴンのHPやダメージは不明だが、多少は効いたのか、頭をブルブルと左右に振っている。

 『見える』のは俺とメルのHPやダメージだけなのか。敵の情報は見えないって事らしいな。


「おい、よく聞け! 貴様の最も優れた能力は、『闇の風』だ! 風を起こす事を念じて、手を振るうのだ!」


 メルがアドバイスらしき事柄を叫ぶ。

 『闇の風』だと? それが俺に与えられた能力なのか。

 なんでそんな能力になったのかは謎だが、ここは一つ、試してみるか。


 風を起こす事を頭に思い浮かべつつ、右手を持ち上げて身体の左側に振りかぶる。

 大口を開けて咆吼を上げるドラゴンをにらみ、右手を振るう。


「はあっ!」


 手の先から黒き風が生じ、ゴオッと吹き荒れる。

 暗黒の突風がドラゴンを襲い、その巨体をズタズタに切り裂く。

 ドバッと血しぶきが上がり、ドラゴンの巨体が無数の肉片となって飛び散り、ゴロンゴロンと石畳の上に転がる。

 おお、すごい威力だ! しかし、予想以上にグロいな……。


 今の攻撃は……風系統の魔法か? なんで黒い風なんだろう。悪役っぽい技だな。


「貴様の種族は『魔人』だ。闇に属する者であり、この世界における最強クラスの存在。ダメージを受けないように気を付ければ、快適な生活を送る事ができるであろう」

「そうなんだ……って、『魔人』だと?」


 もしかしなくてもそれって人間じゃないよな? 魔族とかそういうのの系統か。

 なんか人類の敵みたいな感じがするが、大丈夫なのか? 


「見ろ。番人を倒したので出口が現れたぞ」


 何もなかったはずの空間に扉が出現し、開いていく。

 ステージクリアってとこか。やれやれ、やっと外に出られるな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ