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27.宴


 『暗黒ギルド』にて。

 死霊騎士団を殲滅した俺達は、ギルドから高い評価を受けていた。


「おめでとうございます! さあ、報酬の一〇〇〇万Gをどうぞ!」

「ありがとうございます」


 いつもの受付のお姉さんから金貨がギッシリ詰まった袋を受け取る。

 周囲にはギルド所属の戦士や魔法使いといったギルドメンバー達が集まっていて、町を救った俺達を褒め称えてくれた。


「すげえな! あの死霊騎士団を倒しちまうなんてよ!」

「あんたらは町を救った英雄だぜ! このギルドのエースだな!」

「リーダーはレベル一桁なんだって? それで一番敵を倒したってどうなってるんだよ……」


 少し照れくさいが、評価されるのは気分がいい。

 拍手を送ってきたギルドのメンバー達に俺は笑顔を浮かべ、「やあ、どうもどうも」と手を振って応えた。


 金貨が詰まった大袋は見せ金だ。報酬がこれだけ多いんだぞ、というのを示すための物。

 値段相当の宝玉が配られ、それを皆で分けた。

 無論、平等に山分けにした。一人頭二〇〇万Gだ。

 敵のほとんどは俺が倒したが、それはみんなが協力してくれたからこそだもんな。独り占めするつもりはない。


「また貯金が増えるよ! ハチオと組んでよかったぞ!」

「私も助かった。お礼に何か大人の遊びを提供しようかな……少し高度なペロペロを……」

「高度なペロペロってなんだ? 私にもできるのか?」

「ふふふ、それはどうかしらね……」

「おいコラ、無垢な少女に卑猥な知識を植え付けるな!」


 また馬鹿な事を言っているクロムを注意しておく。ほんと、いい加減にしないと捕まるぞ?

 ノイズィとクロムは報酬を得た事を素直に喜んでいたが、残る二人はあまりうれしそうではなかった。


「もらえるのはうれしいですけど、二〇〇万では……ギルド再建の道のりは険しいですね……」

「たったの二〇〇万じゃ赤字だよ! ああくそ、次の計画を練らなくちゃ……」


 邪教徒と借金王……じゃなくてサリアとラグは報酬を独り占めできなかった事を嘆いていた。

 生きて帰ってこられただけでも幸運だと思うんだが……まあ、生きてたら生きてたで、悩みがあるのは仕方のない事なのかもな。

 などと悟ったような事を考えてみたり……我ながら似合わねーな。


 町を滅ぼすレベルの脅威を退けたという事で、単に依頼をこなしただけの時とは違う評価を受けた。

 ギルドとしても活動拠点にしている町がなくなるのは困るんだろうし、ギルドメンバーや町の住民だってそれは同じだ。

 すなわち、俺達は町を救った救世主というわけだ。この町の名はミスリドカだっけ? 滅びずに済んでよかったな。


 近所の食堂を貸し切って祝賀会が催された。

 費用はギルドが持ってくれるらしく、飲み放題の食べ放題だとか。今まで一度も会った事もないような連中まで参加して騒いでいる。

 たまにはこういうのもいいか。お祝いだし、奢りだもんな。


「うひょーッ! 持ち金気にせずに飲み食いできるなんて久しぶりだぜ! おらあ、どんどん持ってこいやあ!」


 微妙に悲しい事を叫びながら、ラグは飲みまくり食いまくりではしゃいでいた。

 また酔い潰れてしまってはたまらないので、俺は酒を飲まないようにした。


「こうして皆さんが無事に生きているのも、我が神、白蛇王ケイオスノヴァのご加護があるおかげです。どうです、入信しませんか? 今なら幹部の椅子が空いていますよ!」


 サリアはさり気なく勧誘して回っているが、みんな笑って誤魔化している。

 「あの姉ちゃん、あれがなけりゃな」「美人なのに残念すぎる」「邪教徒はまずいよなあ」などと囁かれているのを聞き、俺は苦笑するしかなかった。


「酔っぱらいばかりだな! 私もお酒を飲んではだめか?」

「だめに決まっているでしょう。ジュースにしなさい」


 ノイズィは酒に興味を持ったみたいだが、なぜかちゃっかり参加しているアイテム屋の店主に止められていた。

 クロムは俺の隣の席にいて、カパカパと水でも飲むような勢いで酒ばかり飲んでいる。


「ハチオはちっとも飲んでないのね……それは私に口移しで飲ませろという意思表示なの?」

「ははは、んなわけあるかよ。お前、大概にしないと尻尾を引っこ抜くぞ?」

「えっ、そういうのがいいの? 怖いけど、ハチオがどうしてもというのなら付き合ってあげても……」

「ははは……もう黙ってろ」


 この姉ちゃんはやっぱり変だよな……美人なのに残念すぎる。レベルが高すぎて付いてけないわ。無論、悪い意味で。


 しかし、ここ数日でかなり稼いだよな。生活費はどうにかなりそうだし、しばらくはのんびりすごすか。


「ふん、何をのんきな。貴様はまだ、魔人としてデビューしたばかりのひよっこよ。今後はもっと、邪悪で手強い者どもが襲い掛かってくるであろう。遊んでいる暇などないと思うぞ」


 テーブルの上をウロウロして食料や飲み物をつまみ食いしながら、メルが呟く。


「嘘だろ……それって、俺が魔人だから狙われるって事か?」

「そういう事だ。力を得た以上、それなりのリスクは覚悟しておけ。だが、そう悲観する事もないぞ。上手く立ち回れば、この世界を思うままにできよう。富も名声も、好きなだけ貴様の物になるのだ。うれしかろう?」


 ニヤリと笑うメルに、寒気を覚える。

 悪魔の囁きにしか聞こえないんだが……コイツは一体、俺に何をさせたいんだろう。


「……ハチオは色んな女を好き放題にしたいの?」

「そんな事は言ってない! 変な言い掛かりは……あっ、お前、どんだけ飲んでるんだよ? いくらなんでも飲みすぎだろ」


 いつの間にか大量の酒瓶を空にしているクロムに冷や汗をかく。

 クロムはほんのりと頬を染め、虚ろな目でヘラヘラと笑い、俺に寄り掛かってきた。

 うわ、酒くせえ! こりゃ、演技じゃなく本当に酔ってるな。


「試しに私と遊んでみない? こう見えてもまっさらの乙女よ」

「何が乙女だ……って、それって……」


 えーと。つまり、そういう経験がないって事か?

 エロい事ばかり言うから経験豊富なのかと思ったが……まあ確かに、なんとなくそんな感じもしていたな。

 いやでも、酒に酔ってそういう誘いを掛けてくるってのはどうなんだ。もう少し自分を大切にした方が……。


「私は強い男に惹かれるの……ハチオはかなりいい線行っているわ……」

「そ、そうすか。それはどうも……」

「だから、私と……子作りしましょー……!」

「あ、ああ、そうだね……って、子作り!? 何言ってんの、お前!」


 真っ赤な顔でフーフー言いながら迫ってくるクロム。

 この人、泥酔してるよ! もうすっかり理性が飛んじゃってるよ!

 なんかすごい力で俺の腕をつかんでるし……くっ、振り払えない……!


「おう、なんだハチオ、モテモテだなあ? うひゃひゃひゃ!」


 声を掛けてきたのはラグだった。大ジョッキを片手に俺の肩に手を置き、ゲラゲラと笑う。

 するとクロムが目を細め、低い声を発した。


「お前は……ハチオと密会していた、ダークエルフの女……!」

「誰だ、あんた? 金借りてないよな?」

「やかましい。ハチオとはどういう関係なの……正直に言え……!」


 するとラグは首をかしげ、ニヤッと笑った。


「んー、まあ、ただならぬ関係ってヤツかな……借りがあるから逆らえないんだよなー」

「た、ただならぬ関係ですって……!」

「お、おい、何を言い出すんだ。妙な言い方するなよ!」

「ああ、悪い悪い。まだなんにもしてないもんな。でも、ハチオが要求するんなら……エロエロな事してもいいぜ?」

「なっ……!」


 ラグがペタッとくっついてきて、熱い息を吹きかけてくる。

 うわ、酒くせえ! コイツもかなり酔ってるな。

 でっかい胸をムニュッと押し付けてきて、ヘラヘラと笑うラグ。酔ったクロムとラグに挟まれ、身動きが取れなくなる。

 めちゃくちゃ気持ちいいが、困るなあ……。


「まあまあ、なんですか、そんな所に固まって……大丈夫ですか、ハチオさん」


 そこへサリアがやって来た。おお、いいところへ……助けてもらおう。


「いや、酔った二人に絡まれててさ。助けてくれ」

「……」


 するとサリアは俺をジッと見つめ、ムッとした表情を浮かべた。


「二人を酔わせてお持ち帰りしちゃうつもりですね! あの時の私のように!」

「ええっ!? 何を言って……」


 そこで俺は気付いた。サリアが酒瓶を握り締めている事に。

 おいおい。もしかして、サリアも酔ってんのか。みんな、酒癖が悪すぎだろ……。


「ハチオさんのペロペロ魔! 我が宗派に入信してください!」

「どさくさまぎれに勧誘するな! なんだよペロペロ魔って!」

「ペロペロする魔です! やだ、怖い!」

「酔ったお前の方がこええよ!」


 言ってる事が支離滅裂だ。そんなんじゃ白蛇王とかいう神様が泣くぞ。

 うちのパーティは全滅か。こうなると最後の一人に助けてもらうしか……。


「ハチオ。何をしているんだ?」

「お、おう、ノイズィ。いや、みんな酔っ払っちゃって、参ってるんだよ」


 ノイズィは俺達をジッと見つめ、不思議そうに首をかしげた。


「よく分からないがー……みんな、お酒に酔ってるんだな? 酔い覚ましの魔法を食らわせてあげようか」

「酔い覚ましの魔法? それって……」


 そこでアイテム屋の女店主が、慌てた様子で駆け寄ってくる。


「ノイズィったら、ジュースと間違えてお酒を! 酔っ払ってるでしょ、あなた!」

「……えっ?」


 するとノイズィはニヤリと笑い、杖を振り上げた。

 目がグルグルと渦巻いていて、顔が真っ赤だ。どうやら完全に正体をなくしている模様。

 こ、これはひょっとして、まずくないか……?


「どいつもこいつも私の事を子供扱いして馬鹿にして! 許さないぞ、こんちくしょう!」

「ノ、ノイズィ、落ち着け!」

「うるさいぞ! 私が大人ぽいとこを見せてやる! 子供にこんな魔法が使えるか!?」


 ノイズィが呪文を唱え、杖の先に電流の集合体みたいなものが出現し、グングン大きくなっていく。

 おい、まさか……屋内で雷撃魔法をぶちかますつもりか? そんな真似をしたら、こんな店なんか跡形もなく吹き飛ぶぞ。


「や、やめろ、ノイズィ! 誰か止めて……ああっ、いつの間にか、みんないない!?」


 俺達を除き、店内にいた人間はみんな避難したらしく、一人も残っていない。

 アイテム屋の店主まで逃げやがった! こ、こうなったら、俺がどうにかして……。


「うおおおお、プラズマボールXL! いくぞおおおおお!」

「まさかの新呪文かよ!? こんなのどうしようもねえわあ!」


 まばゆい閃光が弾け、視界が真っ白に染まる。

 何がなんだか分からなくなり、俺の意識は薄れていった。


 ……今度こそ死んじゃったか? やれやれ……。



今回で一章完結です。

二章以降はいずれまた。

ご愛読ありがとうございました。

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