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23.何もしてませんよ?


 翌朝。唐突に俺は目覚めた。

 そこは宿屋の一室だった。ベッドの上で目を覚ますなり、ガバッと身を起こし、ハーフパンツのポケットを探る。


「あった! ふう、あせったぜ……」


 小銭が入った革袋の財布がなくなっていないのを確認し、安堵の息をつく。

 金貨も入っているからな。盗まれたら大変だ。

 まあ、今のパーティメンバーに盗むような人間はいないと思うが、通りすがりの誰かに盗まれてしまう可能性はある。油断は禁物だ。


 しかし、いつ宿屋に……まったく覚えていないんだが、またしても酔い潰れてしまったのか?


「んんっ……あれ、ここは……?」

「!?」


 ベッドのシーツが盛り上がり、隠れていた人物が姿を現す。

 嘘だろ。なんで俺と同じベッドに寝てるんだ。しかも女が……。


 俺の存在に気付くなり、目を丸くして固まったのは、水色の長い髪をした少女、サリアだった。


「なっ、なななな、何がどうなって……!」

「お、落ち着け、サリア。俺にも何がなんだか……」

「さ、さては私をお持ち帰りしてペロペロしたんですね!?」

「してねえよ! なんなんだペロペロって!?」


 サリアはローブを脱いでいて、白いワンピースミニみたいな服だけを着ていた。

 身体のラインが丸分かりで、実に刺激的な眺めだ。大きく膨らんだ胸元や、剥き出しの白い太股に目を奪われてしまう。

 何がどうなったのか分からないが、俺はサリアと同じベッドで寝ていたのか?

 それって、つまり……い、いや、まさかな。そういう経験のない俺にそんな真似ができるはずないよな……。


「こ、こうなったら、責任を取ってもらうしか……我が宗派に入信し、ギルドメンバーになってください!」

「ごめん、お断りだ!」

「まあ、なんて無責任な! 私の純血を奪っておいて、なんの責任も取らないおつもりですか?」


 いや、そう言われても。変な事をした覚えはないし、たぶんしてないだろ。

 俺が困っていると、ベッドの傍らにあるミニベッドに寝ていたメルが身を起こし、あくびを漏らした。


「ふああ、やかましいな……騒ぐのは酔った時だけにしろ、クソ人類ども……」

「メ、メル。丁度いい、昨夜、何がどうなったのか教えてくれよ」

「昨夜? 貴様は酒を飲んで、またしても酔い潰れてしまったのではないか。覚えておらんのか?」

「そ、そうか。それで、酔い潰れた後は?」

「その女が貴様を引きずってここまで運んだのだ。『ペロペロしちゃいますぅー』とか言って、ベッドに寝かせていたな」

「なっ……じゃあ、サリアが俺をここに?」


 俺が目を向けると、サリアは赤い顔をして目を泳がせていた。


「あ、あれ? そうでしたっけ?」

「とぼけるなよ! しかも俺をペロペロしたのか? ひ、ひどい!」

「し、してませんよ! ……たぶん」


 こんな美人になら、むしろこっちからお願いしたいぐらいだが……覚えてないんじゃ無意味だよな。

 そもそもペロペロってなんだ? どこか舐めるのか? 一体どこをどんな感じで……。


「ま、まあその、事故という事で忘れましょう。お互い、昨日は酔っていたみたいですし……」

「そ、そうだな。でも、俺は何をされたんだろう……そこがちょっと気になるな……」

「な、何もしてませんよ、たぶん。私は神に仕える身ですよ? 自分からふしだらな真似などするはずが……」

「ならいいけど……」


 ベッドの上で見つめ合い、互いに赤面してしまう。

 なんだこの、妙な空気は……参ったな。

 二人とも服を着ているんだし、そこまで変な事にはなっていないと思うが、どうなんだろ。


 気まずい雰囲気のまま、部屋を出る。

 宿屋の受付前には小さな食堂があり、そこのテーブルにクロムとノイズィの姿があった。


「あっ、やっと起きてきたか! おはようだぞ!」

「あ、ああ、うん、おはよう……」


 朝から元気一杯のノイズィに笑顔で挨拶をされ、ぎこちなく笑みを浮かべて応える。

 俺とサリアがテーブルに着くと、クロムがジロッとにらんできた。


「昨夜は二人で消えたみたいだけど……もしかして、同じ部屋に泊まったの?」

「「!?」」


 鋭いな。というか、クロム達は知らなかったのか。

 それなら疑われるような事は言わない方がいいよな。サリアとうなずき合い、答えておく。


「は、はは、まさか。別々に決まってるだろ」

「そ、そうですよ! 馬鹿な事を言わないでください!」

「……」


 クロムは目を細め、疑いの眼差しで俺とサリアを交互に見ていた。

 メルの奴がニヤッと笑って何か言おうとしたので、口元に指先を当てて黙らせておく。

 そこでノイズィが、不思議そうに首をかしげて呟いた。


「何を言っているんだ? 二人が同じ部屋に泊まってたのは確認済みだぞ!」

「「!?」」


 俺とサリアは驚き、ノイズィに尋ねてみた。


「確認済みって……知ってたのか?」

「うん、そうだよ! クロムと一緒にハチオ達の部屋に行ったから!」

「そ、そうなのか……」


 いや、だったらなんでクロムは知らないフリを……。

 もしかして、俺達を引っ掛けたのか?


「……二人がどう誤魔化すのか試してみた。正直に言えば何もなかったと思ったんだけど……何かあったのね?」

「い、いや、何もないって! 考えすぎだよ!」

「そ、そうですよ! 酔っ払っていましたし、何も変な事は……」


「何もなかったのか? 二人で抱き合って寝てたのに!」

「「!?」」


 ノイズィから衝撃の事実を告げられ、目を丸くする。

 抱き合ってたのか。すげえな、俺。よくもまあ、サリアみたいな美人と……信じられないぜ。


「そ、それはあれだよ。酔ってたからわけも分からずに……」

「え、ええ、そうですよ! まったく記憶にないですし……私達は無実です!」

「「……」」


 ノイズィとクロムは無言で俺とサリアをジーッと見つめ、やがて呟いた。


「大丈夫みたいだな! 深い仲になったわけじゃないみたいだぞ!」

「そうね。単に酔っ払った勢いで一緒に寝てしまっただけか……よかった」


 どうやら、おかしな疑いは晴れたようで何より。疑われたまんまじゃ気まずいもんな。

 クロムが目を細めてサリアをにらみ、不愉快そうに呟く


「私がハチオをお持ち帰りしてペロペロする予定だったのに……サリアに裏切られるとはね」

「べ、別に裏切ったわけじゃ……言い掛かりはやめてください」

「この状況で言い逃れできるとでも? さてはサリアもハチオをペロペロしようと狙っていたのね……!」

「狙ってませんってば! ああもう、なんで私が何かしたみたいに言われるんですか! 普通は男性の方が疑われるはずでしょう!」


 確かにそうだよな。サリアが俺を引きずっていったのを誰かから聞いたのか?

 するとノイズィが理由を告げた。


「だって、部屋に様子を見に行ったら、邪教徒のお姉ちゃんがハチオにしがみついて顔をペロペロしてたし!」

「わ、私がですか? そんな、信じられません……!」


 顔を赤くしてうろたえるサリアを、クロムがジロッとにらむ。


「ふん。こういう一見大人しくて清楚っぽいのに限って性欲が強いのよ。隙あらば男を餌食にしようと狙って……」

「し、失礼な! 私は神に仕える身なのですよ! そんなふしだらな事なんか考えていません!」

「実際、ハチオをお持ち帰りしちゃったしな! ……ところで、せいよくってなんだ?」

「性欲というのはね、性的欲求の事で……」

「おいコラ、無垢な少女に不必要な知識を吹き込むな!」


 とりあえず何もなかったという事で、ほっとした。

 気を付けないとな。酒を飲まされる度に酔い潰れていたんじゃ洒落にならないぞ。


 さて、当面の生活費は稼げたし、少しのんびりするか。

 ダメージを受けるのを防ぐアイテムを探して回るのもいいかもしれない。

 なんにせよ、しばらくはゆっくりできそうだな。


 ……などとのんきに考えていたんだが。

 既に次の事件は迫ってきていたのだった。


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