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21.不死身だからアンデッドと呼ばれるわけで


 そこでメルが、ドラゴンゾンビに告げた。


「おい、不死の化け物! 貴様も運がなかったな!」

『むう? なんだ、随分と小さい女が……愛人にしてやってもいいが、さすがに小さすぎるのう』

「誰が貴様ごときの愛人になどなるかボケ! それより、覚悟はいいのか?」

『覚悟、だと?』

「そうとも! ここにいるハチオは、最強にして無敵の魔人よ! 何者であろうと、絶対に勝てはせぬ! たとえ不死の化け物であろうともな!」

『魔人? その小僧が? ほほう……』


 煽りまくるメルに、俺は冷や汗を垂れ流し状態だった。

 あの馬鹿、何を考えてるんだ。せめて、俺が魔人なのは伏せとくべきだろ。相手を油断させるために。

 こんな化け物を出し抜こうとするのなら、不意打ちか騙し討ちしかない。警戒させてどうする。


『……もしや、デス・ジ・エンドを倒したのは、貴様か?』


 ドラゴンゾンビが呟き、ハッとする。

 デスなんとかって、例の死神魔人の事だよな。コイツ、やはりあいつと繋がりがあったのか。


『あの魔人は、我が同胞……我の身体の一部が分離して魔人化したものなのだ。倒した者を捜していたのだが、貴様がそうなのか?』


 ちょっと待て。コイツの方があの魔人よりも格上なのかよ! なんてこったい。

 これはもう、戦うよりも逃げる事を考えた方がいいんじゃ……このままだと全滅するぞ。


「いかにも! あの死神魔人を倒したのはハチオだ! どうだ、怖かろう?」


 得意そうに胸を張り、言わなくていい事をメルのアホが大声で叫ぶ。

 ちょっ、馬鹿かコイツ! なんでそんな情報を与えるんだ。

 ずっと余裕だったドラゴンゾンビが、明らかに警戒している……というか、激怒してるんじゃないか? すげえ殺気が充満してるんだが。


『そうか、貴様が……クッ、ククク……!』

「むっ、何がおかしいのだ? 誰もギャグなど言っていないのに」

『これが笑わずにいられるか。まさか相手の方からノコノコとやって来るとはな……大方、賞金目当てに我の部下どもを仕留めに来たのだろうが……貴様の方こそ運がなかったな』


 あたりに不気味な笑い声を轟かせるドラゴンゾンビ。

 今現在、俺達は奴の頭の上に乗っかっている状態だ。逃げようにも逃げられない。

 いざとなったら、俺の能力でどうにかできるんじゃないかと考えていたんだが、魔人より格上のモンスターとなると、どうにもならないんじゃないか?


『では、我が分身の仇を討たせてもらおうか……男は、死ね!』

「!?」


 ドラゴンゾンビの目の部分、がらんどうの穴の奥に不気味な青白い光が灯り、そこから閃光がほとばしる。

 あっ、と思った時には既に手遅れ。左右の目から放たれた二条の光が俺を貫き、激痛が走った。


「ぐっ……!」


 すげえ痛いが、問題はダメージだ。

 ダメージ0なら痛みはあっても死にはしないから、まだ大丈夫……。


 視界の隅に『ダメージ20』という表示が見え、真っ青になる。

 終わった! 今の俺は『ダミーくん』を持ってないし、これで二度目の人生も終了か……。


 だが、なぜか意識はハッキリしていて、身体にも異常は見られなかった。

 どういう事だ? 一体、何が……。


「うっ……! くうう……!」


 苦しそうに声を上げたのはドラゴンモードを解除したクロムだった。

 彼女のHP表示が130/150になっているのを見て、ハッとする。


「ク、クロム? まさか、俺のダメージを肩代わりして……!」


 例の『ゴートくん』はクロムには渡さずに、俺が二つとも持っているはずなんだが……どうやらダメージを受ける側の人形をクロムが持っていたらしい。

 いつの間に……おかげで助かったが、これじゃクロムが危ないぞ。


「わ、私は平気だから……ハチオは気にせず、戦って……!」

「クロム……すまん、恩に着る……!」


 正直、変な女だと思っていたが、意外といいやつだったんだな。

 せっかく死なずに済んだんだ。この機を逃す手はない。存分に反撃させてもらう……!


「今度はこっちの番だな……行くぜ!」

『ぬう……!』


 地を蹴って駆け出し、ドラゴンゾンビの眉間へと迫る。

 右腕を振りかぶり、クロムが削った箇所を狙い、掌を叩き付ける。


「はあっ!」


 『闇の風』を発動させ、漆黒の烈風を放つ。

 黒き風の刃がゴリゴリと骨を砕き、眉間から亀裂が走り、頭部全体に広がっていく。


『ぬぐおっ!? お、おのれ! だが、この程度で我を倒す事は……』

「まだ、終わってないぜ……うおおおおお!」


 何しろ、でかい上に骨だけで生きているアンデッドモンスターだ。

 頭の一部を砕いたぐらいでは倒せないだろう。だったら、それ以外の部分も破壊するまでだ……!

 右手を左手で支え、意識を集中、さらに大きな風を発生させる。

 下へ向けて風を放ち、頭部から首へ、首から胸へと破壊する範囲を拡大していく。

 頭部全体が崩れてしまい、足場を失った俺達は、空中に投げ出されてしまった。


「みんな、何かにつかまれ!」


 皆が悲鳴を上げる中、俺は落下しながら攻撃を続けた。

 『闇の風』が渦を巻いている影響で上昇気流が生じ、俺達の身体を浮遊させている。すぐには落ちずに済みそうだ。

 さらに強く、もっと強く……黒き旋風を竜巻のごとく生じさせ、ドラゴンゾンビの巨体を可能な限り粉砕してやる。

 大きすぎて俺の攻撃じゃフォローしきれないが……それでも身体の半分以上は粉々にしてやったぞ。

 ざまあみやがれ、俺の勝ちだな! そう思った直後、ドラゴンゾンビの声が響いた。


『やるではないか、魔人に見えぬ魔人よ……だが、我も伊達に『不死の王』を名乗っているわけではないのでな……!』

「!?」


 粉々になった骨の欠片が空中で集まり、頭部の形を造り出す。

 再生した頭部が大口を開き、青白い閃光を放つ。

 その直撃を受け、俺は全身を焼かれるような激痛を感じた。

 『ダメージ50』と表示され、俺のダメージを肩代わりしたクロムが悲鳴を上げる。


「きゃああああ!」

「ク、クロム! くそ、この骸骨野郎が!」


 宙に浮いた頭部に狙いを定め、『闇の風』を放ち、吹き飛ばす。

 あっさり消し飛んだが、すぐに骨の欠片が集まり、頭部を形成する。


『無駄だ! 我は不死身なり! 既に死んでいる我を殺す事などできはせぬ……!』

「くっ……!」


 既に死んでいるから殺せない、か。

 だからアンデッドっていうんだろ? そのぐらい知ってるよ。

 しかし、ゾンビは魔法攻撃で普通に倒せていたし、例の死神魔人だって俺の攻撃で消滅したんだ。

 アンデッドだから倒せないって事はないはず。不死身な奴なんているものか。


「ホーリー・ライトニングボム・ミニ!」


 風に煽られ、緩やかに落下しながらサリアが杖を振るい、小さな光球を連続で生じさせ、あたりにばらまく。

 爆発が連続で起こり、骨の欠片が次々と消し飛んでいく。


「私もやるぞ! プラズマ・ランチャー!」


 逆さになって落下中のノイズィが、とんがり帽子を押さえながら杖を振るい、呪文を唱える。

 雷撃の塊が生じ、弾けて、いくつもの稲妻を拡散させ、骨の欠片を手当たり次第に爆破していく。


「私だって……まだまだやれる……はあああああ!」


 クロムは崩れかけたドラゴンゾンビの身体を足場にして跳躍し、闘気の渦をまとったドリル剣を振るい、巨大な白骨死体をガリガリと削っていった。

 みんな、あきらめていない。むしろ勝つ気満々でいるみたいだ。

 だったら、俺があきらめるわけにはいかないよな。何せ、最強の力を与えられた無敵の魔人なんだから……!


「はあっ! 行け、闇の風!」


 宙に浮いた頭部を狙い、漆黒の風を叩き付けるようにして放つ。

 粉々に吹き飛んだものの、すぐにまた再生してしまう。

 だが、構うものか。みんな、がんばってるんだ。ヤツが再生できなくなるまで、何度でも吹き飛ばしてやる!


『何度やっても無駄だ! 大人しく女どもを差し出せ! そうすれば命だけは助けてやらんでもないぞ……!』

「うるせえ、このエロゾンビが! てめえなんざに大事な仲間をくれてやるわけねえだろうが! この世から消え失せろ、アホが!」

『ぬうう……!』


 闇の風を連発したおかげか、もはやドラゴンゾンビの巨体は全てが砕け散っていた。

 無数の骨の欠片が宙を舞い、それらをみんなが破壊している。

 だが、それでもヤツは死んでいない。いや、元から死んでいるからその表現はおかしいのかもしれないが、ともかく倒せていない。

 全身を完全に消滅させてしまえば倒せるんじゃないかと思ったんだが……次から次へと骨の欠片が復活している。このままじゃ駄目か。

 この馬鹿でかいアンデッドを倒すにはどうすりゃいいんだ? 何か方法はないのか……。


「ヤツの魂を破壊しろ! それで終わるはずだぞ!」


 俺の肩につかまりながら、メルがアドバイスを送ってくる。

 魂を破壊、か。確かにそれなら効きそうだな。

 だが、魂なんてどこにあるんだ? それらしいものは見当たらないが……。


「見えずとも感じ取れるはず。貴様ならできる」


 俺ならできる、か。分かった、信じよう。

 目を閉じ、精神を集中。あたりには『闇の風』が渦巻いていて、上昇気流を発生させている。

 この風は俺に情報を与えてくれる。まるで風そのものが身体の一部になったように。

 そこら中にものすごい数の骨の欠片が乱れ飛んでいるが……それらとは違う、どす黒いエネルギーの塊みたいなものがあるのに気付く。

 ……あれか。『闇の風』が作り出した渦の外側にいやがったな。


「……そこだ!」


 腕を振るい、新たな『闇の風』を解き放つ。

 威力は全力、全開だ。持てる力の全てを叩き付けるつもりで漆黒の烈風を食らわせてやる。

 何もない空間に向けて黒き風が突き抜けていき、そこにある『何か』を貫く。


『グオッ!? ば、馬鹿な、貴様、我が不可視の魂が見えるのか……?』

「いや。なんかそのあたりからエロい気配がしたから……ほとんど勘だよ」

『ぬ、ぬう、不覚……! 邪魔な男をさっさと片付けて、若い女どもと淫らな遊びに興じようと妄想していたのがまずかったか! こうなったら最後の力を振り絞り、女どもの衣服を吹き飛ばして全裸を鑑賞してくれようぞ……!』

「お前それが最期の言葉なのかよ!? 最低すぎるだろ!」


 ちょっと見てみたい気もしたが、ここで攻撃の手を緩めれば逆転されるかもしれない。

 さらに威力を強め、ドラゴンゾンビの腐った魂を粉微塵にしてやる。


『お、女はみんな我の物! 男は死ねええええええ……!』


 最低最悪の捨て台詞を叫びながら、ドラゴンゾンビの魂は砕け散り、空の彼方へと吹き飛んでいった。

 ヤツの骨も力を失い、地面に落ちて降り積もっていく。

 『闇の風』が消えて、風が収まっていく。宙に浮いていた俺達は次々と落下していき、細かく砕いた骨の山の上に着地、埋まった。


「あいててて……み、みんな、無事か?」


 身体を起こし、あたりを見回す。

 幸い、みんな生きている様子で、手を挙げて無事なのをアピールしてくれた。


 あいつを倒せそうにないと思った時、もう駄目だとあきらめ掛けたんだが……みんなが踏ん張ってみせてくれたおかげで、俺もがんばる事ができた。

 俺一人だったら負けていたな。みんながいてくれてよかった。


「ドラゴンゾンビこと『不死の王』、メギドゴギエルを倒すとはな。これで貴様の魔人としての知名度も上がる事だろう」


 メルが羽をパタパタさせながら寄ってきて、妙な事を言う。

 というか、コイツ、あのドラゴンゾンビが何者なのか知っていたのか?


「メギド……なんだって?」

「『不死の王』メギドゴギエル。この世界に存在するアンデッドモンスターどもの親玉みたいなヤツだ。人間がどうにかできるレベルの化け物ではないが、最強の魔人である貴様の敵ではなかったな」


 そう言えば、あいつ自身も『不死の王』とか言っていたな。

 やはりあのモンスターは相当な大物だったって事か。ギルドの依頼も、あいつの部下のゾンビがターゲットだったみたいだし。

 今さらだが、俺がもらった力は桁違いに強力なものらしいな。まだまだ使いこなせていない感じだが、極めれば本当に無敵で最強なのかも。


「ヤツを倒した事で邪悪な者どもが動き出すだろう。楽しくなりそうだな」

「えっ?」


 ニヤリと笑うメルに、俺は寒気を覚えたのだった。



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