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2.始まりの闘技場

「ううっ……こ、ここは……?」


 目を覚ました俺は、ゆっくりと身体を起こした。

 少しだるいが、身体に異常はなさそうだ。手足を動かしてみて、異形の化け物などに姿を変えられていないのを確認し、安堵する。

 俺は元の姿のまま、異世界に送られたのか。


 部屋着の半袖シャツにハーフパンツのままか。異世界を攻略するのには軽装すぎるな。

 ちゃんと靴を履いてるのはサービスか? ボロボロの汚いスニーカーだけど、裸足よりはマシか。

 しかし、ここはどこだろう? スタート地点の街や草原……じゃないよな。

 やたらと薄暗く、辺り一面、石畳で覆われた地面が広がっている。見える範囲には壁や柱などの遮蔽物はなく、ガランとしている。

 神殿、って感じでもないな。なんなんだ、ここは……?


「うむ。ここは闘技場だな」

「闘技場? へー、そうなんだ……って、お前は!?」


 いきなり声を発した人物に目を向け、その姿を見て驚く。

 そいつはすごく小さい、体長二〇センチかそこらの、妖精みたいなやつだった。

 長い銀髪をなびかせ、フワフワと宙に浮いたそいつは、俺をここに送り込んだ、例のメルトなんとかによく似ていた。

 微妙に姿が違うみたいだが……メルトなんとかは白い翼を生やしていて女神か天使みたいだったが、コイツはコウモリみたいな羽を生やしていて、悪魔みたいな感じだ。


「私はメルトリオン本体から分離した存在――本体の鼻くそみたいなものだな」

「は、鼻くそ?」

「うむ。本体に比べると弱くて小さいので、メルと呼ぶがいい」

「……」


 天使の鼻くそは悪魔なのか? 自分で自分の事を鼻くそとか言う奴、初めて見た。

 なんでコイツがここに……案内役とか、そういうのか?


「貴様をナビゲートするために来てやった。土下座して感謝するといいぞ」

「……えっと、チェンジで」

「またキャンセルするつもりか!? ミジンコ以下のクソ人類のくせに生意気な! 少しは我を敬え!」

「す、すんません、鼻くそ様」

「鼻くそ言うな!」


 自分で言ったくせに……わがままなヤツだな。

 まあいいさ。まずは状況を確認しよう。


「それで、ええと、メルだっけ? なんで俺は闘技場なんかにいるんだ?」

「うむ。特に意味はない」

「ないのかよ!? いや、普通はなんかあるだろ? 適当な敵と戦って、この世界で使える力について学ぶとか、本当に無敵になったのか確かめるとか……」

「おお、なるほど。そういう理由が考えられるのか……だが、特に何もないぞ?」

「本当に何もないのかよ!? 嘘でもいいから何か理由を用意しといてくれよ!」

「分かった。次からはそうしよう」


 あっ、この野郎。『次からは』って、今回はこのまま流すつもりかよ。なんていい加減なんだ。

 もういい、そっちがそういう態度なら勝手にさせてもらおう。

 こんな無人の闘技場なんかにいても時間の無駄だ。まずはここから出て、異世界ってのがどんな感じなのか確認しよう。


「えーと、出口はどこだ……?」


 とりあえず、適当な方向へ歩いてみる。いずれどこかに突き当たるだろう。

 しかし、なんだここは。無駄に広いな。

 おまけに薄暗くて、周りの様子がよく見えない。少し先は闇に包まれていて、まるで果てがないように見える。


「はあ、ひい……どんだけ広いんだよ……」


 一〇分以上は歩いたはずなのに、出口どころか壁すら見えない。

 間違いなく一キロメートル以上は歩いたぞ……ドーム球場何個分の建物なんだよ。

 悪魔みたいな妖精、メルはコウモリみたいな羽をパタパタさせ、俺の傍らにフワフワと浮遊している。

 あまり当てになりそうにないが、コイツしかいないのだから仕方がない。試しに尋ねてみる。


「なあ、おい。出口はどこなんだ?」

「なんだと? 貴様が知っているのではないのか?」

「俺が知るわけないだろ! まさか、お前も知らないのか?」

「知るわけなかろう。こんな所に来たのは初めてだ」

「えー……」


 本当に当てにならない……コイツ、俺をナビゲートするとか言わなかったっけ?


「私の本体は神に等しい超存在。いくつもの世界と関わったり関わらなかったり、管理したり放置したりしている。そのうちの一つにしかすぎない世界にある一施設の事など知るかボケ」

「感じ悪いナビだな! じゃあ、なんでここが闘技場だって分かったんだよ?」

「貴様の転送先ぐらい知っておるわボケ。殺すぞ?」

「もはやチンピラじゃねえか! 妖精さんならもう少しかわいらしく振る舞えよ!」


 なんでこんな、いい加減で柄の悪いのが俺のナビなんだ……今後が不安すぎて怖いわ。

 ともかく外へ出ないと……スタート地点を永遠にさまよい歩くとか冗談じゃないぞ。


「おっと。お迎えが来たようだぞ」

「えっ?」


 メルが上空を見上げ、どこか楽しそうに呟く。

 ちなみに空は真っ暗で、曇っているのか夜なのか、それとも天井があるのかすらも分からなかった。

 何かが、急降下してくる。恐ろしくでかい何かが……。


 巨大な翼を羽ばたかせて降りてきたのは、ファンタジー系のゲームでお馴染みのモンスターだった。

 小山のように巨大な体躯、岩のように硬そうな肌、長い首、凶悪な面構え……間違いない、ドラゴンだ。

 そのドラゴンは漆黒の皮膚をしていて、目には瞳がなく、赤く光っていた。


 おお、すげえな。生でドラゴンなんて初めて見た。さすがは異世界だ。

 ……などとのんきに感想を述べている場合じゃない。なぜなら、ドラゴンが強烈な殺気を放っているから。

 でかい生き物ってだけでもおっかないのに、肉眼でも分かるレベルでどす黒いオーラみたいなのを発しているのだからたまらない。

 しかも殺意全開の目で俺をにらんでるんだが……俺、ドラゴンに恨まれるような事したっけ?


「こいつはこの闘技場を守っている番人だな。侵入者を排除しに現れたようだ」

「そ、そうなのか? 侵入者って、俺の事?」

「貴様以外に誰がいる。ちゃんと許可を受けて入場しないからこんな事になるのだ」

「いや、俺が希望したわけじゃないよね? 俺をここに転送したのはメルの本体だろ? なんとかしてくれよ」

「面倒な……まあいい、話すだけ話してみよう」


 メルは羽をパタパタさせて、ドラゴンに近付いた。


「おいコラ、卑しき爬虫類よ。私の言葉にありがたく耳を傾け、平伏するがよい」

『……』


 ドラゴンはジッとメルを見つめ、大人しく話を聞いているように見えた。

 おお、すごいなメル。さすがは超存在の分身だ。さしものドラゴンも恐れをなして……。


 不意にドラゴンが大きな口を開き、シュボッと紅蓮の炎を噴いた。

 メルは炎に包まれ、黒こげになってポトリと地面に落ちた。

 ……って、全然、恐れられてねえ! 蠅みたいな扱いだ!


「お、おい、メル! だ、大丈夫か?」

「だ、大丈夫ではない……私は本体の鼻くそにしかすぎぬのだ……はっきり言って、超弱いぞ……」

「弱いくせに偉そうにするから……次からは気を付けような?」

「う、うむ、善処しよう……」


 しかし、今、変なものが見えたような……?

 HP200、ダメージ190っていう表示が空中に出て、今はHP10って……。

 これはメルのHP? ドラゴンの攻撃でダメージを受けて減ったのか。

 なんでそんな数値が見えるんだ? この世界じゃそれが当たり前なのか、それとも……。


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