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18.新たなアイテムを手に入れよう!


「うーん……意外とないな」

「ないなー」


 『暗黒ギルド』任務依頼提示コーナーにて。

 壁一面に貼り付けられた無数の依頼書を吟味し、俺達はうなっていた。

 俺に相槌を打ったのはノイズィで、難しい顔をして依頼書をにらんでいる。


 難易度高めで高報酬、個人よりもパーティ向けの依頼を探しているんだが……よさそうなのが見当たらない。

 生息地不明の希少なモンスターの捕獲とか、無限地下迷宮の攻略とか、伝説の魔剣を見付け出して欲しいとか……手間と時間が掛かりそうなのばかりだ。

 もう少し単純なのがいいな。たとえば、居場所がはっきり分かっている、手強いモンスターの討伐とか。


「ん? これは……」


 とある依頼書に目を留める。

 『死霊騎士団討伐』だと……アンデッドで構成されたモンスターの集団か。討伐に成功すれば一〇〇〇万G……こりゃ大仕事だな。

 うーん、これはどうだろ。報酬はいいが、相手が集団というのがな。

 それに具体的な相手の数が書いていないのが不安だ。手強いアンデッドが数十体とかだと、かなり難しいんじゃないか。

 俺が見ていた依頼書をのぞき込み、ノイズィが言う。


「最近、噂になってる死霊騎士団か! いくつかの町が滅ぼされたって聞くし、コイツらが攻めてきたらこの町も危ないかも!」

「そうなのか。かなり危険な相手みたいだな」


 町が滅ぼされる可能性があるとなると、これはただの依頼じゃないな。最優先任務じゃないのか。

 この世界では、具体的な何か(たとえば魔王軍とか)と人類が争っているわけじゃなさそうだが……敵対する勢力や種族はいくつもあるみたいだな。

 魔族が人類の敵なのはゲームなんかと同じらしい。そして、魔人というのは魔族の仲間で、同じ魔族にすら恐れられている凶悪な種族らしい。

 つまり魔人にされた俺は、普通に人類の敵なわけか。これが原因で揉め事になったりしないといいんだが……魔人と人間とのハーフ、とでも言い張るしかないか。


「皆さん、よさそうな依頼がありましたよ!」


 声を上げたのはサリアだった。彼女の所に集まり、依頼書を見てみる。

 何々……『ドラゴンゾンビ討伐』だと……アンデッドモンスター退治か?

 居場所は町の北にある山で、数は一体のみ……報酬は……五〇〇万Gだと? コイツはまたえらく報酬がいいな。


「討伐に向かったパーティが何組も返り討ちにされて逃げ帰っているそうです。それで報酬がどんどん値上がりしているとか。かなり手強いモンスターのようですが……私達なら倒せそうな気がしませんか?」


 サリアが呟き、皆はうなずいた。


「余裕だな! よし、コイツを受けよう!」

「悪くなさそうね。一人なら苦しいけど、このメンバーならいけそう」

「決まりだな。ハチオの馬鹿一人でもやれそうだが、仲間がいる今なら楽勝だろう。貯金ができそうだ」


 誰も反対しないみたいだな。……ところで今、馬鹿って言ったか? 鼻くそ妖精め。

 俺としてもこれは悪くない依頼だと思う。このメンバーなら大丈夫だろうし。

 ただ、何組ものパーティが返り討ちにされているというのが気になるが……よほど手強い相手なのか。油断しない方がよさそうだ。


「やってみるか。がんばろうな、みんな!」

「「「「おーっ!」」」」


 そんなわけでドラゴンゾンビとやらを退治する依頼を受けてみる事になった。


 出かける前に、アイテム屋に寄っていく事にする。『ダミーくん』を失ったから補充しておかないと。


「えっ、在庫がない?」


 アイテム屋で女店主に尋ねてみたところ、俺が買った分で売り切れ、再入荷はまだらしい。

 在庫はあれだけとは言っていたが……参ったな。

 何か代わりになる物はないだろうか。それか、防具でも買っておくか。


「実は、『ダミーくん』の姉妹品があるのですが……」

「姉妹品?」


 女店主はそう言って、埃を被った小さな箱を持ってきた。

 中には手のひらサイズの人形が二体入っていた。『ダミーくん』に似ているが、額に宝石みたいなのが埋め込まれていて、少し豪華な感じだ。


「これが『ダミーくん』の姉妹品で『ゴートくん』です」

「ゴ、ゴートくん?」

「使い捨ての『ダミーくん』とは違い、耐久性が大幅に向上しています。超人気商品ですよ」

「箱に埃被ってませんでした?」

「気のせいです」


 間違いなく売れ残り品だな。まあ、使えるアイテムなら別にいいけど。


「効果は『ダミーくん』と同じなんすか?」

「いえ、少し違いまして、これは二つ一組で使います。まず、額の宝石が青い方を自分が持つようにして、もう一つの宝石が赤い方の人形を誰かに……ああ、ノイズィ、ちょっとこれを持ってみて」

「?」


 もう一体の人形をノイズィに持たせ、女店主は小型のハンマーを俺に手渡してきた。


「そのハンマーで私を殴ってみてください」

「えっ? でも……」

「軽く手を叩くぐらいでいいですから、お願いします」

「わ、分かりました。えっと、こうかな?」


 女店主が手を差し出してきて、俺はハンマーで彼女の手の甲を軽く叩いてみた。

 その瞬間、ノイズィが声を上げた。


「あいたっ!? なんだこれ、手を叩かれたみたいな痛みがあるぞ!」


 自分の手を押さえ、目を白黒させるノイズィ。

 つまりこれは……そういうアイテムなのか?


「この通り、他人にダメージを肩代わりしてもらうアイテムなのです。いくら攻撃を受けても自分はノーダメージ、人形も壊れません。すばらしい商品でしょう?」

「は、はあ。でも……ダメージを肩代わりする役の人間が壊れちゃうんじゃ……?」


 すると女店主は顔に暗い影を落として俯き、気怠げにため息をついた。


「実はそうなんです。誰がダメージを引き受けるかで揉めてしまう事が多いようで、ちっとも売れなくて……性能は確かなのに」


 おい今、「ちっとも売れなくて」って言ったな? どこが人気商品なんだよ。

 だが、『ダミーくん』がない以上、これで我慢しておくしかないか。何もないよりはマシだ。


「いくらなんですか?」

「こちら、定価二〇万Gのところを、なんと五万Gでご奉仕させていただいております。大変お買い得ですよ」


 四分の一の価格なのか。しかし、安くはないな。

 するとすかさず、ノイズィが叫んだ。


「高っ! また得意のぼったくりだあ! 売れ残りを高値で売りつけようとしてるぞ!」

「人聞きの悪い事を言わないでちょうだい! めちゃめちゃ値引きしてあげてるのに! ほとんど仕入れ値なんですからね!」


 物静かな店主が顔色を変え、噛みつきそうな勢いでノイズィにくってかかる。

 この人、ノイズィが相手だとすぐ感情的になるな。それだけ気心が知れた間柄って事なのか。


「ほら、どんなに優れたアイテムなのか身体で確認するといいわ! えいっ、えいっ!」

「あいたっ! 痛い痛い!」


 女店主が人形を脇に挟み、ハンマーで自分の手をガンガンと叩く。ダメージを肩代わりさせられたノイズィは涙目で痛みを訴えている。

 ……仲がいいんだよな? 喧嘩してるわけじゃないよな、たぶん。


「やったな、ドケチばばあ! お前なんかこうだ!」

「あっ!」


 ノイズィが店主に飛び掛かり、人形を取り替えてしまう。

 ダメージを送る側の人形を握り締め、ノイズィは自分の頭を杖でポカポカと叩いた。

 今度は自分がダメージを受ける側になり、女店主が頭を抑えて痛みを訴える。


「ひいい、痛い痛い! やめなさい、クソガキ!」

「やめるもんか! えいっ、えいっ!」


 ……本当に仲がいいのかな。なんか怪しくなってきたぞ。

 そこまでするのなら身代わり人形なんか使わずに直接殴り合ったらいいんじゃないかと思うんだが……いや、よくはないか。

 人形の押し付け合いを始めた二人をなだめ、人形を二つとも取り上げる。


「これを使うとどうなるのか、よーく分かりましたよ。こりゃ買わない方がいいかも……」

「そ、そう言わずに。今ならこの、おしゃれな腕輪をおまけに付けますから」


 女店主が差し出してきたのは、金属製と思われる細いリングだった。

 年代物なのか、かなり古びた感じがする。アンティークのアクセサリーか? こんなのもらってもな……。


「なっ……き、貴様、どこでそれを……!」

「?」


 声を上げたのは、俺の傍らに浮遊していたメルだった。

 目をまん丸にして腕輪を凝視し、小刻みにブルブルと震えている。ものすごく驚いてるみたいだが……あの腕輪がどうかしたのか?

 メルは俺の耳元に身を寄せ、耳たぶにつかまりながら小声で囁いてきた。


「おい、もらっておけ。アイテムも買っておけ。というか、アイテムは捨ててもいいからあの腕輪は手に入れろ」

「あれってそんなにいい物なのか?」

「おそらくな。もしかすると壊れているのかもしれんが……持っていて損はないはず」


 そこまで言うのならもらっておくか。掘り出し物なのかもしれないし。


「へえ、すごくおしゃれだな。俺、こういうの欲しかったんですよ! じゃあ、『ゴートくん』も買っちゃおうかな?」

「ありがとうございます! さすがはお客さん、お目が高いですね!」


 売れ残り品を処分できて、女店主はうれしそうだった。

 しかし、おまけでくれるって事は、この腕輪にはアイテムとしての価値はないんじゃないのか?

 腕輪を受け取った後、メルが小声で囁いてきた。


「それは、私の本体が作り出し、こことは別の世界でばらまいているリングだ……この世界にはあるはずがないのに、どこから流れてきたのか……」

「なんのリングなんだよ、これ。何か効果があるのか?」

「このリングは『進化の腕輪』という。装着者を進化させる効果があるのだが、人を選ぶ。適合する者にしか効果はない」

「進化ねえ……」


 強化じゃなくて進化なのか。それってまさか、人間を人間以上の何かにしてしまうって事か?

 俺は既に魔人にされているらしいが、そんな俺が進化したら何になるんだろうな。超すごい魔人とか? 悪魔になっちゃったりしないだろうな……。


「手首にはめればいいのか?」

「うむ。試しに付けてみろ」


 左手に腕輪を通し、手首に付けてみる。

 サイズはピッタリみたいだ。そこで腕輪が収縮して手首に食い込み、ギョッとする。


「うわ、なんだこれ、外れないぞ……!」


 冷や汗をかいた俺に、メルが静かに呟く。


「騒ぐな。リングが反応したという事は、適合したという事だ。なんの変化もないのが妙ではあるが、いずれ効果を現すはずだぞ」


 本当だろうな。変なリングが外せなくなっただけだったら悲惨だぞ。

 俺としては、これで防御力が少しでも上がってくれているとうれしいんだが……どうなんだろ。

 そして、結局購入してしまった『ゴートくん』だが。これって、俺だけが持っていても無意味なんだよな。

 ダメージを肩代わりしてくれる受け側の人形を誰かに持っていてもらわないと……でも、誰に渡そう?


「ノイズィはHPが低いし、サリアも低いよな。そうなると、パーティで一番HPが高いヤツに……よし、メルに渡しとくか」

「おい待て! 戦闘力皆無で激弱の私にダメージを押し付けるつもりか? なんという鬼畜! この外道めが!」

「お前、なぜかHPだけはずば抜けて高いだろ。適任じゃないか」

「ば、馬鹿者めが! もっと妖精さんを大切にしろ! 一生、女に触れる事ができなくなる呪いをかけてやろうか!」


 なんて恐ろしい呪いを……やはりコイツは悪魔だな。

 するとそこで、クロムがおずおずと声を掛けてきた。


「あの……私でよければ引き受けるけど……」

「えっ、いいのか?」


 確かにクロムのHPは150もあり、メルに次ぐ生命力だ。

 ダメージを引き受けてもらうのに適しているとは思うけど、女の子にそういう役を押し付けるのは抵抗あるな。


「おいコラ、私ならいいのか? マジで呪うぞ。雌の昆虫にしかモテなくなる呪いをかけてやろうか!」


 メルの抗議を聞き流していると、クロムが頬を染めながら呟いた。


「私は丈夫だし、平気だから。ハチオと痛みを共有できるのかと思うとうれしいし……」

「そ、そうか。でも、ダメージは全部そっち持ちになるんだぞ。それでもいいのか?」

「構わないわ。私を道具として使って! そういうのもありだと思うし……」

「……」


 うーん、なんだろ。俺は真面目に自分が死なないで済む方法を考えているだけなのに……。

 この人、プレイ的な何かみたいなのと勘違いしてませんかね。なんで頬を染めて息を荒らげてるんだ……意味が分からんわ。


「あ、あのう。よく分かりませんが、ハチオさんがクロムさんに淫らな遊びを強要しているんですか? 怖いです」

「大人の遊びってヤツかな? エッチだな!」

「ふん、ようやく本性を見せ始めたか。その調子で魔人らしく振る舞うがいいぞ。人間どもを恐怖とエロスで支配してしまうのだ! 上手く事が運べば、色欲魔人の称号を与えてやろう!」


 サリア、ノイズィ、メルの順にありがたい意見を述べてくれた。

 とりあえずメルにはデコピンの連打を浴びせて黙らせておく。ダメージが20ほど入ったが、自業自得だ。


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