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15.ギルドのエース


 さて、『暗黒ギルド』へ戻り、どうなったかというと。

 任務をクリアしたとサリアが告げると、普通に報酬が支払われていた。

 なんでもサリアは、ここのギルドにもメンバー登録しているらしい。自分の所のギルドが貧乏だからだとか。

 受付のお姉さんはサリアの素性を知っているらしく、手続きをしながらとても決まりが悪そうな顔をしていた。


「お、お疲れさまでした。その、今回の依頼についてはなんと言ったらいいのか……」

「気にしないでください。所詮ギルドは仲介組織だというのは理解していますので。うちを潰すよう依頼してきたどこかの誰かには、いずれ地獄を見てもらいます」

「そ、そうですか……」


 サリアは報酬の一〇〇万Gを受け取り、ニコッと笑っていた。

 ……目がまったく笑ってないように見えるのは気のせいじゃないよな。受付のお姉さんがビビりまくってるし。

 これで一応、この件は解決か。どこの誰がサリアのギルドを潰そうとしたのか、後で揉めそうな気はするけど。


 サリアは俺とノイズィ、ラグに報酬を分けてくれた。

 ギルドを潰されて大変だろうにな。どこかの誰かと違って義理堅いもんだ。

 そう言えば、俺はラグから持ち逃げした分の報酬を返してもらえるんじゃなかったっけ?


「悪い、もうちょい待ってくれ。倍にして返すからさ」

「普通に貸しにしている分を払ってくれればいいんだけど。一攫千金なんか狙わない方がいいぞ」

「夢がねえなあ。男なら、ドーンと儲ける方法を考えろよ! あたしはいつもそんな事ばっか考えてるぞ!」


 自慢できる事じゃないだろ。やっぱロクでなしだな、コイツ。

 とりあえず二五万G手に入ったのでよしとするか。これで当面の宿代と飯代が稼げたぞ。

 いくらかアイテム購入に使ってもいいな。死を回避するためのアイテムはいくつあっても困らないし。


 今日は飯でも食って、宿を決めて休むか。

 引き上げようとしていると、サリアが声を掛けてきた。


「あの、ハチオさん。少しよろしいでしょうか?」

「?」


 はて、俺に何の用だ? まさか愛の告白とか……なわけないよな。

 自慢じゃないが女にモテた事なんか一度もないし。ギャルゲは割と得意だったんだけどな。


 話をするのなら夕食を摂りながらにしようという事になり、ギルドを出て、近くにある食堂に入る。

 ノイズィは付いてきたが、ラグは「金儲けの作戦を練らないと」などと言って去っていった。

 適当なテーブルに着き、料理を注文する。俺とノイズィが並んで座り、向かいの席にはサリアが座る。

 料理が運ばれてくる前に、サリアは語り始めた。


「是非とも、ギルド再建のために手を貸していただきたいのです。どうでしょう?」

「……」


 まあ、大方そんな事だろうとは思っていたが。

 しかし、具体的に何をさせようっていうんだろう。あえて言うまでもなく、寄付ができるほど金に余裕はないし。


「実は、うちのギルドのエースとも言える人物がいるのですが……その人がギルドに顔を出さなくなってからというもの、我がギルドは衰退する一方でして。私が留守にしている間にメンバーが逃げてしまったのも、エース不在が原因だと思うのです」

「ギルドのエースか。つまり、そいつを探して欲しいと?」

「いえ、居場所は分かっているのですが……私が何を言ってもギルドに戻ってきてくれないのです。そこで説得を手伝って欲しいと思いまして」


 離脱したギルドメンバーを説得して戻るようにして欲しいってわけか。

 かなり難しいと思うが……ギルド仲間のサリアが言っても駄目なのに、部外者の俺が何を言っても聞いてくれないんじゃないか。


「どうかお願いします。場合によっては力ずくでも構いませんので」

「いいのかよ、そんなんで? 逃げられるだけなんじゃ……」

「逃げられないように両脚を折ってもらっても結構です」

「そこまでして!? 敵とか仇じゃなくて仲間なんだよな?」


 成功すれば報酬は弾むという。資金的な余裕があるとは思えないんだが、無理をしてでもそのエースとやらを連れ戻したいのか。

 サリアには世話になったし、分け前もたっぷりもらったしな。ここは助けてやるか。情けは人のためならずっていうし。



 翌朝。

 宿屋を出た俺は、ノイズィと合流し、サリアとの待ち合わせ場所へ向かった。

 待ち合わせ場所は暗黒ギルド前で、サリアは既に来ていた。


「では、行きましょうか。手強い相手ですので、どうか油断しないでください」


 サリアに注意され、うなずく。

 ギルドのエースっていうぐらいだしな。かなりの腕前なんだろう。

 一応、説得するって事になっているが……相手の出方次第では戦闘になるかもしれない。気持ちを引き締めておこう。


 サリアに案内され、向かった先は……町の中心にある大きな広場だった。

 中央に噴水があり、大勢の人々が行き交う、にぎやかな場所だ。

 問題の人物は、噴水の前に鎮座していた。


「あの人です」

「えっ? あれなのか……?」


 ギルドのエースと聞き、俺が想像していたのは、重厚な鎧を装備した騎士か、あるいは凄みのある魔法使いか。そんな感じの人物だった。

 だが、サリアが示した人物は、予想とは違っていた。

 というか、人ですらなかった。


 白銀の鎧を装備し、馬鹿でかい大剣を地面に突き刺し、座っているのは……一匹の白き竜だった。

 竜にしては小型だが、あれがサリアのところのギルドのエースなのか?

 きっと気難しいヤツなんだろうなとは思っていたが……人間じゃないじゃないか!

 これはもう気難しいとかそういうレベルじゃないんじゃ……というか、あれってモンスターじゃないのか? 言葉が通じるのか?


「クロムさん、こんにちは」

「……」


 サリアが声を掛けると、竜は長い首をもたげて彼女に目を向けたが、すぐに顔をそむけてしまった。

 あまり友好的な感じじゃないな。二人の間に何があったんだろう。


「ギルドに戻ってきてはもらえませんか? あなたが戻ってくれれば、他のメンバーも戻ってくるはずです」

「……」


 竜はふう、とため息をつき、耳まで裂けた口を開いて声を発した。


「断る。私はもう耐えられない……」


 おお、普通にしゃべったぞ。さすがはファンタジー世界だ。


「耐えられないって、何がですか?」


 サリアが問い掛けると、竜は大きな口をガパッと開いて叫んだ。


「邪教徒扱いされるのがだよ! こっちは正義を愛する真っ当な戦士のつもりなのに、町の人間はみんな、邪神を崇める頭のおかしい邪教徒扱いしてくるじゃないか! こんなの耐えられるはずがない!」

「私は平気ですよ!」

「平気なのはお前だけだよ! 他のギルドメンバーはみんな耐えられなくなって逃げ出した! 私だってもう御免だ!」


 ……あれ? なんか話の流れがおかしな感じに……。

 サリアの話を聞いた時点では、勝手に抜けたギルドメンバーを連れ戻すみたいな感じだったはずだが。

 なんだか、あのクロムとかいう竜の言い分の方が正しいような……この世界の事に疎い俺には何が正しいのかの判断は難しいが、少なくとも間違った事を言っているようには聞こえないぞ。


「そう言わずに。また一緒に我が神『白蛇王ケイオスノヴァ』を拝みましょう。楽しいですよ?」

「楽しいのはお前だけだろ! 私は元々、白蛇王みたいなマイナー神なんか信仰していないし! もうほっといてくれ!」


 するとサリアは笑顔のまま、スッ……と目を細め、俺達に小声で囁いてきた。


「今ですよ。あの人に不意打ちを食らわせて動きを封じてください」

「えっ? い、いや、それはどうだろ……もう少しちゃんと話し合った方がよくないか?」

「クロムさんは頭が堅くて頑固なのです。まずは叩きのめして抵抗する力を奪ってから話し合いをしてみようと思います」


 それでいいのか、サリア。なんだかギルドメンバーが逃げてしまったのも無理はない気がしてきたぞ。

 相手の方に明らかな非があるのなら攻撃もしやすいが、そうじゃないとなるとやりにくいな……。

 仕掛けていいものかどうか迷っていると、メルの奴が竜に近付き、声を掛けた。


「おい、卑しき爬虫類よ。ごちゃごちゃ言わずにサリアの所へ戻ってこい。そうすれば我らに報酬が支払われるのだ」

「君達に金が入るから言う事を聞けと? 無茶苦茶だな」

「いいから言う通りにしろ。念のため言っておくが、そこにいるハチオは残虐非道にして冷酷非情、無敵無敗の手練れだぞ。貴様ごときが逆らってみたところでぶち殺されるのがオチだ。大人しく従っておいた方が利口というものだぞ?」

「無敵無敗? その男が? ほほう……」


 白き竜が目を細め、俺に鋭い眼差しを向けてくる。

 メルのアホが余計な事を……さては向こうから仕掛けてくるように仕向けるつもりか。

 どいつもこいつも好戦的なやつばかりで困ったもんだ。チンピラじゃあるまいし、まずは話し合いだろ。


「凡人にしか見えないが……いや、並み以下か? 無敵無敗というよりも無芸無能という感じだな」

「……」


 口の悪い竜だな。そこまで言われるとさすがにむかつく……。

 いや、ここは我慢だ。あんな安い挑発に乗ってちゃだめだよな。冷静に対処しないと。


「おい、殺されたくなかったら消えろ。今なら特別に見逃してやる。私の気が変わる前に失せるがいい」


 言いたい放題だな、この野郎。何か皮肉の一つでも言い返してやろうか。

 ところがそこで、俺が口を開くよりも先に、黙っていたノイズィが動いた。


「ほりゃあ!」

「おぐっ!?」


 愛用の杖を振り上げ、竜の鼻面をボクッと殴るノイズィ。

 これには殴られた竜はもちろん、俺もびっくり仰天だ。お、おいおい、いきなり何してるんだ?


「な、何をする! 痛いじゃないか!」

「うるさい、このトカゲ野郎! 仲間を馬鹿にするヤツは許さないぞ!」


 俺より先にノイズィがキレてしまった。

 仲間のために本気で怒っているのか。何気に熱いヤツだな。そういうの嫌いじゃないぜ。

 しかし、喧嘩を売られているのは俺なのに、ノイズィにばかり相手をさせるわけにはいかないな。


「できれば話し合いで済ませたかったんだが……そっちがその気なら仕方ないな」

「おい、何を言っている? 挑発してきたのも手を出してきたのも、そっちが先じゃないか!」

「細かい事は気にするな」

「気にするわ、馬鹿者! 貴様ら、全員で私を袋叩きにするつもりか? この卑怯者どもが!」


 三対一(メルは数に入ってないだろう)ではさすがに分が悪いと踏んだのか、竜は大声で俺達を非難してきた。

 広場を行き交う人々が何事かと足を止め、視線が集まってくる。さては周囲の人間を味方に付けるつもりか? 意外と賢い竜だな。


「勘違いするな。お前の相手は俺だけだ」

「貴様が? ふん、いい度胸だな……!」


 俺と向き合い、竜が不敵に呟く。

 するとそこでまたノイズィが動いた。


「ほりゃあ!」

「おぐっ!?」


 またしても杖で殴られ、竜がうろたえる。


「お、おい、待て! たった今、コイツが一対一でやると……」

「えりゃあ!」

「あいた! こ、こら、やめろ! なんなんだ、お前は!?」


 尚も殴り掛かろうとするノイズィを取り押さえ、竜から離しておく。

 「あのトカゲに世の中の厳しさを教えてあげないと!」と訴えるノイズィを落ち着かせ、ここは俺に任せてもらう事にする。


「すまん。お前がむかつくから殴らずにはいられなかったらしい。気持ちは分かるので許してやれ」

「む、無茶苦茶だな、貴様ら! さてはサリアに雇われたならず者どもか!」


 ならず者か。まあ、似たようなもんだが。

 まずは力ずくで大人しくさせてみるか。


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