14.報酬を得る権利
「あれ、ハチオじゃないか。奇遇だな」
「ラ、ラグ……なんでお前が……」
ラグは丸い爆弾みたいな物を持っていた。あれを投げて爆発を起こしたのか。
なぜラグが……と思ったが、理由は想像が付いた。
おそらくラグも、ギルドの受付で高額報酬の仕事はないかと相談して、この仕事を紹介されたんだろう。
仕事を受けたのが俺達よりも先か後かは分からないが、ギルド側にしてみれば依頼をこなせるのなら誰でもいいって事か。
「ハチオ達も邪神教団の攻略に来てたのか。じゃあ、報酬は山分けにしないか? この前の分はちゃんと返すからさ」
借金の事を覚えていてくれたのはいいが、よりによってこんな場面で現れるとは……。
俺達が絶賛戦闘中で、もしもピンチに陥っていたんだとしたら、最高のタイミングで登場した事になったんだろうけどな。
「ま、また新手が……ああっ、あなたはラグさん!」
「げっ、サリア!? な、なんであんたがここに……」
互いの姿を見て、驚くサリアとラグ。
二人は知り合いだったのか。あれ、前にも似たような事があったような……。
「何度もお金を貸してあげたのに、なんて真似をしてくれたんですか! この恩知らずの裏切り者!」
「い、いや、あんたに借りた分は返しただろ? あたしが借金しまくってるみたいな言い方はよせよ……」
やっぱりか。サリアからも金を借りてるんだな。
別に誰かが号令掛けたわけでもないのに、この場に三人も金を借りた相手が集まっているってのはすごいな。俺の場合は持ち逃げだが。
「なんだよ、サリアも仕事を受けたのか? 分け前が減っちまうが、仕方ないか……」
「違います! 私はあのギルドの関係者です!」
「ギルド? 邪神教団だろ?」
ラグはサリアが邪教徒というのを知らなかったらしい。
必死に訴えているサリアをラグは不思議そうな顔で眺め、やがて納得したようにうなずいた。
「分かったぞ! つまり、サリアは分け前を多めに欲しいんだな?」
「何をどう聞いたらそうなるんですか!?」
「違うのかよ。じゃあ、分け前は平等でいいんだな?」
「だぁーかぁーらぁー! そういう事じゃないんですってば!」
ラグには事情がサッパリ分からないようだ。邪神教団だと思い込んでいるから、ギルドとか言われてもピンと来ないのか。
だが、どうする。ラグの攻撃で教団の施設は壊滅状態だぞ。今さらなかった事にはできないよな。
「建物の中にいた人達は大丈夫なのか? 何人ぐらいいたんだ?」
俺が尋ねると、サリアは胸を張って答えた。
「その点はご心配なく! 現在、当ギルドには誰もいませんので!」
「誰もいない? 今日は休みだったのか?」
「いえ、そうではなくて……今現在、『ホーリーギルド』に所属しているのは、私だけなのです!」
「ええっ!?」
サリアだけって……マジかよ。
目を丸くした俺に、サリアはやや言いにくそうにしながら呟いた。
「どうやら私が留守にしている間にみんな逃げてしまったらしくて、もぬけの殻なのです。きっと暗黒神の信者から執拗な嫌がらせを受けたに違いありません。ひどい話です」
「そ、そうなのか」
「ですが、私は負けませんよ! たとえ一人きりになってもギルドを守って……」
煙を上げ、瓦礫の山と化した建物を見やり、サリアはガックリと肩を落とした。
守ろうにもあれじゃな……もう土台ぐらいしか残っていないみたいだ。
「ううっ、なんという事でしょう。ギルドメンバーがいなくなったばかりか、施設まで失うなんて……しかも犯人は、以前にお金を貸してあげた恩知らず……あんな人、助けずに野垂れ死にさせておけばよかった……」
「おいコラ、そりゃあたしの事か? 事情はサッパリ分かんないけど、あたしは悪くないぞ! 悪いのは世の中だ!」
自分の無実を訴えるラグ。たぶんだが、どこで何をしてもいつも疑われるから「自分は悪くない」と主張するのが癖になってるんだろうな。
というか、普通にラグが悪いだろ。最初に攻撃したのはノイズィだが……。
「ともかく教団は潰したんだから報酬はいただきだよな! 借金して魔法炸裂弾を用意した甲斐があったぜ! これでやっとまともな暮らしができる!」
さっきのが魔法炸裂弾とかいうやつか? そしてまた借金したのかよ!
うれしそうなラグを見やり、サリアは目を細めた。
「いいえ、そうはさせません……」
「な、なんだよ、ケチ付けようってのか? 誰がどう見てもとどめを刺したのはあたしだろ。そこは譲れねえぜ」
「……」
するとサリアは杖を掲げ、攻撃の構えを取った。
ラグと俺達を倒すつもりかと思い、緊張に身を固くする。
できればやりたくないが、黙ってやられるわけにはいかない。戦うというのなら受けて立つしか……。
「……ホーリー・ライトニングボム!」
「!?」
サリアが呪文を唱え、杖の先から白く輝く光球を発射する。
それはラグや、俺やノイズィを狙った攻撃ではなかった。まったく見当違いの方向へ飛んでいく。
光球は、教団の施設跡に向かっていき、着弾と同時に弾け、大爆発を起こした。
轟音が鳴り響き、大地が揺らぐ。建物の残骸は木っ端微塵だ。
「なっ……ど、どういうつもりだ……?」
「……」
爆風に吹き飛ばされそうになり、冷や汗をかく。
ノイズィやラグの攻撃よりもすごかったぞ……これがサリアの実力なのか?
しかし、なぜ自分が所属するギルドの施設にとどめを刺すような真似を……。
「はい、皆さん、見ましたね? 教団施設にとどめを刺したのはこの私です。すなわち、報酬は私の物です」
「は、はあ!? 何言ってんだ、サリア! あたしの攻撃でほとんど終わってただろ!」
「ほとんど、でしょう? まだ建物の土台部分が残っていましたよね? それを破壊したのは誰ですか?」
「そ、それはあんただけど……そんなのインチキだ! あたしは認めないぞ!」
ラグが抗議するとサリアは目を細め、低い声で呟いた。
「文句があるのなら、あなたをぶっ殺しますけど……よろしいですか?」
「ええっ!? や、やだな、サリア。脅かすなよ……」
「……」
「サ、サリアさん? お顔が怖いよう……」
あれはマジな顔だ。サリアは本気で言っている。
つまり、邪神教団施設を潰す、という依頼を自分がこなし、報酬を受け取るつもりなのか。教団の関係者なのに。
サリアなりの抵抗というか、復讐なのかもしれないな。そういう事なら、彼女の好きにさせておくか。
「俺は構わないぜ。サリアに譲るよ」
「なっ……いいのかよ、ハチオ!? 金がないくせに!」
「俺が貧乏なのは、どこかのダークエルフが報酬を持ち逃げしたからなんだがな……」
「うっ……! そ、それを言うなよ……」
ラグを黙らせ、ノイズィに訊いてみる。
「ノイズィは? それでいいか?」
「いいけど……全額譲る気はないぞ! 私が半分壊したんだから、報酬も半分寄越せ!」
さすが、しっかりしてるな。
するとサリアはうなずき、俺達に告げた。
「皆さんにもお分けしましょう。四等分という事でどうですか?」
一〇〇万Gの四等分なら二五万Gか。悪くないな。
ノイズィは少し不満そうだったが、渋々とうなずいていた。
「まあいいや! お姉さんは全てを失ったんだし、そのぐらいは譲っておくよ!」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると助かります」
俺としては何もしていないのに分け前がもらえてありがたいぐらいだ。
しかし、サリアは本当にそれでいいのか。とんでもない依頼を斡旋してるギルドに抗議するべきなんじゃ……。
「あちらは大手ですからね。依頼をしたのは暗黒神の信者でしょうし、ギルドを責めても仕方ありません。せめて報酬の何割かを奪う事でささやかな復讐をしておこうと思います。ギルド再建の資金に使わせてもらいますよ」
たくましいもんだな。俺には事情がよく分からないが、がんばれ。
「四等分だと? 私の分はないのか?」
お前は何もしてないだろ、メル。どうせメルの飯代や宿代は俺が払うはめになるんだから、文句を言うなっての。




