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13.邪神教団を倒しに行こう!


「まさか、こんな事になるとは……」

「引き受けた貴様が悪い。腹をくくれ」

「ううっ、でもなあ……」


 ギルドを出た俺達は、町の西側、郊外に来ていた。

 このあたりに民家はなく、草木もない荒れた土地が広がっている。

 そんな殺風景で寂れた場所に、一つだけ大きな建物が建っていた。

 石造りで白塗りの、小型の砦みたいな建物だ。

 なんでもあそこは、とある教団の施設らしい。

 しかもただの教団ではない。邪神を崇拝しているという、非常に反社会的な宗教団体なのだとか。


「邪教徒のアジトをぶっ潰せば一〇〇万Gか。確かに高額だが、これってまともな仕事じゃないよな……」

「相手は邪悪な邪神教団なのだから、正義はこちらにある。胸を張れ、そして仕事に励め! 大金を稼いでしばらく楽をしようではないか!」

「他人事だと思ってよくもそんな……ノイズィは平気なのか?」


 無責任な発言しかしないメルにガックリしつつ、ここまで付いてきたノイズィに尋ねてみると、いつも元気な魔法使いの少女は笑顔で答えてくれた。


「これも修行だと思う! 悪党をぶっ潰してお金が稼げるなんて夢のような仕事じゃないか!」

「ま、まあ、そうかもしれないけど……人間相手ってのがどうもな……」


 これまでに戦ってきた相手はモンスターばかりだった。しかし、今度の相手は人間だ。

 いくら邪悪な集団とはいえ、何かされたわけでもないのに攻撃するというのは……どうもやりづらい。

 それに俺の能力、『闇の風』は強力だが、殺傷能力が高すぎる。

 人間相手に使えば、よほど上手く手加減しないと相手は死んでしまう。できれば人殺しはしたくないな。


「ふん、魔人のくせに甘いヤツよ……そんな事では、実力至上主義であるこの世界で生きていけぬぞ?」

「悪かったな、甘ちゃんで。ここに来る前の俺はただの高校生だったんだから仕方ないだろ」


 しかも超が付くほど平凡で、なんの取り柄もない凡人だったからな……。

 ちょっとゲームが得意だったり、プラモとか作るのが好きだったり、一部のアニメに詳しかったりしたが……そんなヤツはどこにでもいるだろうし。

 モンスター相手にバトルするのはどこかゲーム感覚なところがあったが、人間相手じゃそうもいかない。喧嘩とか苦手だし、なんとか平和的に解決できないかな。


「目標はあそこだな! それじゃ、さっさとやっちゃおう!」

「えっ?」


 ノイズィが愛用の杖を振りかざし、目を閉じて呪文の詠唱を始める。


「まずは軽く、挨拶代わりに……うなれ、雷撃! 吠えろ、雷撃! 我が必殺の――プラズマボール・サイズL! いくぞいくぞいくぞぉーッ!」


 ノイズィの前に、高圧電流の集合体みたいな球体が生じ、グングン膨らんでいく。

 ゾンビ相手に放ったヤツよりも大きくて威力がありそうな魔法だ。あんなのをぶっ放したら、あの大きな建物も半分ぐらい吹き飛ぶんじゃないか。

 俺は冷や汗をかき、慌ててノイズィに叫んだ。


「い、いや、待て! いきなり魔法で攻撃ってのはさすがに……」

「先手必勝ぉ! うりゃあ!」

「ちょっ……!」


 制止の声を振り切り、ノイズィが雷撃魔法をぶっ放す。

 直径二メートルはありそうな電流の塊がすごい勢いで飛んでいき、邪神教団の施設にぶち当たる。

 ドゴーン! と落雷みたいな轟音が鳴り響き、大気が震える。

 建物は……ああ、予想通り、半分ぐらい崩れてしまった。中にいる人間が無事だといいんだが……。


「中にいる連中が出てきたら一人残さず仕留めよう! 悪党に情けは無用だぞ!」

「ノ、ノイズィ……意外と容赦ないんだな……」


 ノイズィには驚かされてばかりだな。幼いのは外見だけで、中身は本当にしっかりしている。

 俺も腹をくくるか。人殺しは嫌だが、依頼を受けたのは俺だ。引き受けた以上はちゃんとこなさないとな。

 攻撃を当てないようにすれば、傷付けずに済むはず。そういう方向でやってみるか。


「あっ! なんか撃ってきたぞ!」

「!?」


 半壊した建物から、こちらに向けて何かが飛んでくる。

 それは青白い、炎の矢だった。十数本の矢が上空へ向けて放たれ、俺達のいる所へと降ってくる。

 魔法で反撃してきやがった! この対応の早さ、向こうも只者じゃないな。

 あんなのを食らったらすごく熱そうだ。ダメージを1以上受けたら大変だし、攻撃は受けないようにしないと……!


「……はあっ!」


 上空へ向けて右腕を振るい、迫り来る炎の矢を『闇の風』で迎え撃つ。

 漆黒の風が吹き荒れ、矢は全て消し飛んだ。やれやれ、冷や汗かいたぜ。

 すかさずノイズィが、杖を振りかざして雷撃魔法を連発する。


「えいっ、プラズマボール×6! それそれそれえ!」


 さっきよりも小型の、直径三〇センチぐらいの雷撃球を続けて六連射し、建物へと放つ。

 雷撃球は着弾すると弾けて稲妻をばらまき、建物をさらに破壊していった。

 もはや目標は崩壊寸前だ。俺も攻撃するべきだろうかと迷っていると、崩れかけた建物から何者かが飛び出してきた。


「おやめなさい、神をも恐れぬ愚か者ども! 当ギルドへの攻撃は神罰が下りますよ!」


 それは水色の長い髪をした、白装束の美少女だった。

 ミニスカの服に、純白のローブを羽織り、杖を携えている。

 そして、その顔には見覚えがあった。


「あ、あれ? サリアか?」

「おや、そう言うあなたはハチオさん……お久しぶりですね」


 この町まで案内してくれた神官見習いの少女、サリア。

 何か用事があるというので別れたんだが、まさかこんな所で再会するとは。

 なんでサリアが邪神教団のアジトから出てくるんだ……それに今、妙な事を言ったよな?


「当ギルドって……ここは何かのギルドなのか?」

「ええ、そうです。ここは聖なる加護を受けた『ホーリーギルド』。神官や白魔法使いが所属しているギルドですよ」


 なんだかおかしな事になってきたぞ……。

 邪神教団のアジトだって聞いてきたのに、神の加護を受けた聖なるギルドだと?

 サリアが嘘を言っているとは思えないし、どうなってるんだ?


「あのお姉ちゃん、邪教を広めようとしている邪教徒だぞ。ハチオの知り合いだったのか?」

「邪教徒って、サリアが? 本当かよ」


 ノイズィはサリアの顔を知っているらしいが……サリアが邪教徒だと? にわかには信じられないな。


「この町はもちろん、一般的に信仰されている神は『暗黒神デリューザ』だからな。それ以外の神を崇拝している連中は邪教徒なのさ!」


 暗黒神だと……そんなのが一般的な神なのか。

 それって絶対、邪悪な神だよな? 大丈夫なのか、この世界は。


「邪教とは聞き捨てなりませんね! 私が信仰している神、『白蛇王ケイオスノヴァ』こそが聖なるよき神です! 皆さんは暗黒神に汚染されているのですよ!」


 ……サリアが信じている神ってのもなんか微妙だな。

 あれ、そう言えば……俺をこの世界に転生させたヤツも神みたいな存在じゃなかったっけ?


「なあ、メルの本体は信仰されていないのか?」

「んー、神とかそういうのは人間が勝手に思い込んでいるだけだからな……。私の本体は人間の言う『神』に限りなく近い存在ではあるが、人間基準の善悪、聖魔とやらでは区分できない。この世界に私の本体を崇拝している者がいたとしても、それは崇拝者が勝手に作り上げたイメージと名称を持つものであり、私の本質には程遠いのだ。……分かるか?」

「い、いや、あんまり……要するに、この世界にメルの信者はいないんだな?」

「まあ、そうだな。暗黒神や白蛇王の名は聞いた事があるが、私とはまるで違う存在だから交流はないな」


 もしかして俺、神様みたいな存在と会話しちゃってるのか?

 まあ、メルは分身で鼻くそなんだし、ビビる必要はないんだろうけど……コイツの本体ってマジですごいのかもな。


「邪神と言えば、『鼻くそ神メルなんとか』でしょう! 我が神とは違います!」

「おいコラ、待たんかい! 誰が邪神で鼻くそ神だ! しかも名前はうろ覚えか! 無礼にもほどがあるぞ!」


 サリアからボロクソに言われ、メルは激怒していた。

 これはあれか、あまり存在を知られてないので鼻くそみたいな扱いになってるのか。

 メルなんとかも気の毒に……あれ、そう言えば正式名称はなんだっけ? 一度聞いたきりだから忘れちまったな。


「ともかく、当ギルドへの攻撃は許しませんよ! 断固、抗議します!」


 サリアは徹底抗戦の構えだ。うーん、どうしたものかな……。

 人間相手だとやりにくいと思っていたところに、顔見知りまで……これはもう、中止にした方が……。


「これも仕事だぞ、ハチオ! 割り切って戦おう!」

「おう、そうだそうだ! こんな無礼者がいるギルドなど潰してしまえ!」

「えー……」


 ノイズィとメルはやる気満々だ。二人とも好戦的だよな。

 サリアがいなければ、ノイズィが言うように仕事だと割り切ってギルドを攻撃する事もできたんだが……。

 彼女には町まで案内してもらった恩がある。恩を仇で返すような真似はしたくない。


「……二人とも、引くぞ。出直そう」

「「えー……」」


 撤退を提案したが、二人とも不満そうだった。

 俺が二人を説得しようとしていると……視界の隅で何かが光った。


「えっ?」


 直後、半壊していた建物で爆発が起こり、大気を揺るがした。

 俺もノイズィもメルも、サリアもびっくり仰天だ。一体、何が起こったのか、すぐには理解できなかった。

 だが、爆発の原因はすぐに分かった。


「ふはははは! やった! これで一〇〇万はいただきだ!」

「「「「!?」」」」


 高笑いを上げたのは、攻撃の主――ダークエルフのラグだった。


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