表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/27

12.再会の街角


 アンデッド退治を完遂させた俺達は、報酬をもらうためにギルドへ向かった。

 ギルドは人通りの少ない裏通りにある。道行く人の姿はまばらだ。

 途中、お腹が空いたと言ってノイズィはおやつを買いに行き、メルも付いていった。

 

 俺は店の前で待つ事にした。おやつを買おうにも金がないので。

 何気なくあたりを見回していると、こちらへ歩いてくる人物の姿が目に入った。


「ん? あいつは……」


 セミショートの黒髪に褐色の肌をした、長身の少女。

 間違いない、ダークエルフのラグだ。まさかこんな所で会えるとは。

 ラグも俺の姿に気付いたらしく、ハッとしている。

 さて、どうしてやろうか。向こうの出方次第だが、場合によっては……ただでは済まさないぞ。


 様子をうかがっていると、ラグは……俺の方へ向かって駆け出してきた。

 ピョン、とジャンプして目の前に着地、地面に両手を突いて平伏する。……って、ジャンピング土下座かよ!


「すまん、この通り! どうか、許してくれ!」

「……」


 これはちょっと予想外だった。まさか土下座されるとは……。

 ため息をつき、ラグに声を掛ける。


「おい、頭を上げろ」

「悪かった! 実はどうしても返さなくちゃいけない借金があって、それで……」

「いいから、もうよせって。周りの目が痛すぎるだろ」


 人通りは少ないが、皆無ってわけじゃないからな。

 戦士風の柄の悪そうな男達がこっちをジロジロ見ながら「おい、女に土下座させてるぞ」「羞恥プレイか? ひでえな」「やだ、サイテー」とか呟いている。

 女子中学生か、あいつら。見せ物じゃねえんだぞ、あっちへ行けよ。


 ラグはノロノロと起き上がり、泣きそうな顔で俯いていた。

 ふむ。どうやら本当に反省しているみたいだな。


「もういい。許すよ」

「ほ、本当か?」

「ああ。実は今度お前を見掛けたら、どうするのか決めてたんだ」

「えっ?」

「もしも、俺の顔を見て逃げたら……その場で殺すつもりだった」

「!?」


 愕然としたラグに、落ち着いた口調で告げる。


「だが、逃げずに謝ってくれたからもういい。二度とやるなよ。次はないぜ」

「あ、ああ、もちろん。ほ、本当に悪かった……」


 ラグは青い顔をして、改めて謝罪してきた。

 うん、よしよし。ちゃんと反省してくれたみたいだな。

 殺すと言ったのはハッタリだが、逃げたら容赦しないつもりでいたのは本当だ。このぐらい脅しておかないと、またカモにされる可能性があるからな。


「で、持ち逃げした報酬は借金の返済に充てたのか?」

「う、うん。あんたには悪いと思ったんだけど、前に借金した相手から返済を迫られててさ。返さないと人買いに売り飛ばすって言われてそれで……」


 そういう事情か。だったら相談してくれればよかったのに。

 これじゃ俺の分の報酬は返してもらえそうにないな。仕方ない、貸しにしとくか。


 するとそこへ、おやつを買いに行っていたノイズィが戻ってきた。


「お待たせ! あれれ、そこにいるのは……ラグ?」

「げっ、ノイズィ! ハチオの知り合いだったのか?」


 どうやら二人は知り合いだったらしい。

 ノイズィはキョトンとしていて、ラグはオロオロしている。


「二人は顔見知りなのか?」

「あ、ああ、うん。まあ……」

「何度か組んだ事があるのさ! お金も貸してあげたぞ!」

「……なんだって?」


 聞き捨てならない言葉を聞き、俺はラグに鋭い目を向けた。

 するとラグは観念したようにうなだれ、ポツリと呟いた。


「実はその、前に別のヤツから借りた借金を返すために、ノイズィから金を借りて……持ち逃げした報酬は、ノイズィに返済したんだ」

「じゃあ、人買いに売り飛ばすっていうのはノイズィに言われたのか?」

「いや、それはその前のヤツに……ノイズィには『今日までに返さないと髪の毛を全部燃やす』って脅されてて、それで……」

「人買いに売られそうだって言うから貸してあげたのに、ちっとも返さないからだぞ! 催促しないと踏み倒すつもりだったんだろう?」

「ちゃんと返すつもりだったって! 信じてくれよ!」


 うん、大体分かった。コイツ、借金慣れしてやがるな。

 踏み倒して逃げないだけマシなのかもしれないが、かなりのロクでなしだな。

 いや、俺の時は持ち逃げしたわけだから全然マシなんかじゃないか。超が付くレベルのロクでなしだ。


「あたしだって、ちゃんと働いて返すつもりだったさ! でも、ダークエルフなんかを雇ってくれるところなんて全然ないし、パーティ組んでくれるヤツもいないから大きな仕事はできないしで……」

「せっかく組んであげても、パートナーから借金するわ返さないわじゃ誰も組んでくれなくなるに決まってるだろ! 自業自得だぞ!」

「ううっ!? か、返す言葉もねえ……!」


 ノイズィに非難され、またラグは泣きそうになっていた。

 ロリ魔法使いに説教されるアダルトなダークエルフ……なんて憐れな光景なんだろう。見てるこっちまでもらい泣きしそうだぜ……。


「つまり、俺がもらうはずだった報酬はノイズィの懐に入ったのか……」

「そうなるな! ハチオにあげた金貨がまさにそれだぞ!」


 死神魔人のデスなんとかが言ってたな。食物連鎖的な話を。

 金の流れも似たようなもんか。こうして下から上へと吸い上げられていくんだな……。

 ちっとも利益を得られなくて損ばかりするヤツがいるとこまで似ているな。


「すまん、ハチオ。持ち逃げした分は必ず返すから許してくれ。今に一山当てて、がっぽり稼いでみせるから!」

「……いや、無理だろそれ。地道に稼げよ」

「駄目なヤツだな! 一攫千金を狙って成功したヤツなんて見た事ないぞ!」


 俺とノイズィは忠告したが、ラグは聞いちゃいなかった。

 借りた分は十倍にして返す、などと夢のような事を言って、いずこかへ去っていった。

 駄目だなあれは……俺の分の報酬は一生返してもらえそうにない。

 ラグを見送り、黙っていたメルが言う。


「甘いな。借金を返せないというのなら身体で払わせればよかったのに」

「か、身体って……それは鬼畜すぎるだろ。そういうエロ的なのはちょっと……」

「荷物持ちをさせたり、タダで援護役をさせたりしてはどうかと言っているのだ。何を想像したのだ? 変態か貴様」

「い、いや、俺は別に……」


 ニヤッと意地の悪い笑みを浮かべたメルに、嫌な汗をかく。

 この鼻くそ妖精が、わざと誤解するような言い回しをしといてよくも……性格悪すぎだろ。


「ハチオは変態なのか? 教会へ行けば治療してもらえるかな?」

「呪われてるわけじゃねーし! そもそも俺は変態じゃねえよ!」


 メルの冗談を真に受けたのか、ノイズィは心配そうにしていた。

 よせ、やめろ。そんな無垢な瞳で見ないでくれ。自分がすごく汚れた人間のような気がしてくるじゃないか……。



 ギルドへ行き、受付でアンデッド退治を済ませてきた事を告げる。

 既に調査員から報告を受けているらしく、受付のお姉さんは書類を見ながら確認を取ってくれた。


「難しい依頼なのに、もう解決してくるなんて……さすがですね、ハチオさん」

「ど、どうも」


 美人のお姉さんに名前で呼ばれ、照れてしまう。

 さすがというのは、俺の種族が魔人なのを知っているからか。

 ついでにレベルの確認もしてもらう事にする。何しろ魔人を倒したんだし、今度こそ大幅にレベルアップしてもおかしくは……。


「おめでとうございます、レベル3にアップですね! あっ、『うるおい』が1上がってますよ!」

「……」


 たったの一つ上がっただけかよ! いや、メルからレベルアップに期待するなと言われたのは覚えてるけどさ。

 もしかすると、HPが1ポイントでも増えないかと考えていたんだが……なんだよ、『うるおい』って。それが上がった事で何か得する事があるのか?


「お肌がヌルヌルになりますよ。荒れにくいです」


 ヌルヌルするのは嫌だな。お姉さん、表現を間違えてませんかね。

 ちなみにゾンビを倒したノイズィはレベル10から11にアップしたらしい。普通に成長してるみたいでうらやましいぜ。


「レベルか。どれ、私も測定してみよう」


 メルが測定用の水晶玉に近付き、その小さな手をピタッと当てる。

 コイツの本体は神に等しい超存在だしな。分身のメルも結構高レベルだったりするんじゃないか?

 やがて測定が終わり、お姉さんが結果を教えてくれた。


「えー、あなたは……レベル『食いしん坊』? あらゆるステータスが低いですね……」

「なんだそれは!? おい、食いしん坊とはなんだ? レベルに関係なくないか? おかしいだろ!」

「いえ、私にも何がなんだか……こんな表示が出たのは初めてのケースで……HPの数値だけが異様に高いのも気持ち悪いですね……」

「気持ち悪い言うな!」


 やはり、メルのやつは普通じゃないらしい。おかしな表示が出てお姉さんも困っているようだ。

 俺はちょっとほっとした。コイツが普通に俺よりもレベルが上だったら嫌だなー、と思っていたんだが……『食いしん坊』じゃ比較のしようがないよな。むしろ俺の負けでもいいぐらいだ。


「気を落とすなよ、メル。個性的でうらやましいぜ」

「貴様ごときに慰められるとはなんたる屈辱! というか貴様、面白がっているな? なんだそのヘラヘラした顔は!」

「えー? ヘラヘラなんてしてないよー」

「む、むかつく! ミジンコのごときクソ人類の分際で生意気な!」


 俺の態度が気に入らないのか、メルは顔を真っ赤にして怒り、俺の手にビシバシとパンチを打ち込んできた。

 ダメージは0でかわいいもんだ。……さすがにクリティカルは出ないよな?


 ちなみにギルドの依頼はあくまでも『町外れに出没するゾンビ退治』であって、例の死神魔人については懸賞金などはなく、それどころか魔人の存在すら把握されていなかった。

 あいつに懸賞金が掛かっていればもっと大儲けできただろうにな。まあ、仕方ないか。


 報酬が支払われ、五万Gをノイズィと山分けにして、二万五千Gをゲット。

 忘れずに一万Gを返しておく。ノイズィは契約料だから返さなくていいと言ったのだが、そうもいかない。

 やっと文無し状態から脱却したが、たったの一万五千じゃ心許ないな。今日の宿代を払ったら、明日の飯代ぐらいしか残らないだろう。

 早めに次の仕事に取り掛からないと。何かよさそうな依頼はないかな。


「まとまったお金が必要なのですか? それなら、いいお仕事がありますよ」

「えっ?」


 ニコッと笑う受付のお姉さんに、俺は首をかしげたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ