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11.アンデッド退治


 アンデッドが出現するという現場は、町の外れ、民家がまばらで人通りの少ない場所だった。

 少し行くと墓地があるらしい。そうなると、アンデッドの発生源はそこか。

 しかし、その手のモンスターって自然に発生するものなのだろうか。


「普通はないね! 誰かが術か何かで発生させている場合がほとんどだぞ!」

「ふうん。なるほどな」


 ノイズィの説明を聞き、うなずく。

 つまり、どこかの誰かが故意にアンデッドを生み出している可能性が高いわけか。

 なんのためにそんな真似を……町の住民に対する嫌がらせか? ただの悪戯かもしれないが、迷惑な話だな。


 アンデッドが出るのは夕刻以降らしいが、俺達は早めに現場へ向かい、昼すぎには到着していた。

 ぶっつけ本番でモンスターとやり合うより、下調べを済ませておいた方が安全だと思ったからだ。

 ノイズィも賛成してくれて、大人しく付き合ってくれた。


「墓地の方を調べてみるか。あまり足を踏み入れたくない場所だが……」

「昼間なら怖くないよね! お化けも出ないだろうし!」

「……そうだな」


 俺は別に幽霊とかそういうのは苦手じゃないが、得意でもない。

 元いた世界なら、「そんなのいるわけないだろ」と全否定すれば済む話なんだが、生憎とここはファンタジー世界だ。

 魔物とか普通にいるし、幽霊もいるんだろうな。アンデッドというのはゾンビとかなんだろうし、できれば会いたくない相手だ。

 だが、やるしかない。依頼を成功させて報酬をもらい、ノイズィに金貨を返し、飯代と宿代を得るんだ……!


 墓石が並ぶ墓地にたどり着き、あたりを見回しながら奥へと進む。

 まだ昼間で明るいのに、なんだこの不気味な雰囲気は……瘴気みたいなのが漂っているような気がする。

 ノイズィも感じ取っているらしく、青い顔でガタガタと震えていた。


「ま、まずいぞ! 来ない方がよかったかも……」

「……なぜそう思うんだ?」

「ものすごく危険な気配が充満しまくってるからさ! 何か恐ろしい、とんでもないものがここには潜んでいそうだぞ!」


 確かに妙な気配を感じる……すぐに退散した方がいいのかもしれない。

 だが、できればこの気配の正体と、アンデッドが発生する原因を突き止めておきたい。

 逃げるのはその後でもできる……とは言い切れないが、せっかくここまで来たんだ。手ぶらでは帰りたくないよな。


 墓地の奥に、一際大きな墓標があった。妙な気配はこのあたりから出ているように思う。

 そこで黙っていたメルが、険しい顔をして呟いた。


「むう、いかんな。途轍もなく邪悪で強い魔力を感じる……逃げた方がいいかもしれんぞ」

「そんなにヤバいのか? でも、俺は最強なんだろ?」

「最強クラスとは言ったが……相手もまた最強クラスという可能性もあるのだぞ」


 最強って、そんなにゴロゴロしてるもんなのか。それは最強じゃなくないか?

 しかし、最強クラスで邪悪で強い魔力を持っているとなると……もしかして、そいつは……。


 墓標の周囲に青白い火の玉がいくつも浮かび上がり、邪悪な気配が高まっていく。

 そして、『それ』は、何もない空間に忽然と出現した。

 大きな角を備えた、牛の骸骨らしき頭部に、全身を覆う漆黒のローブ。ローブの袖からのぞく腕は骨が剥き出しで、長い柄を備えた大鎌を担いでいる。

 まるで死神みたいな姿だが……コイツが妙な気配の主か。


『我は、デス・ジ・エンド。生きとし生けるものの、苦痛に悶える声こそが至上の悦びである……恐怖に震えるがいい、人間ども……!』


 重く低い、不気味な声を漏らしたそいつに、冷や汗をかく。

 ノイズィは涙目になり、「ふえええ!」とか言って半泣き状態だ。

 この威圧感……! ドラゴンや女王蟻がかわいく思えてくるぐらい危ない相手なのが分かる。強烈な気配に押し潰されてしまいそうだ。

 小銭稼ぎのモンスター退治に出かけたつもりが、いきなり中ボスクラスの強敵に遭遇したってところか。

 報酬五万じゃ割に合わないぞ……何者なんだ、コイツは。


「こやつは、魔人だ。高位の魔族であり、この世界における最強クラスの存在。貴様と同じな」

「俺と同じ、魔人? こいつが……!」


 メルの説明を聞き、ゴクリと喉を鳴らす。

 魔人というのが「最強クラスの存在」と聞いた時点で、他にも魔人がいるんだろうな、とは思っていたが……。

 こうも唐突に出会うとは。完全に想定外だな。


『むう? 貴様、なぜ怯えない。我が恐ろしくないのか?』


 俺を見やり、デスなんたらという魔人が怪訝そうに呟く。

 いや、正直言って恐ろしいし、ビビッてるが……それほど怯えてはいないな。

 それは俺が魔人にされたからか。同じ魔人が相手だと思うと、怖い事は怖いが、恐怖が軽減されるとでもいうか……。

 だが、危ない相手なのは間違いない。ここは慎重に対応しないと。


「あ、あんたが、アンデッドを生み出している張本人か。そうなんだろ?」

『……いかにも。それがどうかしたのか?』

「どうかしたのかって……そんなの迷惑に決まってるだろ。なんでそんな真似をするんだ?」

『なぜか、だと? そんな事を訊かれたのは初めてだな……』


 魔人は数秒の間を置き、ボソッと呟いた。


『……これが我の役目だからだ』

「役目?」

『そうだ。人間どもを怯えさせ、その恐怖を吸い上げ、我が力とする。力を得た我はアンデッドどもを生み出し、人間どもに恐怖を与える。このように、物事は回っているものなのだ。言わば自然の摂理であろう』


 食物連鎖ってやつかね。それが自然界の掟だというのならそうなのかもしれないが、人間が一方的に損をさせられるだけってのもなんだかな。


「……アンデッドに襲われて怪我をした人もいるだろ? 最悪、死ぬ事だってありえる。その点についてはどうなんだ?」

『知らぬ』

「はあ? なんだって?」

『我はアンデッドどもを作り出しているだけだ。奴らが何をしようと知った事ではない。間抜けな人間が運悪く命を落としたとして、それがどうしたというのだ? アンデッドの材料が増えるだけであろう』

「……」


 えーと、つまり、こういう事か?

 自分の都合でアンデッドを生み出しているが、人間に被害が出ても関知しない。むしろ人間どもざまあ、だと。そういう事なのか?

 なるほど、邪悪だ。魔人ってのはこういうヤツばかりなのか? とてもじゃないが仲良くなれそうにないな……。


『貴様らもアンデッドの仲間にしてやろう……ありがたく思うがいい……!』

「!?」


 死神魔人が呟き、全身から黒い、瘴気のようなものを生じさせ、周囲に向けて放つ。

 ボコン、ボコンとあたりの地面に穴が開き、ゾンビどもが姿を現す。

 これは……あの魔人が召喚したのか? しかし、ゾンビって想像していた以上に不気味でグロいな。死体なんだから当然か。


 ノイズィは顔色が真っ青を通り越して真っ白になってる……って、なんか白い煙みたいなのが口から出てるぞ? なんだあれ。

 するとメルが、ポツリと呟いた。


「あの魔人の能力か。小娘の身体から魂が分離しそうになっているぞ」

「あれ、魂なのかよ!? 大変じゃないか!」

「任せろ。私が押し戻してやる!」


 メルがノイズィに近付き、天に昇ろうとしている魂を押さえ付け、ノイズィの口に戻そうとする。

 おお、初めてメルが役に立っている気がする! がんばってくれ!


 数体のゾンビを従えた魔人が、俺をにらんで呟く。


『貴様、なぜ魂が抜けない? どうも妙だな……』

「さて、なんでだろうな。何事にも例外ってのはあるんじゃないのか?」


 俺も魔人である事は伏せ、挑発してみる。

 すると死神のごとき魔人は、手にした大鎌をゆっくりと振り上げ、呟いた。


『いや、例外などない。我に遭遇した人間は全てアンデッドと化すのだ……!』

「!」


 魔人が瞬間的に接近し、大鎌で斬り付けてくる。

 どうにかギリギリのところで避け、冷や汗をかく俺に、魔人が言う。


『我の鎌は、防御力を無視して魂を狩る。当たれば即死、防ぎようはない。大人しく魂を差し出せ……!』

「じょ、冗談じゃねえ……!」


 防御力を無視した即死効果のある武器だと?

 なんてもんを持ってるんだ。人間から魂を抜く能力といい、とんでもないヤツだなコイツ。

 俺も何か武器を用意してくるべきだったか? いや、資金がないから無理か。もっと重要な、買っておくべきアイテムがあったし……。


『抵抗しても無駄だ。……はあっ!』

「!?」


 大鎌を振りかぶるのと同時に、死神魔人の姿がフッ、と消えた。

 何が起こったのか理解する暇もなく、魔人は俺の真横に出現した。

 ……瞬間移動か! この野郎、どこまでチートなんだよ!

 大鎌が空を裂き、俺の身体を一閃する。鋭い痛みが身体を貫き、そして――。


「ぐっ……!」


 パキン、と何かが砕ける音がした。空中には『ダメージ1』という表示が出ている。

 袋に入れて腰に下げていた身代わり人形の「ダミーくん」が破壊されたのを悟り、冷や汗をかく。

 たったの一撃で、俺の命が……希少なアイテムによる命のストックが減らされたのか!?

 「ダミーくん」がなかったら今ので死んでたわけか……やはり買っておいてよかったな。


「こ、この野郎、よくもやってくれたな……お返しだ!」

『な、何っ!?』


 俺を仕留めたと思ったのだろう。隙だらけだったデスなんとかに向け、右手を振るう。

 『闇の風』が生じ、漆黒の突風が魔人を襲う。

 身体を覆う黒いローブをズタズタに引き裂かれ、魔人が忌々しげにうなる。


『お、おのれ、よくも……何者だ、貴様……!』


 何か格好良く名乗ってやろうかと考えていると――視界の隅で、まばゆい光が弾けた。


「雷撃魔法、プラズマボール!」


 それはノイズィだった。

 無事に魂が戻ったらしく、杖を構え、魔法を炸裂させている。

 直径一メートルぐらいの、バチバチと放電している高圧電流の塊みたいな球体が連続で放たれ、ゾンビどもに直撃する。

 ゾンビ達は「ぐげえ!」と不気味な声を上げて消滅し、この世から消え去った。成仏したのかもしれない。

 配下を失い、明らかに動揺している死神魔人に、俺は静かに呟いた。


「相手が悪かったな。俺達はお前に狩られる程度の人間じゃなかったらしいぜ?」

『ふざけるな! 貴様らごときに我が後れを取るものか!』


 死神が叫び、大鎌を振り上げ、猛然と襲い掛かってくる。

 俺は右手をかざして迎え撃つ構えを取ってみせ……クルリと回れ右をした。

 予想通り、死神魔人は俺の背後に出現した。絶対に瞬間移動を使って死角から襲い掛かってくると思ったんだ。

 死神が出現するのと同時に、『闇の風』を叩き込んでやる。手加減抜きの全力で。


「はあっ!」

『な、なんだと!? 馬鹿な、こんなはずは……ぐあああああああああああ!』


 漆黒の烈風がゴオッ、と一直線に吹き抜け、魔人の身体を細切れに分解する。

 死神魔人は絶叫を上げ、塵となって吹き飛び――空の彼方へと消えた。


 同じ魔人が相手じゃ勝てないかもと思ったが、やはり俺に与えられた能力は最強らしい。

 アンデッドだろうが死神だろうが、当たりさえすれば倒せるわけか。

 こっちも無傷とは行かなかったのが痛いが……多少の損害は仕方ないかな。

 ノイズィが俺のそばまで来て、笑顔で言う。


「やったね、ハチオ! 私達の大勝利だぞ!」

「大丈夫なのか? 魂が抜けかけてたけど……」

「あの非常食……じゃなくて妖精さんが魂を押し込んでくれたから助かったよ! 危ない危ない!」


 今、メルの事を非常食って言ったな? 後で食べないように注意しとこう。

 しかし、ゾンビどもを一撃で消滅させた事から考えて、ノイズィの魔法使いとしての能力はかなりのものなんじゃないか?

 ゾンビの集団に包囲されていたら危なかったかもしれない。ノイズィがいてくれて助かったな。


「おほん。一番の功労者を忘れていないか?」


 ヒラヒラと宙を舞い、メルがわざとらしく咳払いをして呟く。


「敵の種族や能力を看破し、小娘の魂を戻してやったのは誰だったかな? おや、もしかしてそれは私ではなかろうか? 奈落よりも深く感謝するべきではないのかな?」


 コイツ。ここぞとばかりに偉そうにしやがるな。

 しかしまあ、実際助かったし、少しぐらいは感謝しておくか。


「分かってるって。メルもそれなりにがんばって……」


 俺がメルをほめてやろうとしていると、いきなりノイズィが動いた。


「ほりゃあ!」

「むぐあっ!?」


 素早く手を伸ばし、メルを鷲づかみにするノイズィ。

 おいおい、またかよ! まさか命の恩人を食べるつもりなのか?


「おかげで助かったぞ、妖精さん! ありがとう!」

「こ、こら、感謝するのならもっと丁寧に扱え! うわ、折れる折れる! もっと優しくしろ!」


 なんだ、お礼を言おうとしただけか。

 よだれをすすっているのが気になるが、今すぐ食べるつもりはなさそうだから安心だな。


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