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10.魔法使いは買い物上手?


「ちなみに私はレベル10だぞ! ハチオのレベルはいくつなのだ?」

「えっ?」


 ノイズィからレベルを訊かれ、嫌な汗をかく。

 レベル1とか言ったら、組むのをやめるって言われるんじゃないか。


 ……いや、待てよ。例の砦じゃ、かなりの数のモンスターを倒したよな。

 ボスの女王蟻は大物だったし、もしかするとレベルアップしてるんじゃないか?


 受付へ行き、レベルの確認をしたいと告げると、判定用の水晶玉を出してくれた。

 右手を水晶玉の上に置き、計測してみる。すると……。


「おめでとうございます、レベル2にレベルアップですね! ステータスは……あっ、すばやさが1上がってますよ!」


 受付のお姉さんに笑顔で言われ、引きつってしまう。

 おいおい、たったの一つ上がっただけかよ……あれだけの大物を倒したんだぞ? これがゲームならレベルが10ぐらい上がってもおかしくないんじゃないのか。

 しかもステータスはほぼ変化無しって……レベルアップの意味あるのかそれ。


 メルが俺に身を寄せ、耳元でボソボソと囁いてくる。


「貴様は既に最強の存在だからな。レベルなどあまり意味はないし、成長もしない。知識と経験が増えるぐらいに考えておけ」

「そうなのか? じゃあ、HPが増えたりは……」

「それは絶対にない。力を得るための代償だからな」


 メルの説明を聞き、ため息をつく。

 またえらいシビアだな。せめてHPが2ぐらいに増えてくれないのか。


 俺のレベルを知ったノイズィは、何やらフンフンとうなずいていた。


「なんだ、レベル2かー。ハチオは初心者なんだな。まだまだ子供だ!」

「……」

「あっ、『お前だけには言われたくない』みたいな顔してるぞ? 感情が顔に出ちゃうなんて、やっぱり子供だなー」


 むう、悔しいがその通り。こんな幼い子に諭されるようじゃ、俺もまだまだだな。

 ともかく俺はレベルが上がりにくく、上がってもあまり変化はないらしい。ステータス的には既にレベル上限まで来ているような状態って事か。

 レベル上げに苦労する手間が省けてよかったと思うべきか?

 低レベルのせいで馬鹿にされたり、受けられない仕事があったりするかもしれないが……そのぐらいは仕方ないか。


 受付を離れ、再び依頼書があるスペースへ。俺達以外にも依頼を吟味しているのが数人いて、仲間同士で相談していた。


「またアンデッドが出たのか。報酬はいいが、こいつは……」

「よせよせ、やめとけ。アンデッドなんざ、俺達戦士にとっちゃ手強いばっかりで倒しにくい。僧侶や魔法使いが仲間にいないとな」


 ほう、アンデッドね。ゾンビとかかな。

 そいつらが離れてから、依頼書を見てみる。町の外れにアンデッドが出現して人を襲う事件が頻発していて、それを退治して欲しいらしい。

 報酬は五万G。1Gは大体一円ぐらいの貨幣価値らしい。悪くない仕事かな。

 ちなみに砦のモンスター退治は一〇万Gだった。モンスターの数やボスの強さを考えると少し報酬が少ない気がする。


「アンデッド退治か。悪くないな! やってみよう!」


 依頼書を見たノイズィは乗り気だった。

 俺は自分の能力でアンデッドを倒せるのかどうか分からなくて不安だったんだが、ノイズィは自信があるのか。

 だったらやってみるか? 無理っぽかったら逃げてもいいし。


「ノイズィはアンデッドの相手が得意なのか?」

「ううん、全然! 一度も戦った事ないぞ!」

「えっ? じゃ、じゃあ、なんでやってみようと思ったんだ?」

「何事も経験だからさ! 依頼を終えた頃にはアンデッドを倒す方法を完璧にマスターしてるはずだぞ!」

「……」


 うーん。すごくポジティブなのはいいが、何か危なっかしいな……。

 まだレベル2で、この世界の事を何も知らない俺なんかじゃフォローしきれないかもしれないが……なんだかほっとけないな。


 契約料だと言って、ノイズィは俺に金貨を一枚くれた。金貨一枚で一万Gの価値があるらしい。


 おお、やっとまとまった金が手に入ったぞ。これで少なくとも飯代は十分だ。

 もらいすぎのような気もするが、報酬を得たら返せばいいか。

 俺には是非とも補っておきたい弱点がある。この金貨はそれに使わせてもらおう。


「えーと、近くに魔法アイテムとかそういうのを売っている店はないかな?」

「アイテム屋? 買い物か!」


 ノイズィは店を知っているらしいので、案内してもらう事になった。

 ギルドを出て、少し歩いた所に、目的の店はあった。

 ノイズィが入り口の扉を開け、店内に入っていく。俺も慌てて後に続いた。


 店内は意外と広く、様々なアイテムが所狭しと並べてあった。俺には用途不明の品物ばかりだが……。

 はたして、俺が必要としている類のアイテムはあるのだろうか?

 メルが羽をパタパタさせて浮遊し、問い掛けてくる。


「何を買う気だ? ここに美少女ゲームはないと思うぞ」

「なんで異世界に来てまで美少女ゲームやんなきゃいけないんだよ……そうじゃなくて、即死を回避するアイテムが欲しいんだよ」


 メルはなるほど、とばかりにうなずいていた。

 俺はダメージ1で死んでしまう。それを防ぐ対策を考えなければならない。

 HPが0になると全回復するとか、一定時間ダメージを0にしてくれるとか、そういうアイテムがあればかなり助かる。

 しかし、どれがなんのアイテムなのか分からないな。店の人に訊いてみるか。


 店内を見回してみると、ノイズィが店員らしき人と話をしていた。

 黒髪にローブ姿の、なんだか妖しい雰囲気の女性だ。美人だが、少し不健康そうというか、陰がある感じだな。


「魔力回復のポーションをおくれ! 百個買うから半額で!」

「いや、そんな事をしたら利益が……うちは潰れてしまうわ……」

「なら、千個買うぞ! 半額でも五百個分の現金が手に入るんだし、大儲けだな!」

「そ、そんな無茶な……」


 ディスカウントショップの仕入担当もびっくりの強引な値引きを持ちかけてくるノイズィに、女性は弱り切っていた。

 ……俺はノイズィをナメていたのかもしれない。あれは「年の割にしっかりしている女の子」程度のレベルじゃないぞ。

 そう言えば、俺に組まないかと持ちかけて来た時も、金貨を出して信用させるという方法を取ってきたな。

 さてはかなりの場数を踏んでるな? 只者じゃなさそうだ。


 他に店員らしき人物は見当たらないので、ノイズィと話していた女性に声を掛けてみる。

 女性はどこか助かった様子で、応対してくれた。


「はい、何かご入り用ですか? どんなアイテムでも『適正価格』でお売りしておりますよ」


 値切りに対する牽制なのか、適正価格を強調してきたな。ノイズィが不満そうに頬を膨らませているぞ。

 具体的なアイテム名は分からないので、どういう品物を必要としているのかを伝えてみる。


「死を回避ですか……それなら、こちらのパウダーはいかが? 不死身のゾンビになれますよ」

「いや、ゾンビはちょっと……死なない方向でお願いします」

「全回復となるとエリクサーですが……死んだ後に使えるわけではありませんので、お客さんの希望には合わないですよね……」


 どうも俺の注文は難しかったらしく、女性は困っていた。

 すると話を聞いていたノイズィが、口を挟んできた。


「それなら身代わり人形でいいんじゃないの? ダメージを代わりに受けるヤツ」

「ああ、確かに……在庫があったかしら……」


 女性はうなずき、奥にあるカウンターに入っていった。

 俺は得意顔のノイズィに尋ねてみた。


「ノイズィはこの店によく来るのか? 常連ぽいが」

「うん、割と! 店長が私と同郷の魔法使いだから話しやすいのさ! ケチだけど!」

「……ケチは余計よ」


 店長だという女性が戻ってきて、ムッとする。

 ノイズィは悪びれるでもなく、ニコニコしていた。いい性格してるな。


「身代わり人形の『ダミーくん』は五個だけ在庫があったわ。持ち主の代わりにダメージを受けてくれる魔法アイテムで、人気商品ですよ。一つ一万Gと大変お買い得で……」

「一万G? それは……」


 安くないな、と言おうとした俺を遮り、ノイズィが声を上げた。


「高っ! めちゃくちゃ高いぞ! ぼったくりだあ!」

「……人聞きの悪い事を言わないで。高名な魔法使いが手作りしている希少なアイテムなのよ。私の人脈で特別に安く仕入れているからこそ、この価格で販売できるわけで、本来なら二万Gはするわ」

「でも高いし! ハチオ、よそに行こう! 西通りのアイテム屋なら、同じ品が七千Gで買えるぞ!」


 ノイズィが俺の手を取り、店を変えようと訴えてくる。

 すると店長の女性がムッとして、不愉快そうに呟いた。


「あんな店で買ったら不良品を売り付けられるわよ。うちで買いなさい」

「でも、高すぎるし……在庫全部で一万なら買うよ!」

「ひ、一つ一万なのに五個で一万にしろと言うの!? 無茶苦茶だわ!」

「便利アイテムなのに高額だから売れ残ってるんだろ? 値引きしてでも売れる時に売っといた方がよくないかなあ?」

「うぐぐぐ……!」


 売れ残っているというのは事実らしく、店長は唇を噛んでうなり、かなり悩んでいる様子だった。

 ノイズィが「値引きしてくれるのなら定価で魔力回復ポーションを十個買うぞ!」と言うと、店長はあきらめたようにため息をつき、うなずいてくれた。


「……いいわ、五個で一万で……ただし、今回限りだからね」

「やったあ! それでいいんだよ! ほら、これで新しい常連客が一人増えたじゃないか!」

「値引きする常連は増えて欲しくないわ……」


 ノイズィのおかげで希少なアイテムが五分の一の値段で手に入る事になった。

 身代わり人形の『ダミーくん』とやらは十センチぐらいの木彫りの人形で、すごく穏やかな顔をしていて、西洋風のお地蔵さんみたいな造形をしていた。

 これを持っていればダメージを肩代わりしてくれるらしい。ある程度ダメージを蓄積するか、持ち主の生命力を越えるような大ダメージを受けると砕け散ってしまうとか。

 ふんふん、なるほど……あれ、という事は俺の場合、ダメージ1か2で砕けちまうのか? あんまりお得じゃないな。

 しかし、これがあるだけでかなり助かるぞ。命のストックを五個得たようなものだからな。金を稼いだら追加購入しておくか。


「希少アイテムなので次回の入荷は未定です。次は一つ二万になっているかも……」

「そ、そうすか」


 これはもう値引きはしないぞという牽制か。甘くないな。


「じゃあ、次は西通りのアイテム屋で買おう! この店にこだわる必要はないし!」

「ちょっと! いつもまけてあげてるのにそれはないでしょう? あなたはシビアすぎるのよ!」


 ノイズィはもっと甘くなかった。あの調子でいつも値引きしてもらってるのか。

 ともかく、最低限の準備は整った。これで心置きなく危険な依頼に挑戦する事ができるぞ。

 無論、ダメージは受けないように注意を払うつもりだが……何が起こるのか分からないからな。



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