1.神に等しい超存在(神とは言っていない)との邂逅
その日、自宅にミサイルが降ってきて、俺こと七隈八雄は死んでしまった――。
「んんっ……ここは……?」
気が付くと、変な空間にいた。
周りの景色というか空間そのものがグネグネに歪み、渦巻いている。異次元人でも住んでいそうな謎空間だ。
あたりを見回していると、前方にキラキラした光が発生し、人の形を取って具現化した。
それは、とても美しい少女だった。
銀色に輝く長い髪をなびかせ、純白の衣をまとい、背中に大きな白い翼を生やしていて、女神か天使に見える。
女神のごとき謎の美少女は俺を真っ直ぐに見つめ、ニヤリと笑い、呟いた。
「フフフ、我は神に等しい超存在、メルトリオン。こんにちは、愚かなる人類一匹よ……」
「……」
なんだ? もしかして悪魔だったのか? 微妙に言動が高圧的で邪悪だな。
「すんません、チェンジで」
「我をキャンセルする気か、クソ人類! 分をわきまえよ!」
チェンジは効かないらしい。サービス悪いなあ。
「おほん。あ、さて……貴様は不慮の事故により、本来の寿命よりもかなり早くあの世行きとなったそうだが……間違いないか?」
「えっ?」
妙な事を言われ、首をひねる。
不慮の事故なのは確かだと思うが、問題はその後だ。
本来の寿命よりもかなり早く? それってつまり、死ぬ予定じゃないのに死んじゃったって事か?
「貴様は自宅にこもり、美少女ゲームとやらをプレイしようとしていたそうだな?」
「ぶっ!」
「……もしやそれはいやらしいゲームなのか?」
「ち、違う違う! 全年齢対象のギャルゲだよ! すごく健全なヤツ!」
俺はまだ一八歳未満なのでアダルトなゲームはプレイできないのだ。一八になったら絶対に買うつもりだったが。
「で、そこへミサイルが飛んできた、と。不運よのう」
「あっ……そ、そうだ、ミサイルだよ! 部屋にいたらすごい音がして、屋根を突き破ってミサイルが……あれってどこかの国の攻撃だったのか?」
すると女は首を横に振り、ふああ、とあくびを漏らした。
……おい、そこであくびするなよ。俺にとっては結構重要な話だぞ?
「いや、あれは本物のミサイルではない。偽物だ」
「に、偽物?」
「近くの大学でアホな大学生がミサイルぽいロケットを作って飛ばしたらしい。それがまあ予想外の距離を飛んで、貴様の自宅を直撃したようだな」
「なんだそれ! つまり俺はどっかの馬鹿が面白半分で飛ばしたミサイルもどきに潰されて死んだのか!?」
「面白半分ではない。面白気分一〇〇パーセントだったそうな」
「知るか! その馬鹿を殺させろ! ふざけやがって!」
「残念ながら殺されたのは貴様の方だ。理不尽よのう……」
いや、だったら退屈そうにあくびするなよ。さては全然同情してないな?
「で、だ。これは完全に不慮の事故であり、貴様はまだ死ぬべきではなかった。つまり寿命が余っているわけだな」
むっ、これはもしや、生き返らせてもらえる流れか?
「そんなわけでミジンコからやり直すのだ」
「い、嫌だよ!」
「ではミドリムシからにするか」
「大して変わらないじゃないか! もうちょい上等な生き物にしてくれよ!」
俺が懸命に訴えたところ、メルトなんとかはため息をつき、淡々と答えた。
「早めに死んでしまったとは言え、貴様は元いた世界での生涯を終えた。同じ世界で転生すれば虫けらや微生物からやり直すのが普通だ。余った分の寿命を活かすには、他の世界へ移る必要があるな」
「他の世界? それってまさか……」
「うむ。元いた世界とは異なる次元に位置する世界――俗に言う異世界というやつだな」
異世界か。ゲームや小説でよくあるあれだな。
なるほど。そこで俺は人生をやり直し、すごいスキルを与えられて無双するんだな。
「すごいスキル? いや、特にないが」
「そんな!? 不慮の事故で死んでよその世界に飛ばされるんだぞ! 特別な力の一つや二つ、あってもいいだろ!」
「んー、そうだな……」
少しだけ考える素振りを見せてから、メルトなんたらは俺に告げた。
「では、無敵で最強の力をくれてやろう」
「えっ? ほ、本当に?」
「貴様は運がいいぞ。今日の私は微妙に機嫌がいい。いつもならミジンコと同等の価値しかないクソ人類の願いなど却下するのだが、特別に叶えてやろうではないか」
「そ、そうなんだ。そりゃどうも……」
どうも言動がアレだが、こちらの希望を叶えてくれるのなら文句は言うまい。
一応、確認しようと思い、尋ねてみる。
「それでその、無敵で最強の力というのはどんな……」
「そうだな。貴様はどんなものがよいのだ?」
「えっ? え、ええと、じゃあ……パワーやスピードが飛び抜けていて、どんな敵と戦っても負けない、みたいな……」
「では、そうしよう」
「あっさり通った!? そんな簡単でいいの? 条件とかリスクとか決めなきゃいけないんじゃ……」
「そうか。では、そうしよう」
「えっ?」
メルトなんとかは俺をジッと見つめ、ニヤッと笑った。
「貴様の言う通り、大きな力を使うにはそれなりの条件が必要となるのが常識であろう。そうだな、全裸になって『男も女も大好物!』と三回叫ばないと力を発揮できない、というのはどうだ?」
「やだよそんなの! 完全に変態じゃねえか!」
「だが、無敵で最強だぞ?」
「無敵で最強でも嫌だよ! 誰も相手にしてくれないだろ!」
それって相手がいなくなるから無敵なんじゃないのか?
もう少しマシな条件にしてくれないかな。
「うむむ、全裸も変態も嫌か……それが最も低リスクな条件なのだが……」
「どこが!? めっちゃハイリスクだろ!」
「仕方ないな。では、あれにするか」
「あれって?」
「一つを犠牲にして、他を持ち上げるのだ。ある要素は人並み以下になるが、それ以外の要素はクソ人類をはるかに超越する」
多くの要素を犠牲にして一つを、ではなくて、その逆か。犠牲になるのが少ない分、リスクは低そうだな。
「じゃあ、それで」
「いいのか? では、貴様の望みを叶えよう……」
メルトなんとかが目を閉じ、右手の人差し指と中指をそろえて構え、何事かをブツブツと呟く。
クワッと目を開けるのと同時に腕を真っ直ぐに伸ばし、指先を俺に向けてくる。
「あとぅっ!」
「!?」
指先から光がほとばしり、レーザーみたいなのが俺の胸を貫く。
って、痛い! 何これ、無茶苦茶痛いんだが!?
「あとぅっ、あとぅとうう! あとぅッッッ!」
「ちょっ、待て、痛い痛い! 連射するなよ! 痛いって!」
痛みを訴える俺を無視して、メルトなんとかは謎レーザーをバンバン連射した。
散々俺を痛めつけた上で、力をためてさらに強力な光を放とうとする。
「とどめだ! はああああああ……!」
「いや、とどめって何!? や、やめろぉ!」
「あとぅっあ!」
「うわあああああああああああ!」
極大のレーザーが直撃し、視界が真っ白になる。
同時に意識が吹っ飛び、俺は何がなんだか分からなくなった――。