第六章 最後の拠点へ
4人とインフィニティは火の神殿へ到着したのち全地域に向けて、反乱軍募集の報を流した。種族を限定せずに招集して、1人でも多くの戦力を得ようと試みる。そして…
「いよいよ…最終決戦ですね。」
ディーヴァが集まった反乱軍を前にして言う。
「あぁ…これで最後だ。俺らマウィの生き残りをかけた、最後のな。」
ガールムは一同を見回す。マウィ、メマの両種族の兵士、一般市民、救護専用の部隊。さまざまな人々が集まってきていた。
「もう始めるのか?」
ディーヴァとガールムの後ろからスサノオが声をかける。
「ええ、そろそろ出陣です。これ程の兵を募れたのです。やれない事もないでしょう。」
「なるほど。それは頼もしい。やはり、お前に指揮を任せて正しかったようだな。」
スサノオはゆっくりと二回頷く。ガールムは頼られている自分を誇らしく思った。
「ただ、油断はするな。常に死と隣り合わせであることには変わりない。慎重に、かつ大胆に行動するんだ。」
「ご教授、ありがとうございます。我々も全力を尽くし、頑張りたいと思います。」
「ま、俺もいるし大丈夫だろ。」
そう言いながら、エリックは2人の横を抜けていく。
「全く…その余裕はどこからくるのやら…」
ガールムは呆れたように語る。スサノオは笑ってエリックに語りかけた。
「ハハハ!頼もしい限りだ。今までのお前の戦歴は実に素晴らしいからな。それくらいの自信のあるほうが見ている側としても安心だ。」
「そうなのですかね…」
流石のディーヴァもこれには苦笑いだった。
軍備を整え、配置に着く一同。エリック率いる先鋒部隊は剣兵、槍兵などの白兵戦を意識した部隊を構成。また、攻めやすいように一点に固まり、集団戦法を取り入れた。その後方に控えるのが、ディーヴァ率いる援護部隊。こちらは銃兵や魔術兵などの遠戦をメインとした部隊を構成した。こちらは先鋒部隊とは逆に横広がりで先鋒部隊を包み込むように布陣し、先鋒部隊の穴を埋めるような陣形をとった。そして最後方はガールム達のいる本陣、火の神殿になっている。ここにはオシリス率いる救護部隊がおり、負傷者はここに運ばれることになっている。
「さて…始めるか。」
ガールムは指揮棒を構える。
「全軍…」
そして、それをゆっくりと上に上げていく。
「突撃ぃ!」
あちこちで声が上がる。遂に、マウィによる全力抗争が始まった。
その頃、フェニクス城ではー
「遂に風の神殿のみとなってしまったな…」
将軍とラーによる会議が開かれていた。
「まさかあの反乱軍がこんな短期間で力をつけて来るとは思っていなかったな…。」
そう語る彼は機械兵を指揮する将軍。彼は林の砦において、ヴォルケーノの軍勢の力を目の当たりにしており、対策を練っていた。
「ふんっ、開発段階の物を実戦に出すからだ。初めからあんなものに頼るんじゃなかったな。」
「なっ、そんなこと言ったって…第一出撃を命令したのはあんたじゃないか!」
そう言われた彼は軍備将軍ー兵や、武器の管理を行う部隊の総指揮をしている将軍だ。
「ふっ、まだお前も子供だな…実戦に投入するから、早めに仕上げろという意味で言ったのにな…そんなこともわからんとは…」
「ええい、お前はいつも回りくどい!初めからそう言えば良いだろう!?」
「それではお前が成長しないだろう?全く、だから子供なのだよ…」
「そこまでにしておけ。」
そう言い、仲裁に入ったのは大将軍ー将軍の長ーオベリスクだった。
「今はそんなことで揉めている場合ではなかろう。この危機的状況を乗り切るにはどうするか、そこが論点であろう?」
「は、はい…すみませんでした…」
「ふっ、しかしどうする?奴らは軍を整え次第こちらへと進軍することは明確だぞ。」
軍備将軍が問う。
「うむ。それは間違いないであろう。そうとなれば防衛戦を行うしか手段はない。」
「しかし、全戦力を上げることは不可能ですぞ。ここを空にすることはできませぬ。」
機械兵将軍がそう言った。オベリスクはそれに対してこう答えた。
「我々の軍と救護隊、白兵部隊で防衛をしようと思う。」
全員驚いた。大将軍自らの出陣ともなればそこで敗北すればメマの、フェニクス城の未来などあったものではない。
「ま、待ってください!考え直しませんか!」
そう止めたのは出陣を同行する白兵隊将軍だった。
「それではあまりにもリスクが大きすぎます!もし、ここで風の神殿が落ちてしまったら、城を誰が防衛するのですか!機械兵だけでは無謀です!」
「王を守る部隊もいるし、親衛隊もいる。それに状況次第では救護隊を早めに城へ帰還させる。城の損失はそこまで大きくはならないだろう。」
「しかし!」
「良いではないか。」
そう声をあげたのは、ラーだった。
「こ…国王?」
「オベリスクがそこまで言うのには何か勝算があるのであろう。事実、奴らと刃を交えたのは将軍の中でただ1人…オベリスクのみだからな。」
ラーは人とは思えないような冷たい眼差しでオベリスクを見ていた。普通の人なら恐れるあまり、目を背けるであろう。
「ありがとうございます。それでは…」
そう言ってオベリスクはその場を離れた。残った将軍達は呆然としていたが、ラーだけは違かった。
「さて…あいつはどこまでやってくれるだろうか…」
その呟きを将軍達は聞き逃さなかった。
風の神殿へと行軍していくヴォルケーノ。先頭にはエリックの姿があった。
「よし。もうすぐで風の神殿だ!全速前進!」
白兵部隊は速度を上げていった。すると、向こう側から砂煙を上げて何かが迫ってくる。よく見るとメマの騎馬兵だった。
「ようやく敵さんのお出ましだな…」
エリックはそこで立ち止まる。
「全体!構え!」
行軍していた軍は足を止め、各自武器を構える。向こうから勢いよく騎馬兵達が駆けてくる。
「突撃態勢!向かえぇ!」
ヴォルケーノの白兵部隊が一気に騎馬兵へと突っ込んでいく。騎馬兵の軍団は怯むことなくそのまま攻め込んでくる。2つの軍団が今、ぶつかりそうになった瞬間、天から火の塊が降って来た。
「ははっ!決まったな!」
ヴォルケーノの兵は敵にぶつかる直前で止まり、その爆発からギリギリ回避できる所で留まっていた。火の塊の正体はー
「どうですか!この人数ならこれくらい余裕ですよ!」
後方に控えていたディーヴァの軍団であった。実は先鋒部隊が1つに固まったのは魔法攻撃から回避するため、援護部隊が包むような配置にしたのは確実に敵に当てて行くため、一種の先鋒部隊を使った囮作戦だった。
「たまには、俺の軍略もいいだろ?」
「ふふ、流石エリックさんですね。」
そう言いながらヴォルケーノは2人を先頭に突撃して行く。敵の騎馬軍団は勢いに押され、徐々に後退していく。
「そらそらぁ!」
「行きますよ!」
2人の攻めは怒涛の勢いで、敵陣を崩していく。そしてー
「ついにここまで来たな…風の神殿!」
エリックたちの目の前には最後の拠点が、そびえ立っていた。
「よく来たな…」
風の神殿の上から男の声がする。
「誰だ!?」
その男はそこから飛び降り、エリック達の前に着地した。
「我が名はオベリスク…かつてお前らの隊長、ガールムと一戦交えた男だ。そして、お前らが天の塔で出会ったメマ兵の女隊長…ブラウン・カーリーの前隊長だ。」
風の神殿からゆっくりと一匹の黒い馬がやって来る。オベリスクはその上に跨り、大剣を構える。
「お前達には恩がある…だか、それとこれとは別だ…。
しかし…お前らの兵には手をかけん。その代わり… 」
彼はその大剣をエリックへと向ける。
「エリック殿。一騎打ちを頼みたい。」
場の空気が凍る。しかし、エリックだけは余裕の構えだった。
「分かった…その約束違えないな?」
「勿論…我とて人情くらいはある…」
2人はゆっくりと武器を構えていく。
「エリックさんっ!」
「全員下がってな。俺にしかできないことだ…やらせてもらうぜ。」
ディーヴァの心配を振り切り、彼はオベリスクへと向かっていく。
「いざ…尋常に!」
「行くぜ!」
2人の武器が重なり音を立てる。
その頃、ラーは王室から外を見ていた。荒らされた大地。枯れた木々。朽ちる建造物。もはや、メマとマウィの文化も見られないような荒地になっていた。
「ラー国王。」
側近が部屋へと入ってくる。
「報告致します。風の神殿にて、ヴォルケーノとオベリスクの部隊の交戦が始まりました。」
「分かった…では、そろそろ向かうか…。」
ラーは王室を後にした。謎の笑みを浮かべて。
「せいやぁ!」
「喰らえっ!」
槍と大剣がぶつかり合う金属の音があたりに響き渡る。オベリスクは愛馬に乗りながら、エリックの槍を薙いでいく。エリックは馬を狙いながら突いたり、オベリスクに向かって切りつけたりしていく。
「ヒート!」
エリックが手元から火の玉を出す。その火はオベリスクの胸元向かって飛んでいく。
「せぇい!」
オベリスクはその火を一刀両断する。
「お前の炎を消すことなど、造作もないことだ。」
「へへっ。そう来なくちゃなぁ!」
そう言いながら、エリックは思い切り槍を振り回した。その槍の動きは低く、且つ早かった。
「むぅ!?」
その早さに追いつけず、馬が転げてしまう。オベリスクは肩から衝撃を軽減するように受け身を取る。すると、すぐにエリックは槍をオベリスクに叩きつける。オベリスクは瞬間、大剣を構え、ギリギリで槍を受け止める。
「へっ、懐がガラ空きだぜ!」
エリックはそう言うとオベリスクの腹部に氷の拳が入る。
「ぐわっ!!」
オベリスクはそのまま飛んでいく。エリックが追撃しようと構えた時、大剣が彼めがけて降ってきた。
「なっ!?」
エリックはその大剣を避けるが槍がそれに当たってしまう。その衝撃に耐えられず、エリックはひっくり返ってしまう。
「ぐっ…!」
すると数秒してオベリスクが拳を構え、降ってきた。エリックは反応しきれず懐にモロに食らってしまう。
「グホッ…」
オベリスクは続いてもう一撃を当てていく。エリックは声も出なかった。
「これで終わりだ…!」
オベリスクは大剣を手に取り、構える。
「エリックさんっ!」
ディーヴァが叫ぶ。エリックは返事をしなかった。
「さらば…マウィの英雄よ…」
そう言いながらオベリスクは大剣を叩き落とす。ガギィィィィンと大きな音を立てて大剣が当たる。すると、大剣が吹っ飛んでいた。見るとエリックがオベリスクの腕を掴んでいた。
「はっ…間に合ったぜ…。クリフによる部分防御とボルトによるお前自身への直接攻撃が…」
エリックが笑みを浮かべながらオベリスクを見据えていた。
「なっ…貴様っ…」
「これでも喰らえっ…!」
エリックは槍を握り、それを思い切りオベリスクの腹部に叩きつける。オベリスクはそのまま飛んでしまう。
「げぼっ…」
そしてそのままオベリスクは倒れてしまう。
「へっ…どーだぁ…」
エリックはゆっくり立ち上がり、槍を構えた。
「せぇい!」
そしてエリックは槍を突き刺した…地面に。
「…なん…だと…。貴様…手を…抜くのか…?」
「違うさ。お前には生きて恩をきちんと返してもらわないとだからな…。お前さんみたいな有能な奴、殺すわけにもいかないしな…」
エリックはボロボロになって笑いながらそう語った。
「はっ…格好…つかない…な…」
「立てよ…一緒に戦おう…。」
「俺を…許すのか…?」
オベリスクはエリックから差し伸べられた手を見つめながら言う。
「もちろんさ…。お前は悪くない。悪いのは全てあいつさ。」
「そうか…罪を憎んで人を憎まず…か。」
そう言いながらオベリスクはエリックの手を掴もうとした瞬間、
「そうさ。だが、全ての悪はいつだって悪さ。」
そう声が響いたかと思うと、オベリスクの肩を何かが射抜く。
「ガッ…!!」
「なっ…」
「えっ…」
何が起きたか誰にも分からなかった。エリックの目の前でゆっくりとオベリスクが倒れていく。
「おい!どうした!!おい!!!」
エリックはオベリスクに叫ぶ。オベリスクは目を瞑ったまま何も話さない。彼の肩には大きな槍が突き刺さっていた。
「ど…どういうこと…!?」
ディーヴァ達が戸惑っている中、また声が響く。
「上だよ、諸君。」
皆が見上げるとそこにはラーが立っていた。
「久しぶりだな…諸君。我こそが国王ラー。貴様らの最大の敵だ。」
「ラー…!」
「ラー国王…」
「フッフッフ。手厚い歓迎感謝するよ。ところで今日は君たちに私の新作を見てもらいたくてね。君たちに試してもらおうと思ってね…」
すると風の神殿から機械巨人が現れる。天の塔とは違う形のようだ。
「ではまた会おう。生きていればね。」
「待て!おい、待て!」
エリックはラーを追おうとするが、それを機械巨人が遮る。機械巨人はオベリスクの肩に刺さっている槍を引き抜く。
「ディーヴァ!オベリスクの救護を!」
「は、はいっ!!」
ディーヴァはこちらに駆け寄ってきて、オベリスクを抱え、木陰に運ぶ。10人ほどディーヴァの元へ来て、オベリスクの治癒を開始する。
「さぁ…始めようか…。全軍構え!目標は機械巨人だ!」
エリックは全体に号令をかける。先鋒部隊は武器を構え、援護部隊も魔法詠唱の構えを取る。その横をオベリスクの馬が駆け抜けていった。
ヴォルケーノの本陣では前方の異変に気付いていた。
「なんだ…どうも軍の動きがおかしいぞ…?」
ガールムが考え込む。すると、そんな彼の元に一匹の黒い馬がやってくる。
「…な、なんだぁ!?」
周りの兵は驚いている。ガールムも驚いていた。
「なっ…お前は…!オベリスク殿の…!」
ガールムは彼を見て違和感に気づく。
「待て…お前の主人は?」
彼はじっとガールムを見つめていただけだった。
「まさか…」
ガールムは前方の違和感を最悪な方向に考えてみる。
「もしそうだとしたら…皆が危ない…」
ガールムが顔を上げる。
「お前の主人の元に連れて行ってくれ。頼む。」
そうすると彼はガールムに背を向けた。ガールムは彼に跨り、手綱を握る。
「皆はここで待っててくれ!火の神殿の護衛を頼む!」
「は、はい。ですが…」
「悪いが、ここでエリックとディーヴァを失うわけにはいかん!」
そう言ってガールムは馬に叫ぶ。
「進め!ナイトメア!戦地へ!」
ナイトメアはいななきをあげ、元来た道を駆けていく。
その頃、風の神殿前は地獄絵図になっていた。先鋒部隊の約半数は倒れ、援護部隊も三分の一の兵を失っていた。
「くそっ…どうすりゃいいんだ…。」
機械巨人は容赦なく攻撃を続ける。こちらからなかなか攻撃を仕掛けることができない。どうやって攻撃するか考えている間に無駄な犠牲が増えていく。
「くそぉ…!なんとかできねぇのかよ…!」
そしてついにエリックに向けて機械巨人の槍が向けられる。
「ここまでかよっ…!」
「諦めるなぁ!」
そう叫びながら、一騎の兵が機械巨人の槍を弾く。一瞬機械巨人の動きが鈍る。
「まだやれることはある!こいつを惑わせばいい!」
声の主はナイトメアに跨った、ガールムだった。ガールムは機械巨人の周りを走りながら叫んでいる。
「ガールム!!」
「動け!たたけ!今は考えることよりもたたみ掛けることが、重要だ!勢いで勢いを殺せ!」
そう言われたエリックは槍を構え、飛び上がる。
「分かった!俺は上から行くぜ!」
そのまま槍を振り下ろすが、受け止められてしまう。そのタイミングでガールムは足元に大斧の一撃を当てて行く。機械巨人がバランスを崩し揺れ動く。機械巨人はエリックを弾くと三度地に向かって突きをする。しかし、ナイトメアの速度はそれよりも早く全てをかわしていく。下に集中している隙にエリックは顔めがけて槍をぶつけにいく。しかし、数秒早くそれに気づかれてしまい、機械巨人の手によって受け止められてしまう。
「くそっ…」
機械巨人はそのままエリックを掴み握りつぶそうとする。
「ぐぁっ…あぁあぁ!!!!!」
ギリギリギリ…と骨が鳴る激痛がエリックを痛めつける。
「エリック!」
ガールムは足に大斧を当てるが、機械巨人はビクともしない。
「くそ!間に合わないっ!」
ガールムがエリックの救出方法を考えていた次の瞬間、地中から蔦が生えてきて、機械巨人の腕に絡みつく。機械巨人の、握る力が緩む。
「私だってまだやれますよ!」
それはディーヴァの声だった。ディーヴァが腕を振り下ろすと、蔦が思い切り機械巨人の腕を引き摺り下ろす。その腕は地面に叩きつけられ手が開く。エリックはすぐさま脱出する。
「ありがとう、ディーヴァ。」
「気にしないでください。それよりもあれにとどめを。」
機械巨人は腕についた蔦を解くのに必死になっていた。
「すまんが今の俺には無理だ…そうだ。ガールム!!」
エリックはガールムに叫ぶ。
「頼む!!あいつに引導を!!!!」
「…分かった。」
そう言いながらナイトメアを機械巨人の方向へと向ける。
「行くぞ!構えろよ!!」
機械巨人向かって駆け出す2人。ガールムはゆっくりと大斧を後ろへと引いて行く。
「これでとどめだぁ!!」
大きく振り回した大斧が首元を一刀両断する。機械巨人は糸の切れた操り人形のように崩れ落ち、鉄くずとなった。
ようやくの思いで風の神殿を制圧した。しかし、ヴォルケーノの損害は多大なものだった。
「どうする…?」
ガールムは真剣な表情で周囲を見渡す。今まで経験したことのないほどの数の屍。血の海とはこのことかと理解させられるような状況だった。
「救える命は救い切った。今はそう思うことが大切だ。」
エリックはそう言いながらガールムの肩を叩く。
「とにかくもう私たちはここまで来ました…。これ以上下がることはできません…」
「前へと…進むしかないのか…」
ガールムは天を仰いだ。
「俺たちの戦いは…果たして意味があるのか…?」
「意味あるかないかなんて、決まるのは最後さ。結局はこんなこと、最後までやってみなくちゃ分かんないんだよ。」
エリックはそう言いながら、槍を肩に担いだ。
「俺らの目的はラーによるこの現状の撃退。ただ、それだけだろ。」
「ああ…そうだな…」
ガールムは俯きながらそう呟いた。
「ふっ…弱音を吐くか、英雄達よ。」
3人の後ろから声がした。振り向くとそこにはよろめきながら歩くオベリスクの姿があった。
「オベリスクさん!まだ傷は完全に癒えてませんよ!」
そう言って彼に駆け寄り支えるディーヴァ。オベリスクは彼女を見ながら笑みを浮かべる。
「ふっ…マウィの民がメマの将軍である私のことを心配するとはな…。周りから見たら愚か者と評価されるであろうな。」
オベリスクはガールムとエリックに向き直り、語り始める。
「俺は裏切り者だ。今はあいつらから刃を向けられることだろう。が、これでもメマの将軍なのでな…。内部のことくらいならわかる…」
そう言いながら咳き込むオベリスク。口からは血が吐き捨てられる。
「おい…無理すんな。」
「英雄達よ。」
エリックの心配を遮り、語り始めるオベリスク。
「お前たちは全てを犠牲にする覚悟はあるか。」
オベリスクの発言に固まる3人。彼の目は本気だった。何も言わない彼らにオベリスクはこう語る。
「覚悟のできないものにはここから先、進むことなど出来はしない。ないなら引き下がれ。」
ガールムは歯ぎしりをする。ディーヴァも俯いたまま、何も言わない。
「俺には…そんな覚悟はないな。」
そう言ったのはエリックだった。
「俺は今、仲間を守る事しか考えてねぇ。だから、全てを犠牲になんて俺はできないし、したくない。」
その言葉を聞いたオベリスクはディーヴァから離れエリックへと近づくと、そのまま胸ぐらを掴み上げた。
「お、おい!落ち着けよ!」
ガールムが2人を止めようとするが両者はにらみ合ったままだ。
「英雄よ…そんな稚拙なことを呑気に言っていながら戦場を生きていけると思っているのか?」
「俺はもともと、守る戦いしかしていないし、これからもそのつもりだ!」
オベリスクはその言葉を聞き、腕に思い切り力を入れた。
「それが幼稚だと言うのだ!何かを守るなど、結局は何かを犠牲にしなければならないのだ!守る戦いなどありはしない!」
「だから俺はその中でも仲間を守り抜いてやる!例え自分の命や武器、財産を失おうと!せめても…こいつら2人は俺が守り抜いて…これからの世界を見させてやりたいんだ!」
そのエリックの言葉にガールムとディーヴァは心が揺れた。まさかエリックがここまで自分たちを思ってくれているとは思っていなかった。
「ふっ…そこまで言うなら、やってみればいい。お主の実力が本当にそれほどまであるのかどうか、我が見定めてやろう。」
そう言ってオベリスクは手を離した。
「へっ。それがやれてこそ、本当の英雄さ。」
エリックは笑いながらそう言った。オベリスクも笑みを浮かべる。
「風の神殿を抜け、そのまま進めばフェニクス城だ。そこから先は俺が案内しよう。」
「恩にきるぜ、ありがとう。」
「気にするな。お前のその覚悟、見てみたいのでな。」
そう言いながら2人は風の神殿へと入っていった。
「エリックさんは…あんなにも…」
ディーヴァはそう呟いた。
「だから、俺らも覚悟を持つしかないな。」
ガールムはそう言いながらディーヴァを見る。
「俺らも守られてるだけでは癪だろ?だから、俺らも守ってやらんとな。」
「はいっ!」
ガールムとディーヴァも2人を追って風の神殿へ入っていった。