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Magic of God  作者: 明智ひかる
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第三章 思姉妹迷

ヴォルケーノ一行は北へと進軍、林の砦へと向かっていた。そこを制圧すれば、北にかかる橋を渡り、城へと攻めることができるからだ。

「そういえば、林の砦には山の砦にいた人たちの兄弟や子供がいるみたいだな。」

先ほどの山の砦で捕虜の話をいろいろ聞いていたガールムが言った。

「兄弟と言えば、私、実は姉がいるんらしいんですよ。」

「ああ、丁度俺もその話をしようと思ってな。」

ガールムが頷く。へぇー、と頷くとマキナ。エリックは確かそんな人居たなぁ…くらいだった。

「でも、私たちが小さい時に何処か行ってしまったみたいで…」

「確か、孤児院に入るとかだったな。」

ディーヴァとガールムは思い出話を始める。

「あの頃は楽しかったですねー。よくエリックさんとも遊んでましたっけ。」

「あぁ。でも、俺はけっこう早く帰ってた記憶があったな。」

「そうですね。エリックさんは先に帰って私とガールムさんで、2人だけで遊んでましたね。」

「あ、そーいえばガールムさんとディーヴァさんって従兄弟でしたもんね。」

マキナが納得したようにぽん、と手を叩く。

「あぁ、だからまぁディーヴァの姉さんにはよく世話になってな。ふっ、本当に懐かしい。だが…」

ガールムが首を傾げる。

「どうも顔を思い出せなくてな…」

「実は私もなんです…」

ディーヴァも首を傾げながら言った。

「何故だろう…もしかしたら、孤児院に何かヒントがあるのかもな…」

「その孤児院は…ここでは?」

マキナが指差した先には少し古い建物があった。看板がそこにあり、「アリス孤児院」と書かれていた。その後ろには林の砦と思われる砦があった。

「ここは昔からあります。多分お姉さんもここで育ったのではないかと…」

マキナが説明する。

「私たちは勝手に入っていいのでしょうか…」

「むしろここを通らなければ、林の砦へと攻め込むことはできません。お姉さんの手がかり探しも含め入らなければ。」

それを聞いた3人は俯いた。砦を制圧するためには罪のない子供達を危険に晒されなければならなかった。その姿を見てマキナがこう言った。

「僕が先に行って話して来ましょう。僕も少し前にお世話になったので…」

マキナに交渉を任せ、3人は少し後ろに立って見ていた。マキナはドアをノックする。

「はーい」

程なくして女の人の声がして扉が開く。

艶のいい長髪、美しい華のような顔立ち、程よく膨らんだ胸。

誰が見ても美人と言うような女性が扉を開けて出て来た。

「あら、マキナくんじゃない。元気にしてた?」

「はい。この戦争で命を落とす事なく、頑張れました。まぁ、救ってもらったのが事実なんですが…」

マキナは恥ずかしそうに頭をかいた。

「あらあら…でも生きてて良かったわ。」

女性はマキナに優しく笑いかけた。その笑顔は男の心を一瞬で奪ってしまいそうな笑顔だった。だがしかし、その顔にはどこか切なさがあり、少しだけ哀しそうであった。

(…)

ガールムはその雰囲気を確実に認識した。

「あら?後ろの方は?」

彼女は後ろにいるエリック達に気がつき、マキナの後ろを覗き込む。

「あぁ、彼らは…」

マキナは経緯を説明し、事情により通りたいという話をした。

「そうだったのね。それなら、この孤児院を休憩所として使うといいわ。」

女性はにっこりと笑って言った。

「どうぞ、兵隊さん。狭いですが、どうぞおあがり下さい。」

マウィ兵は戸惑う。例え優しい人だとしても、敵国は敵国だ。たやすく信じていいのだろうか。とざわついている中、

「ガールムさん。」

ディーヴァが、耳打ちをする。

「なるほどな…」

そう言ってガールムは前を向く。

「分かりました。ありがたく利用させていただきます。」

いつもより少し優しい顔で、そう答えた。女性は中へと入っていき、それに続きヴォルケーノも入っていく。

中はとても綺麗で、休憩所として充分すぎるほどの広さだった。部屋の一角では子供達が遊んでいる。子供達の中にはメマ族もマウィ族も居た。多分、戦争で親と離れ離れになってしまった子達なのだろう、とエリックは予想した。その中の女の子1人がこちらを向く。

その子はこちらを見るや否やこちらへ向かって来た。

「おとうさーん!」

その女の子はマウィ兵の1人に抱きついた。マウィ兵は彼女の頭を撫でている。それを聞いて次々とこちらを向く子供達。彼らも父親や、兄を見つけ飛び込んでいく。ガールムはその様子を見て、子供や弟妹のいる者を山の砦へと帰し、居なかった者はその人達の護衛役を任せた。そして…

「結局僕らが残る、と…」

残ったのは、エリック、ガールム、ディーヴァ、マキナの4人。なんとなくこうなる事を予想していたマキナは肩を落とした。

「なんだ?嫌か?」

ガールムが凄味のある眼差しでマキナを見る。

「い、いや…なんでも…ないです…」

そんなことをやっている間、エリックは端にいる残った3人の子供達を見ていた。

「…彼らもこの戦争で家族とバラバラになってしまった子達なの。」

お茶を運びながら話す女性。エリックは女性の方に顔を向ける。

「この戦争の中、彼らは1人、1人全く別の場所で私が見つけたんです。」

彼女は全員に紅い紅茶を配り、椅子に座る。お茶からはゆったりと湯気が流れていた。

「いつか、彼らの家族も見つかるといいんですけど…」

そう言いながら、紅茶に視線を落とす彼女はそこに映し出された自分の顔を見つめていた。ディーヴァもその視線の先にある紅茶に目をやった時、ポチャンと紅茶の中で何かがはねた。

「?」

「あ、そういえば、自己紹介がまだでしたね。」

そう言ってこちらに顔を向ける彼女。

「私の名前はオシリスと言います。」

「オシリス…?」

ディーヴァが名前を復唱する。

「ん?どうした?」

エリックがディーヴァの顔を覗き込む。ディーヴァの脳内では記憶のフラッシュバックが起こっていた。


ー自分の幼少期ー

「ねぇねぇ、今日も遊ぼ!」

「おう!いいぞ!」

「ボールを持って、ゴー!」

3人で外へと元気よく出かけていく。

ーガールムとエリックと遊んでいるー

「行くぞーディーヴァ!そーれ!」

「あぁ!エリック兄ちゃんボール投げるの強いよぉ」

「ごめんごめん」

「よし、エリック。次は俺と勝負!」

「受けて立つ!」

「頑張って2人とも!」

ディーヴァはニコニコしながら2人のボールの投げ合いを見ていた。

ーエリックが先に帰るー

「ごめん、先帰るよ。」

「うん!またねー!」

「また明日なー」

「ガールムお兄ちゃんもう少し遊んでよ?」

「おう、まだ俺らは大丈夫だもんな!」

2人はまた、ボール遊びを始めた。

ー誰かが2人を迎えに来るー

「こらー2人とも!遅いじゃない!」

「ふえええん、ごめんなさい、お姉ちゃん。」

ディーヴァの姉と思われる人物に説教を受けていた。顔は見えない。

ーそしてーーー

ガシャァァァァン

「え?」

ヴォン

「危ないっ!」

「おねえ…ちゃん?」

「早く…早く逃げて…」

「でも…」

「早く!」

「ディーヴァ、行くぞ!お姉ちゃんの助けを無駄にするな!」

「でも…」

ディーヴァは泣きながら訴えるが、ガールムは彼女の腕を掴んでそのまま走り出す。

「おねぇちゃぁぁぁぁぁぁぁん!」

そんなディーヴァを見て彼女は手をかざした。


ここで途切れてしまった。

ディーヴァは頭を押さえながら倒れ込んでいた。

「ディ…ディーヴァ?」

恐る恐るエリックが名前を呼ぶ。

「あ…エリックさん…」

うっすらと開いた瞳でエリックを見つめるディーヴァ。その目は少し潤んでいた。

「大丈夫か?」

手を差し伸べるエリック。その手をしっかりとしっかりと握り、立ち上がるディーヴァ。

「はい、なんとか…」

立ち上がったはいいものの少し身体が震えている。

「大丈夫ですか?何か羽織るものでも…」

そう言ってオシリスは、部屋の奥に消えていく。震えるディーヴァをさするエリック。ちら、とガールムとマキナの方を見ると、子供達と一緒に遊んでいた。

(ガールムってあの感じに似合わず、子供慣れしてるよな…)

そんな事を思いつつ、ディーヴァに視線を戻す。

「…ちゃん。」

「え?」

ディーヴァが何かを言ったのだが聞き取れず、聞き返す。

「お姉ちゃんの記憶が…蘇ってきた…。お姉ちゃんに…何かあった…」

身体を震わせながらそう話すディーヴァ。

「会話しか…思い出せなかったけど…あの時…何かが…何かがお姉ちゃんに…」

思い出そうとすると頭が痛い。ディーヴァはまた頭を押さえながら悶え始めた。

「分かった。今は一旦落ち着こう。な?」

「はい…」

そんな話をしているうちにオシリスが奥からブランケットを持って出て来る。

「どうぞ、これを使ってください。」

ディーヴァはそれを羽織り、椅子に座った。ガールムとマキナも座り、改めて自己紹介をする。

「エリック・ホロウです。」

「ガールム・ツバーンというものです。」

「ディーヴァ・クレセントです。」

「マキナ・エクストです。」

ヴォルケーノのメンバーは一通り自己紹介を終え、今起こっている問題について話した。

「ラーは今、反虐殺派の人間を高い地位に置いています。」

「やはり…この戦争はただの民族争いではないようですね。」

「はい。多分何かしら裏があるかと…」

ガールムはそう話しながら、オベリスクの存在を思い出した。彼のようなすぐ謀反を起こせそうな人材をなぜ自らの近くに置くのか…。それがガールムには解せなかった。ラーの目論みが見えそうで見えないのだ。

「分かりました。私も反虐殺派の人間として、あなた達の抵抗に協力しましょう。」

オシリスはそう宣言し、ここの孤児院を宿泊施設としての利用を許可してくれた。これはとても大きな影響を彼らに与えた。

「宿泊施設があるのとないのでは大違いだな。」

「ですが、ここは定期的にメマ兵の巡回が来ます。今日はもう寝ていただいた方がいいかと…もうすぐにやって来ますので…」

そう言って彼女は上の階に4人を誘導する。

「ディーヴァさん。」

オシリスは、最後に階段を上ろうとしたディーヴァを呼び止める。

「これを…戦場に女1人は大変でしょうから…」

そう言って彼女は緑の宝石を渡す。その宝石は、とても澄んでおり、魔力も感じる。

「私からのお守りです。」

「あ…ありがとう…ございます。」

ディーヴァは、少し笑いながら言った。向こうも笑顔を返してくれた。


二階には2人部屋が三部屋あり、1部屋は子供達、1部屋はエリックとマキナ、もう1部屋はガールムとディーヴァという分かれ方にした。

「しかし…なぜだか分からないけど異様な魔力を感じる…。」

「エリックさん。」

振り返ると、マキナが真剣な顔持ちで立っている。

「どうした?」

「エリックさんに折り入って頼みがあります…」


ディーヴァが部屋に入った時、ガールムは窓から外を見ていた。

「おい、あれを見ろ。」

そう言って、ディーヴァを窓に誘導する。そこに写っていたのは、メマの機械兵の集団であった。

「もう来たんですか…」

「俺らはとりあえず、息を潜めよう。」

ディーヴァとガールムはカーテンを少し開け、そこから外を覗くことにした。ガチャガチャと動くメマの機械兵。周りにはメマ兵も居て、強固な防衛戦とも見てとれた。

「…林の砦の経路としてここを使っているのか…」

「…らしいですね。どこからかは知りませんが、繋がっているようです…」

じぃっと外を見ている2人。するといきなり、ディーヴァの胸元の宝石が光り出した。

「!?」

ディーヴァは驚きで声をあげそうになったが、ガールムに口を押さえられ、間一髪声を出さずにすんだ。

「これは…」

ディーヴァが宝石を胸元から取り出すと、壁に映像が映し出された。そこには…


「よう、女。今日も通させてもらおうか。」

メマ兵の1人がオシリスに向けて言う。

「…分かりました。どうぞお通りください。」

オシリスは先程、ディーヴァ達が上った階段の裏へメマ兵を誘導する。そこには扉があり、オシリスの持っている鍵で扉を開けると、地下に続く階段があった。

(!?これが林の砦への通路!?)

(しっ!あまり大きな声を出すな!)

ディーヴァとガールムは囁き声で話している。

「へっ毎度毎度のこと悪いねぇ。」

オシリスを見てニヤニヤしながら扉をくぐっていくメマ兵。オシリスはそんな視線など気にせずにメマ兵を送り出す。そして、映像もメマ兵の後ろからついていった。

(こ、これは…今起きてることなのでしょうか…)

(あぁ…きっとそうだろう。しかし、何を使ってこれを映し出しているのだろう…)

と、その時

「ん?なんだ?」

最後尾のメマ兵が振り向く。映像越しにメマ兵と目が合う2人。2人は蛇に睨まれた蛙のように動けなくなっていた。メマ兵はじぃっとこちらを見続ける。数秒だろうか、数十秒だろうか、メマ兵が納得いったような顔をして、

「なぁんだ、トカゲか。最近多いんだよなぁ。」

そう言って前を向いた。こちらには一切気づいていないようだ。

(ふぅ…焦ったぁ)

が、次の瞬間、映像に一筋の光が入り…

ドォォォォォォォン!!!

地響きとともに鳴り響く爆発音。位置から考えて一階のようだ。映像がそこで途切れる。

「まさかっ!!」

「降りるぞ!」

急いで階段を駆け下りる2人。オシリスの元へ2人が辿り着いた時、ゆっくりとエリック達の部屋の扉が開いた。


一階ではオシリスがメマ兵に胸ぐらを掴まれていた。

「貴様っ!何をしたか分かっているな!」

「もうこれで、お前を守る必要は無くなった。これから城へ連れて行って貴様を実験台にしてやる!!」

オシリスはメマ兵に思い切り引っ張られ、孤児院から引っ張り出される。

「オシリスさんっっ!」

飛び出してしまうディーヴァ。必死で奔り彼女の手を掴もうとする。

(とどいてっ!!)

しかし、

ガシャァァァァン

機械兵が現れ、オシリスを思い切り掴みあげる。その時、完全に思い出した。あの時ー


ガシャァァァァン

天から機械兵が降ってきて、3人の前に立ちはだかる。

「え…」

機械兵を見たディーヴァは腰を抜かして倒れてしまう。

「危ないっ!」

そんなディーヴァの横から現れたのは…オシリスだった。彼女は思い切り振り上げられた機械兵の腕に掴まれ、さらわれてしまう。

「お姉…ちゃん?」

「早く…早く逃げて…」

「でも…!」

「早く!」

「ディーヴァ、行くぞ!お姉ちゃんの助けを無駄にするな!」

「でも…」

そうだ、この時ガールムも泣きながら自分を引っ張っていってたのを思い出した。

「おねぇちゃぁぁぁぁぁぁぁん!」

そして…オシリスは彼女に手をかざし、記憶消去魔法「クリア」を彼女に唱えたのだった…


これで完全に思い出した。ディーヴァは杖を構え、城へと向けて進む機械兵を全力で追いかけた。後に続いてガールムも大斧を構え奔っていく。絶対に次は逃したりしない。もう自分は守れる強さを持っているから。ディーヴァの眼は真剣そのものだった。ガールムはその後ろ姿を見て少し安心した。今まで1人ではたどたどしかった行動も自分からできるようになっている。彼女はもう、立派な戦士だった。

北にかかる木の橋があり、ここを越えればフェニクス城がある。この木の橋より先は鉄壁の防衛線があるため、確実に死ぬ。機械兵はもうその橋の手前まで来ていた。

「っっ!!」

ディーヴァはより一層速度を上げて追いつこうとする。そしてついに、機械兵が木の橋に足をかけた。

間に合うか間に合わないか、ギリギリになってきた。ここで逃せばオシリスの命は…

(そんなの絶対に…嫌だ!)

最後の力を振り絞り、奔るディーヴァ。追われている機械兵はついに木の橋をわたりきった。

(っ!?まずいっ!!)

機械兵はオシリスを掴んでいない腕を振り上げ始めた。

(とどいてっ!!!)

彼女は呪文を唱え始める。間に合わないなら留まらせればいい。ディーヴァはついに氷魔法「ブリド」を唱え、氷塊を投げつける。

そして…

ドォォォォォォォン

地響きと共に木の橋が落ちてしまう。腕を振り下ろしたと同時に氷塊を砕いてしまった。

「うそ…」

膝から崩れ落ちるディーヴァ。そんな彼女をあざ笑うかのように機械兵は立ち去った。ディーヴァの後ろをついて来たガールムはディーヴァの状態を見て全てを察した。

「ディーヴァ…すまん…」

ガールムはそっとディーヴァを抱きしめた。

「私…守れなかった…お姉ちゃん…守れなかった…」

その言葉1つ1つから、絶望を感じた。

「ねぇ…私にとって救える命ってある…?こんな…こんな実の姉すら救えない私に…ねぇ…ガールムお兄ちゃん…私は…私は…うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

その場で号泣するディーヴァ。今のガールムには彼女を抱きしめることしかできなかった。

「大丈夫だ…大丈夫。まだお前にはやる事がある。」

ゆっくりとディーヴァの髪を撫でる。

「俺はお前のこと…良くやってると思ってる。お前は確実に成長してる。だから…」

ガールムはディーヴァをそっと離して顔を見つめ、こう言った。

「隊長からの命令だ。孤児院へ戻り、救える命を救出しろ!!!」

「!!」

その言葉にディーヴァは気付かされた。まだ、自分の能力を発揮できる。やれることをやらなければ…姉の為にも。

「行きましょう!孤児院へ!!」

「もちろんだ!!さぁ、出撃!!!」

2人は孤児院へ向けて走り出した。


2人が着いた時、孤児院は完全にメマ兵に包囲されていた。確実に並みの人間が2人なら諦めるだろう。だが…

「行くぞ!」

「はい!」

2人はその軍団に突撃していった。

「ん?何か来るぞ!」

1人のメマ兵が気づき、銃を構える。それより先にガールムの大斧が銃口を真っ二つにする。

「なっ…」

メマ兵はその速さに驚き、仰け反る。その隙を突き、ガールムは大斧の柄でメマ兵を吹き飛ばす。飛ばされたメマ兵はメマの軍団にぶつかり、ドミノ倒しの状態になる。

「まだよ!」

ガールムの後ろからディーヴァが現れ、呪文の詠唱を開始する。

「あの女、隙を見せたぞ!畳み掛けろ!」

そう言ってメマ兵はディーヴァへ向けて銃を乱射する。

「させん!」

すかさずガールムが「クリフ」を使い、ディーヴァ向けて撃たれる弾を防ぎ切る。

「くそっ!連携が上手すぎる!!」

そして、ディーヴァが目をカッと開き、呪文を放つ。

「リーフ!」

するとディーヴァの後ろから針のような葉が何本も現れる。

「飛べっ!」

その葉は目に止まらぬ速さでメマ兵目がけて飛んでいく。

「な、なんだっ!?」

その声もすぐに消されてしまい、彼らの体にはその葉が何本も突き刺さっていく。彼ら2人の力戦で孤児院の外周にいるメマ兵は殲滅できた。だが内周の機械兵まで攻めていなかった。

「早くしなきゃ!」

「おう。子供達やエリック達も残ったままだ。」

2人は一気に距離を詰める。一体の機械兵が2人に気づき、剛腕を振るう。

「はぁっ!」

ディーヴァはそれを見切り、完全に避け切る。が

「ぬぅっ!」

ガールムは少し遅れ、脛をぶつける。

「っっっっがぁぁぁぁっ!」

そのまま地面へ転げてしまう。

「お兄ちゃん!」

ディーヴァがそちらに気を取られている瞬間を機械兵は見逃さず彼女を潰そうと腕を振り上げる。

「あっ…」

ディーヴァは避けられないと判断し、手をかざし、クリフを唱えようとするが、この近さでは間に合わない。彼女はそのいちかばちかに賭け…


間に合わなかった…


機械兵の剛腕は振り下ろされ…

掴まれた。

「!?」

機械兵は自分の腕に何かあるのかを確認する。そこには地面から生えるムチのような木の枝が絡み付いていた。機械兵の腕は一切動かない。ディーヴァがゆっくり目を開ける。

「これって…」

目の前の状況を頭の中で整理し、落ち着いて周りを見てみた。すると、周りの機械兵も地面から生える木の枝によって固定され、動けなくなっていた。

「誰がこんな事を…?」

「おい…あれを見ろ…」

ガールムが足を抑えながら指を指す。その方向には孤児院の屋根の上に立っているエリックがいた。

「ご明察。俺の魔法、「ツリー」によって縛っているのさ。」

エリックは両手を屋根に勢いよくつける。すると、絡まっていた木の枝がより一層締め付ける力を増し、ついに機械兵を押しつぶす。

バリィィィィン!という豪快な音と共に鉄屑が辺りに散らばる。

「キャッ!」

ディーヴァの目の前の機械兵も砕け、咄嗟に鉄屑から身を守るディーヴァ。エリックは屋根の下、孤児院の玄関で扉を叩いているメマ兵に目を落とす。

「おい!開けろ!!中にいるマウィ族は皆殺しだ!」

すると扉がバァン!と思い切り開かれる。メマ兵は扉に顔を当て、ひっくり返ってしまう。そして、中からはマキナが出てきた。

「なっ!?なぜメマの者がここに!?」

するとマキナはニヤリと笑い、

「クーデターさ。」

そう言って懐からディーヴァがオシリスから貰った宝石を取り出す。

「すうぅぅぅ…」

ゆっくりと息を吸い込むマキナ。ようやくメマ兵が立ち上がり、短剣を振るうが…

「ウィンド!」

マキナの掛け声と共に突風が吹き荒れ、メマ兵を吹き飛ばす。

「流石だな!マキナ!」

そう言いながらマキナの横に着地するエリック。その2人目がけて残りのメマ兵が突撃してくる。

「よし、マキナ。合わせろ。」

「任せてください。」

エリックは手を、マキナは宝石をかざし、呪文を詠唱する。メマ兵が銃を乱射しながら突撃するが、1つも当たらない。実はディーヴァとガールムで2人の前にクリフのガードを張っているからだ。

〈合体魔法『デュアルマジック』〉

2人は声を合わせ、呪文を読み上げる。

〈ボルテックス・インパクト〉

すると彼らの後ろから渦を巻いた風の塊が多くの尖った葉を風力で飛ばしながら現れた。その風の塊はメマの軍団目がけて加速し、ぶつかっていく。その風に巻き込まれたメマ兵は成すすべなく飛ばされていく。

「っ!退却だ!逃げろ!」

残ったメマ兵は大型飛行機に乗り、フェニクス城へと戻っていく。

「エリック!」

ガールムとディーヴァが2人の元へ駆け寄っていく。

「なぜ、マキナが魔法を?」

ディーヴァが首を傾げながら問いかける。

「あぁ、それはな…」

エリックがマキナの手にある宝石に親指を指す。

「この宝石のおかげなんだ。」

「え?」

「いや、実は…」

そう言ってマキナはさっきあった出来事を話した。


「エリックさんに折り入って頼みがあります。」

いつになく真剣な眼差しにエリックは戸惑った。

「ん?どうした?」

「僕に魔法を教えてください!」

彼の願いは唐突だった。

「え!?でも、魔法石でもない限り無理だぞ?」

「そ…そうですよね…」

「でも、魔法の基本的な詠唱の仕方なら教えてやるよ。そこさえ覚えてればあとは魔法石だけだからな。」

エリックがグッジョブサインを送る。

「ほんとですか!?ありがとうございます!!」


「てなわけなんだわ。」

「はい。それで2人の部屋にあったのを拝借しました。これ、お返しします。」

ディーヴァはマキナから宝石を受け取った。この宝石がオシリスから貰ったものと意識するディーヴァの胸はチクリと痛んだ。

「で、そっちはどうだった?」

ディーヴァの顔を見て察したのかエリックが先ほどとは違う少し険しい顔で話し始める。

「オシリスさんは…私のお姉ちゃんでした。それに気づいて…」

ディーヴァは途切れ途切れに先ほど起きた出来事を話した。3人は黙ってディーヴァの話を聞いていた。

「…それで今に至ります。」

ディーヴァは話している途中、泣きそうになる自分を必死に抑えているつもりだった。

既にディーヴァの頰には涙が伝い、零れ落ちていた。

「私…私…」

必死に感情を抑えてるつもりだった。

彼女は膝から崩れ落ち、自分の顔を手で覆っていた。エリックはディーヴァに近づき、そっと彼女の頭を抱きかかえた。

「そうか…よく頑張ったな…お疲れ様…」

彼の声は優しく彼女の心を包み込む。ディーヴァは全ての感情を涙に変えてエリックの胸に放った。


一夜明けてー

「ここの孤児院は僕に任せてください。子供達とは面識がありますし、ある程度のことはできます。」

「そうか。頼んだぞ。」

エリックはマキナに孤児院を任せ、南へと出発する。南の橋を渡り、メマの根城、フェニクス城を攻めに行く事を決意したからだ。

「行くぞ。もう、オシリスのような犠牲を出さない為に…」

ガールムが先頭に立ちそう言った。彼の声は信念そのものだった。

「あぁ。」

「はい。」

2人は固く決心したように返事を返した。3人はこれからの戦いが更に過激化して行くのを確信しながら歩みを進めていく…

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