第一章 火の神殿へと
マウィ族は命からがら逃げてきたが、大きな拠点がなく困っていた。彼らヴォルケーノはここから近い火の神殿へ向かう事を決めた。
「火の神殿ならスサノオがいるはずだ。」
そう語る彼は、エリック・ホロウ。一番初めに声を上げた少年だ。彼はヴォルケーノのエースで、槍を使う戦士だ。
マウィ族は彼らの指示に従い、火の神殿へと移動する。
「我らもあそこを拠点とできれば……」
「ようやく落ち着ける……」
マウィ族の人々はボソボソと後ろで話していた。
「少し浮き足立っているようだな。」
ちらりと後ろを見ながら呟く彼はガールム・ツバーンと言う。彼はこのヴォルケーノのリーダーで大斧を使うガタイのいい男性だ。
「ま、仕方ないだろ?いきなりあんなことがあったんだ。落ち着きたい時もあるさ。」
エリックが笑う。その後ろから女子が出てくる。
彼女はディーヴァ・クレセントと言い、回復魔法を使う、物腰の柔らかい、おっとりとした女の子だ。ガールムのいとこでもある。
「ですが、可能性として先にメマ族が攻めているかも知れません。その場合、制圧するより他ありませんが……」
そう言って彼女は2人の後ろに隠れてしまった。
「相変わらず、お前は恥ずかしがり屋だなぁ。」
エリックが笑う。ガールムもディーヴァの行動を見て笑ってしまった。
「な、なんですかぁ」
彼女は顔を紅くしながら2人を覗いた。
「ハハハ、ごめんごめん。」
そう言ってエリックはディーヴァの頭をぽん、とした。ディーヴァの顔はもっと紅くなった。
「おい」
ガールムが全体を止める。エリックとディーヴァは前を向いた。
「あれは……」
目の前には火の神殿がある。が、そこにはメマ兵が陣取っていた。
「やはり先に制圧されてたか……」
エリックは唇を噛む。
「どうする?」
横にいるガールムに耳打ちする。
「やるぞ、急襲だ。」
ディーヴァはマウィ族を避難させ、エリックとガールムは物陰に隠れた。二人はじっと火の神殿を見つめている。彼らが武器を下ろし、警戒を少し緩める。その隙をつき、二人は武器を構えて飛び出す。メマ兵はそれに気づき、武器を構え直すが遅い。二人はメマ兵をなぎ倒していく。一人、二人、三人と二人は息もつかせぬ速さで動いていく。あっという間にメマ兵はいなくなった。二人が倒したのもあるが、混乱に乗じて火の神殿の中へと逃げてしまった。
「チッ、追うぞ。」
二人が火の神殿へ入ろうとする。と、
「まってください。」
後ろから二人を呼び止める者がいた。
「俺達も連れていってください!」
見るとメマの民が武装しているではないか。
「俺達も見てるだけじゃ嫌です。」
「お前ら……」
ガールムは志願している者を見渡し、
「足手まといになるような者は不用!自らで付いてくる自身のある者のみ共に来い!」
彼の声に対し、うおぉぉぉぉ!と、鬨の声が上がる。
「流石ガールム……」
「彼の統率力はすごいですよね……」
後ろから見ていたエリックとディーヴァはしみじみと感心していた。
「エリック、ディーヴァ、行くぞ。」
二人は頷き、ガールムを先頭に火の神殿へと入っていく。
中は暑かった。しかし、外と比べると暑い程度で、別段違和感を感じるほどの温度差ではなかったが、エリックはそこに違和感を感じた。
「まずいぞ……」
奥まで進んでも温度は変わらない。いつもなら徐々に熱くなるはずだ。いつもなら噴き上げるマグマも最早固まりかけていた。
「触れられる程の温度ですね……」
「思わしくない状況だな……」
ガールムはディーヴァの触れたマグマの状況を見て言う。
「この神殿の主、スサノオ殿に何かあったか……」
「もしかしてスサノオさんは……」
「それは無いな。」
エリックがきっぱり言う。
「外気温よりも高い温度、固まりかけの熱を持つマグマ。多分弱ってるだけでまだ最悪の可能性はないと思う。」
エリックは最深部を見る。
「行こう。最悪の状況になる前に。」
皆は頷き、最深部へ向けて移動を開始した。
最深部へ着いた一行はそこでとても現実とは思い難い状況に息を飲んだ。
両腕を鎖に繋がれ、体には多くの傷。首は力なくうなだれるように下を向き、目は閉じられている人がいた。三人は彼の元へ寄っていく。
「スサノオ!スサノオ!」
呼びかけられた彼はゆっくり目を開けて首を上げる。
「おぉ……お主らか……」
彼は三人に痛々しい顔で笑いかける。
「ここは……危険だ……メマ族に……やられるぞ……」
ゴフッと血を吐き、またうなだれるように首を下ろすスサノオ。その姿を見て膝をつくエリック。最早メマの侵攻は著しく、取り返すとは言い難い惨状だった。その姿を見たメマ兵が天井からエリックに飛びつく。
「エリック!上だ!」
ガールムが言うも遅い。メマ兵は武器を構え、エリックに向かって一直線に落ちていく。
エリックは無抵抗でそれを受ける
訳ではなく、それを槍の柄でたたき落とした。叩き落とされたメマ兵は床に転がり落ちる。それを見て、エリックは立ち上がる。
「気づいてるんだよ、そんな事。」
冷ややかな目でメマ兵を見る。彼はその目のまま、メマ兵を槍で刺した。そして彼は目線をディーヴァへと向ける。その目は冷たい目ではなく、戦士の目をしている。
「ディーヴァ、スサノオを頼む。」
「は……はいっ!」
ディーヴァは慌てて返事を返す。ディーヴァはスサノオの元へ行き、回復魔法「リカバ」を唱える。エリックは次にガールムとマウィ兵士に目を向ける。
「やるぞ。この神殿からメマ族を追い出す。」
全員が頷き、武器を構える。それを見てエリックは声を上げた。
「来るがいい、メマ兵よ!我らマウィ族の特殊部隊、ヴォルケーノはここぞ!」
その声を聞いたメマ兵が続々と現れた。
「来たな……」
彼は迫り来るメマ兵に向けててをかざす。
「ヒート!」
彼の掛け声と共に手から炎が生み出される。
「うわぁぁぁぁ!」
メマ兵の何人かが焼かれ、戦意を失っていく。それを皮切りに攻撃を開始するヴォルケーノ。兵力はお互いほぼ同じで、戦場は拮抗していた。このいつまでも決着のつかない状況が時間稼ぎになり、スサノオの傷が完治した。
「ありがとう、我はもう大丈夫だ。」
スサノオは自らの力で腕の鎖をちぎり、手をクロスさせる。
「うおおおおおおおおおおお!!」
雄叫びと共に彼の身体が光り、ドラゴンの姿へと変化する。変身しきった彼の咆哮と共に神殿内の温度が急速に上がり、マグマが噴き上げ始めた。
「消えよ!メマの愚民共!」
スサノオの復活により、マウィ族の魔力がぐんぐん上がっていく。徐々に戦況がマウィ族の方へと傾いていく。
「押し切るぞ!」
ガールムが全体に鼓舞をうち、勢いと共に押し込んでいく。ディーヴァは怪我人をすぐに回復させ、戦線へと戻す。
「いっけぇぇぇぇ!」
エリックが最後の一人を倒し、火の神殿を完全に制圧した。
「よっしゃぁ!」
エリックが拳を上げる。それに続き、兵士も勝利の雄叫びを上げる。
「おい、まだ最初の段階だ。気を緩めるなよ。」
ガールムが場を静める。
「しかし、この勝利は事実。皆、よくやった。ゆっくり休んでくれ。」
ガールムが優しく笑う。マウィ族の人々はまた、ざわめき始めた。
「ところで、スサノオ殿。」
ガールムは振り返り、スサノオの方を向く。
「戦えないマウィ族の者を保護しておいてほしい。我々と共に行動させるのはあまりに危険なのでな……」
「良かろう。マウィの生命は我の生命だ。」
スサノオは快く引き受けてくれた。
「さて、俺らはどーする?」
エリックが問う。
「そうだな……北の風の神殿へ向かい、戦力を補強するか?」
「それは難しいかと……」
ディーヴァが恐る恐る言う。
「あそこはここよりもフェニックス城に近いので、とっくに制圧されてるでしょう。それと、やはり近いので戦力も高く、補充も容易いでしょう。今の私たちの戦力では敵いません。」
それを聞き、唸るガールム。それを見て慌ててディーヴァが続ける。
「で、でも!東の山の砦に向かえば、そこに囮になったマウィの人々がいるので、そこへ向かって救出する作戦はどうでしょう?」
「そうだな、それがいい。」
エリックも同意し、軍備を整え、橋を越えたところにある、山の砦へと向かった。