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嫌われ家庭教師のチート魔術講座 ~ 前日譚 ~  作者: 延野正行
メゾン・ド・セレマの住人たち
7/13

第6話 エメス誘拐事件(前編)

第6話(前編)です。

よろしくお願いします。

 話の始まりは、おれの部屋からだった。



「オねがイノぎガ アリマス。カオス さま」


 丁寧に三つ指をつき、頭を下げたのはエメスだった。


 横で、家賃の取り立てに来たミライが、おれの胸倉を掴んだがまま固まっている。

 パチパチと2回瞬きをした。


 おれにもさっぱり状況が掴めない。


 そして、名前間違ってるってか、「お願いの儀」とかいわれたら、完璧を魔王みたいじゃないか。


「どうしたの、エメスちゃん? 台所のGに頭は下げても、こんな甲斐性なしのグータラ馬鹿に頭なんか下げたらダメだよ」


 おい!

 おれはG以下か!!


「そのことはともかくとして――。どうしたんだ、三つ指なんてついて。とうとうミライをお嫁さんとしてもらう気になったのか?」

「ナ! ミライヲオよめニモラウタメニハ、カオスさまノりょうかいガヒツヨウナノデスカ?」

「ちょ! カルマぁ! 変なことをエメスちゃんに吹き込まないでよ」

「とうろくシマシタ」


 エメスの紫の瞳が光る。


 ミライ曰く――。

 チュー事件の後のエメスの目が、野獣のようだという。


 どうやら密かにキスを狙っているらしい……。


「いつでももらっていってもいいからな」

「とうろくシマシタ。デハ、ミライ……。ちかイノきすヲ」

「ちょっと! エメス――むぐぅううう!」


 魔術学校に通う女の子ミライと、魔導の髄を結して作られたゴーレムのエメス。


 2人の恋の行方はこうしてハッピーエンドを迎えたのです。


 めでたし。めでたし。


「なに変なモノローグをつけてるの! カルマ!」

「良いじゃねぇか。幸い、エメスは可愛いし」

「そういう問題じゃ――」

「ミライ、マダタリマセン」

「ふぇ……」


 少女たちはおれの目の前で、熱いキスを交わすのであった。



 閑話休題――。



「ところで、おれに用事があったんじゃないのか?」

「ハ! メモリーヲしょうきょスルトコロデシタ」


 お前、ゴーレムなんだからメモリーとかいうなよ。


 ちなみにミライは部屋の隅で三角座りし「3回も唇を奪われた」「お嫁にいけない」と1人ぶつぶつと呟いている。


 大丈夫。お前にはエメスがいる。


「コチラヲ」


 ゴーレムの少女が取り出したのは、タブレット端末だった。


「お前、タブレットなんて持ってるのかよ」

「そだいゴミデすテラレテイタノヲ、わたしガしゅうりシマシタ」

「なんでも有りだな」


 ところでタブレットって粗大ゴミに捨てていいんだっけ?


 エメスはタブレットを操作し、インターネットにアクセスする。


 メゾン・ド・セレマは建物こそ古いが、全室でwifiが使える。

 魔術師の国の中にあるとは思えないネット環境の良さだ。


 エメスは画像付きのページを開き、おれに見せる。


「自動人形の盗難事件?」

「ハイ。ココさいきん、ひんぱつシテイルせっとうじけんデス」

「ああ。テレビでやっているのを聞いたことあるよ」


 復活したミライはタブレットを覗き見る。


「で? これとおれの頼み事とは?」

「ドウカ カオスさま、コノはんにんヲツカマエルタメ、オちから ヲ オかシクダサイ」

「お力をお貸しくださいっていわれても……。【ノア】にも警察はいるんだから、任せておけばそのうち――」


 と言うと、エメスはおもむろに自分の薄い胸に手を置いた。


「わたしノ『おとめかいろ』ガうずクノデス」

「乙女回路?」

「ネットじょうほうカラ、わたしガめいめいシマシタ」

「心みたいなものか?」


 エメスは真剣な表情で頷いた。


 ゴーレムに心か……。


「どうほうタチガ ぬすマレルノヲ キクタビ、わたしノ おとめかいろハ きずツクノデス」

「仲間が犯罪に巻き込まれるのを見てられない。だから、自分が解決したいっていうんだな?」

「ソウシロト ささやクノデス。わたしノ ゴースト ガ」

「ゴースト?」

「ネットじょうほうデス」

「しかし……。気持ちはわかるが、逆に言えばお前だって狙われるかもしれないんだぞ」

「そうだよ。危ないよ、エメスちゃん! 警察に任せた方がいいよ」


 おれは少し考えていた。


 前にエメスに入り込んだ【呪創じゅそう】。


 そして今回の窃盗事件。


 関連性がないとは言い難い。


 だから気にはなるのだが、今ここで下手に動いて、エメスを盗まれる方がもっとヤバい。


「ワカリマシタ。フィアンセ ノ ミライガ イウナラ」

「えっと……。私、エメスちゃんのお嫁さんじゃないからね」


 たははは……。苦笑する。


「デハ、わたしハ ハキそうじニモドリマス」

「気を付けるんだぞ」


 エメスはおれの部屋を出ていった。


「大丈夫かな?」

「まあ、こっちが動かなければ、こんな【ノア】の田舎の地区にはこないさ」

「だといいんだけど……」


 と、その時……。


 キッキィイイイイイイイイ!!


 激しいスキール音が聞こえた。


 何事だ、と思い、おれはミライとともに外に出る。


 メゾン・ド・セレマの前に大きなバンが止まっていた。

 同じく2人の男が今まさに、エメスを担いでバンの中に押し込もうとしていた。


 何故か、エメスは動かない。


 その瞼は閉じられていた。


 何かされたのかもしれない。


「エメスちゃん!」


 ミライが叫ぶ。


 男たちはこちらに気付いた。


「急げ!」

「あ! おい! 待て!」


 慌てて追ったが、バンはドアを閉め切らないまま発車した。


 エンジンを吹かし、風のように走り去っていく。

 遠くの方で、ブレーキ音が聞こえた。


「ああ! どうしよう! カルマ! えっと110番って、何番だっけ」


 パニックったミライは頭を抱える。


「落ち着け、ミライ」

「で、でもぉ……」

「あと、それと警察には電話するな」

「え?」

「エメスはおれが必ず取り返す」

「カルマが?」

「ここはおれを信じろ」


 少し戸惑いつつも、ミライは頷いた。




 エメスがいつも使っている竹箒に、女性はふんふんと鼻で匂いを嗅いだ。


 白髪の女性の頭には、狼を思わせるような耳。お尻には大きな尻尾が垂れ下がっている。


「夜狼さん、ごめんね。お仕事中だったのに」

「大丈夫よ、ミライちゃん。メゾン・ド・セレマの住人がピンチなんですもの。お仕事よりもこっちの方が大事だわ」


 ミライの赤毛頭をなでなでする。


 夜狼さんから借りた携帯で、電話をしていたカルマは話を終えると、2人に近づいてくる。


「すまねぇなあ、夜狼さん」

「気にすることはないわよ。事情はだいたい理解したけど、警察が先にエメスちゃんを見つけたらどうするの?」


 エメスはただのゴーレムじゃないことは明白だ。


 拾ったとはいえ、そんなヤバい代物をメゾン・ド・セレマが保管していたと聞けば、ちょっと厄介なことになる。


 それに、彼女は【ノア(おかみ)】に渡してはいけないような気がする。


 エメス風に言えば――。


 そう、おれのゴーストが囁くのだ。


「大丈夫だ。ちょっと裏に手を回した」

「あらあらまあまあ……。カルマちゃんって、そんなことが出来たの?」

「ちょっとしたつて(ヽヽ)があってな。それよりも追えそうか? 夜狼さん」

「ふふん……。獣人の鼻をなめてもらっては困るわね」


 得意げに鼻の辺りを擦った。


「エメスちゃん、見つかるの?」

「ええ……。安心して待っててね」

「……うん」


 本当は自分も探しに行きたいのだろう。


 ミライは少し申し訳なさそうに俯き、やがて頷いた。


「行きましょうか。カルマくん」

「おう」


 おれと夜狼さんは走り出した。


 【ノア】の空は茜色に染まり始めていた。




「ここか。夜狼さん?」

「間違いねぇ。ここにエメスはいる」


 色々と遠回りした挙げ句、おれたちが辿り着いたのは古い魔術工房だった。


 どうやら【ノア】の中を周回するようにあちこち走り回ったらしい。


 空には夜の帳が折り、夜狼さんも夜verになっている。

 おかげで、1から事情を説明しなければならなかった。


 一応、エメスが装着しているカチューシャを持ってきておいて良かった。


 魔術工房の門扉は固く閉ざされている。

 明かりは落とされ、人の気配はない。


「あ。あのバンだ」


 工房の端の茂みに隠れるようにして、エメスをさらったバンが止められていた。


「間違いねぇようだな」


 拳と拳を打ち付ける夜狼さん。


 戦闘態勢ばっちりといったところだ。


「出来るだけ荒事はさけろよ。夜狼さん」

「この前、久しぶりに派手にバトッたもんだからよ。腕がずっと暴れてぇってうずうずしてるんだ」


 夜狼さんはニィと一際大きな犬歯を見せる。

 おら、わくわくするぞ、といった時のバトル物の主人公を思わせた。


 おれには祈ることしか出来なかった。


「とりあえず入るか」

「あ、ちょ――」


 ひょい、と跳躍し、夜狼さんは敷地内に入る。


 あちゃー……。


 おれは頭を抱えた。


 工房の周りには結界が張ってある。

 おそらく……。よほどマヌケでなければ、結界を張った魔術師はおれたちに気付いただろう。


 まあ、いい……。


 どうせ結界に関知されないように入る術は、おれにも夜狼さんにもない。


「どうした?」


 先に門をくぐった夜狼さんが振り返る。


「今、行きます」


 おれも門を飛び越え、敷地に侵入した。




 盛大な音を立てて、夜狼さんは工房の入口をすっ飛ばした。


 おれはたしなめることはしない。


 どうせもう気付かれているのだ。


人気ひとけがねぇなあ……」


 工房の中は真っ暗で、明かりもついていない。


 だが――。


「夜狼さん、これ……」


 足元に光を当てる。


 複数の人の足跡があった。まだ新しい。


「これを追っていけばいいな」

「ああ……」


 足跡を追って辿り着いた先は、壁だった。


「隠し部屋だな。どっかにスイッチが……」

「めんどくせぇ」

「へっ?」


 パンチ1発。


 壁が崩れ、その先にさらに廊下が現れた。


 この人は(しのぶ)ということを知らないのか……。


「おら。どうした、カルマ?」

「はいはい。今、行きます」


 再びおれたちは走り出した。


Twitterにてハッシュタグ『嫌われ家庭教師の裏話』を呟いています。

もし気になる方は検索してみてください。


続きは今夜21時に投稿します。

しばらくお待ち下さい。



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