また逢おう。
いつものように、びしょ濡れで。
いつものように、いじめられて。
いつものように、私の家に向かう。
帰ったって父さんも母さんもいない。父さんは病死、母さんは事故死。相談する人もいない。さぁ、私も母さんたちの後を追って死んでしまおうか? その気になれば、いつでも死ぬ勇気はできているんだぁ・・・。
ばいばい、私の育った町。
ばいばい、いつもの風景。
飛び降りがいいかな? リストカット? 何でもいい。自分の存在が憎い。もしかしたら私、生まれてこなければ良かった人間なのかな?
「わあ、高い・・・」
私の住んでいるマンションの屋上。そこに私は、しらずしらずのうちに来ていた。風が冷たい。もう多分、私の目は死んでる。きっと、死ぬのが怖くないんだ。私はフェンスに手をかけ、飛び降りる準備をした。そして、手をフェンスから離し、飛び降りた。
「あはははははははは、私が死んでも、悲しむ人なんていない。あははははは!」
私は狂ったように叫びながら下に落ちていった。風が冷たい。からだが痛い。でもこれで、全部終わりに出来る! 私の受けた悲しみ、痛み、苦しみが全て無くなる! いいことだ、いいことだよ。もう少しで地面。死ねる、死ねる! 待っててね、父さん、母さん。今、向かう途中だよ――――。
ぼふっ!
私は地面にあたっていなかった。痛くない。男の人が私を、支えている?
「あぶねっ、なんだ、自殺か?」
「だぁれ? 私の天国への道をふさいだのは・・・」
私は男をにらんだ。もう少しだったのに。あと少しで逝けたのに!
「私は死ぬ覚悟はいつでも出来てる。邪魔を・・・しないで」
「はぁ? 狂ってるのか、あんた。死ぬなんて簡単に、言うなよ」
なんで、そんなことを言うの? あなたには関係ない話。首を・・・突っ込まないでくれるかな?
「あなたには、関係の無いこと」
「いじめ・・・?」
「そう。いじめ」
平凡そうなあなたには考え付かないことでしょう? どうせ、ふ〜ん、あっそ。ぐらいしか言わないで行ってしまうんでしょう、あんた。
「オレも・・・いじめにあってたよ」
「・・・?」
こんな平凡そうな男がいじめにあってた? 私と同じように・・・。
「オレ、いつもチャットで励ましてもらってた。たまにメッセージくれたり、メールくれたり。でも、ある日そいつが、急にチャットに来なくなった。暇だったからテレビをつけてみた。そしたら・・・」
「そ、そしたら・・・?」
私はいつのまにか男の話を懸命に聞いた。
「そいつが・・・殺されたんだよ!!」
・・・え? コロサレタ? 自然に男の瞳からきれいな涙がぽろぽろとこぼれた。そのことに気づいた男は、涙をぬぐった。
「・・・泣いていいよ」
「はっ?」
「泣いていいってば! 思いっきり、今だけだよ?」
「・・・ありがとな」
私は男をぎゅぅっと抱きしめた。男も私をぎゅうっと抱きしめた。男はわぁーっと泣き出した。まるで、小さい子供みたい。
男が泣いてから少し経った。いつのまにか男は泣き止んでいた。
「・・・ごめん」
「いいの、いいの! あぁ、今考えると私のしようとしてたことは、ばかっぽいなぁ」
「もうこれから、死ぬ、自殺、とかは言うなよ。いいな」
「うん」
「あと、またお前のとこで泣いていいか?」
「うん」
「さんきゅ」
本当に、バカだったな、私のやろうとしてたこと。もう、死なない。今考えて見えてみれば、結構いい世の中だったかもね。
こんなにも風が気持ちいいのに。
こんなにも優しい人が存在するのに。
また泣いていいよ。あんたに逢えるなら、いつでもいい。命の大切さ、生きることの楽しさを教えてくれて、命の恩人だもん。
あしたでも、あさってでも、何年後でもいい。ずっと待ってます。またここで、逢おうね。