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ヘンゼルとグレーテルのその後

今回は少し暗い話になるのでこれまでのコメディやほんわかした雰囲気が好きな方は閲覧注意。短めです

 ヘンゼルとグレーテルは途方に暮れた。

 彼ら兄妹にとって途方に暮れたのは三度目になる。


 一度目は捨てられた時だ。

 頭では理解していた。口減らしが必要なことも、我が家がもう厳しかったことも。

 感情が受け入れるのには少しばかり時間差があったのだ。

 一度石をおいて戻ってみて確認したのだが、現実は変わらなかった。

 自分たちは捨てられたのだ、と。それでも兄は妹を絶望させたくなかった。

 だから二度目はパンをちぎって捨てていった。

 だから二度と家には戻れなくなった。


 二度目は魔女の老婆を殺したときだ。正直に言うならば彼らにとって魔女にとらえられた時よりも、殺したときの方が呆然とした。

 何故かと問われれば、二人は森の奥に捨てられた時点で死を覚悟してしまっていたからだ。

 お菓子の家を見つけても、結局は死ぬのだと心のどこかで理解していたからだ。

 老婆にとらわれてからはゆっくりと立場を理解したため、焦りはあれども呆けることはなかった。どちらにせよ生気のない目であったに違いない。

 それよりも、食われるから、殺されるからと人を殺したことを割り切れるほどに二人は人の生死に深く関わってはこなかったし、悪意にまみれた生活もしていなかった。両親は捨てる段階にあっても二人への愛を失ってはいなかったし、魔女に食われると言われた時がようやく悪意にさらされた時だった。

 そんな二人にとって人の命を奪う行為は後味悪く、そして取り返しのつかない罪であった。見殺しといった間接的なものではない。確かに殺意をもって手にかけたのだ。


 そして三度目は、今の現状全てである。

 少し考えれば予想できたことだ。

 日々の食事に困窮する両親が、子供二人の食い扶持を減らしたからといって生き残れるとは限らないことは。

 父親は二人が出て行ったすぐ後に死んだという。

 母親はつい先日、雷にうたれて死んだという。

 長く暮らした家はもう住める状態にはない。


 そして今に至る。両手いっぱいに魔女がためこんだ宝石などを抱えて森の中のお菓子の家に戻る。だがそこでも厳しい現実はなおそびえ立つ。

 かつてはクッキー、チョコレートと豪華絢爛な洋菓子の全てを使いつくすようにしてできた夢のような家だった。文字通り"だった"のだ。


 お菓子の家は腐りはじめていたのだ。


 少し考えればわかったことだ。現実にお菓子の家に住めるはずもない。魔女の魔法で維持されていただけだったのだ。魔女を殺したことで魔法は跡形もなく消え去り、お菓子の家を維持するために使われていたものも同様だった。時間とともに劣化し、滅びを迎えるだけの菓子の塊をどうこうする力は持ち合わせていなかった。


 だが彼らは逞しかった。

 親から捨てられても戻ってみたり森の中のお菓子の家に喜んでみたり、魔女とらえられても魔女を殺してでてきたり。

 現実から目を背けていたとも言える。だが彼らは途方に暮れただけで、泣くこともせず再び立ち上がる。楽観的とも言えようか。


「まずは家を建てるか」

「そうね、お兄ちゃん」


 彼らは魔女の家から人を調理するためのノコギリを探すことから始めた。


 

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