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テンプレ転生物のプロローグ

これが物語として続くならば、コメディーとして読むことのできる、しかしながら性質はエッセイ風味の、だがファンタジーのプロローグとして分類される

 

 気がつけば真っ白な空間にいた。


 それだけの説明から何が起こったか正確に察することができるという怪しげな人間もいると聞いたことがある気もするが、俺はあいにくと、とても普通で平凡な一般高校生であるからして、この状況を察することができるはずもない。

 だが目の前に老人までいれば、多少はなんとなくだが幾つかの候補は浮かぶ。

 すると自分がトラックによって撥ねられたという実にありふれた死に方をしてしまったという記憶もぼんやりと浮かんでこようというものだ。


「すまぬ……お主が死んだのはわしのミスじゃ」


 うわぁ……絶対これ、神様とかいうやつじゃあねえの?

 でも実際に神様とか言われると実に残念だな。と、いうことは。


「なんだってぇぇぇぇっ!!!! くそぅ! どうしてだよ! ついさっきまで元気に登校してたじゃねえかよ! 毎日うまい飯食って! 今日も平凡で平和な日常を送る予定だったのに! どうして! 俺じゃなくてもよかったじゃねえか! ミス? ふざけんな! うわぁぁぁっ!!!」


 思いっきり取り乱した──────


「何をふざけておるのだ。確かにわしは悪かったが、お主も別に慌てておらんじゃないか」


 ──────フリをした。


 が、この神様にはどうやら俺の心の中が読めているようで、そのフリも全然通じなかった。非常に残念だ。

 

「どうしてそんなことをするんじゃ」


 神様を名乗る老人には俺の複雑な純情というものは理解できないようで、これだから持ってる奴ってのは嫌なんだ。


「ええい! ごちゃごちゃ言っとらんとさっさと話せ!」


 言ってないし。それとさっきまでの殊勝な態度はなんだったんだよ。


「いや、あのですね。私の現世にもそういう考えというか、そういう説があるのは知ってたわけですよ」


 ほうほう、とわざとらしい相打ちを打つ。と思っているのが伝わってこめかみに青筋が浮かぶ。

 ただでさえ老い先短そうな出で立ちなんだから落ち着こうぜ。


「お主ほど内心と外面の印象が変わる奴も珍しいの」


 皮肉をたっぷり込めて、怒りを押し殺すように言った。


「いえいえ。それで、神様のミスによって殺された人間がその償いとして記憶を持ったまま異能を授かったりして異世界に転生する物語ってのが一部で流行っていたわけです」


 そうだな。表では敬語を使っているけれど、内心ではこんなタメ語だもんな。怒っても仕方ないよな。

 おじいさんはもうつっこむのを諦めたようだ。俺のボケ勝ちというやつか。


「でもそういうのって、連れてこられた人間の反応がよく似ていると言われるわけですよ。『逆上して現世に戻せという奴が多い中、お主は冷静だな、普通は死んだことに錯乱する奴も多いのだが。なかなか見所があるな』とかね」


 形式美おやくそくというやつだ。

 みんなが慌てるような異常事態にも冷静に対応できますよーってな。

 でも普通は死んだことをそんなあっさり受け入れて逆上するやつの方が少ないんじゃね?と思うわけです。まあもしかしたら中二的な発想なのかもしれないけれど。


 まあもう少し細かく分けると三つに分かれるわけだ。

 死んだことに怒るが、チートを貰って転生できるならば別にいいか、と落ち着く奴。

 すでに事態を理解し、それに対して酷く喜ぶタイプの奴。

 そして冷静に事態を受け止め、そういうことなら、と神様の言うとおり素直に転生していくやつ。


「ほほう。そんな傾向があるのか」


 白々しい。お前、もしかして今までにも二、三人殺してないだろうな?


「こ、殺しておらんわ! 今回が初めてじゃ!」


 ジジイの初めてなんざ貰っても嬉しくないわ。


「で、怒っとらんのか?」

「人間、誰もがいつかは死にますよ。それがたまたまその日だっただけで。神が間違えようが正しかろうが多分それも含めて運命なんですよ」


 死んでしまったものは仕方が無い、というやつだ。その点では俺は三番目に分類されかねないのかもしれない。


「悟りすぎじゃろ。ということは転生するというお詫びを受け取ってくれるのじゃな?」

「いえ? 別に?」

「え?」


 いつ転生するって言ったんだよ。


「な、なんなら能力だって付けて構わん。何がほしい? いってみよ」


 こういうのって、大抵が「あまり強すぎるのは……」とか言いながら想像を絶するような最強能力を持っていくんだよな。


「だから転生しませんって」

「どうしてじゃ? お主も男なら剣と魔法の世界で無双してみたいとか思わんのか?」

「ええ。思います。胸ドキドキのドラマチック爆発寸前ですね」

「……そんな棒読みで言われて信じられるかい」


 まあ嘘ですからね。


「何が望みじゃ? 転生先か? 魔法適性か? それともステータスか?」

「だからね。私は物語にただ単に参加するのは面白くないんですよ。強い力は頼られ、利用される。所詮世界の中でどう足掻こうと唯一無二の絶対にはなれないんです」


 とてつもなく中二病だとは理解しているが、それでもここまで来たのだから言わずにはいられなかった。


「訂正じゃ。お主は相当頭がイっておる。ここに連れてくるより先に精神病院に行けばよかったの」

「馬鹿は死ななきゃ治らない、と言いますがどうやら治らなかったようです。よかったですね。たった一人の命で死後にまつわる諺が嘘であることを証明できましたよ」


 神様が頭を抑えた。どうしたんだろうか、脳内出血だろうか。なんにせよ体は大切にな。あるかどうかはわからないけど。


「失礼な奴め。わしが頭が痛いのは全部お主のせいじゃよ」

「それはよかった」

「どっちの意味じゃ……もうわしにはお主の心が読めているのに本心がわからん」


 まあ心で思うことはだいたい脳内で俺の声で再生されてますからね。

 こうして思っていることも知られることを前提として思っているわけで。

 あれだろうか。心を読むの深さについて、その場の表面上だけ思っていることを読むだけならば、読まれることが予想されていると無駄になるというお手本というやつか。

 逆に潜在意識まで読み取られると、戦闘で役には立ちにくいが、とても有利に生きられそうだな。


「ああ。もうお主は考えることをやめたらどうじゃ」

「何をおっしゃる。人間とは考える葦にすぎないとはかの有名な哲学者のお言葉ですよ。考えることを放棄したとき、人は人であることをやめるのです」

「もっともらしいことを言っておるが、屁理屈でわしを悩ませたいだけじゃろ」

「ええもちろん」


 一拍開けて、落ち着きを取り戻した神様とやらが言った。


「ええい。なりふり構っていられるかい。なんの能力が欲しい?」

「え? じゃあありとあらゆる世界の物語に干渉できるように神様、つまりはあなたと似たような存在になる能力をください」


 そうすれば、自分の分身を記憶をなくして魂として現世に下ろすことで、擬似的人生を楽しむこともできるし、飽きればすぐに引き戻せばいい。どんな物語にも適当なことをらいって介入できるし、一石二鳥だな。


「それはできん」


 自分の能力と同じ能力というのはできないらしい。


 それから、神による、たった一人の男を転生させるための説得という名の戦いの日々が始まった。

転生するまでに十話というとてつもなく冗長な物語。そんなのはまず読者がつかない?いえいえそんなに続きません。あくまで一話完結の童話ですので。

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