プロローグ
『それ』を見つけたのは五歳の頃、田舎住まいの母方の祖父の家に遊びに行った時だった。
当時の俺は自分で言っては何だがやんちゃで、好奇心の塊だったように思う。
まぁ子供なんて、そんなものだと言ってしまえばそれまでだけど。
祖父の家には自宅とは別に物置となっている蔵があり、その蔵の鍵が壊れているのは発見した俺はこっそりと中に忍び込んだ。
中は……まぁ、今にして思えば古い農具や家具、調度品と言ったガラクタが収められているばかりだったが、当時の俺には見慣れぬそれらは宝の山の様に見えた。
あくまで子供だったので、俺が安上がりだったわけじゃない。多分。
蔵の中の物をかき回して遊んでいた俺は、蔵の奥にひっそりと置いてあった小さな箱を見つけた。
躊躇何て一瞬もしなかった俺は、その箱を開けて『それ』を見つけた。
……いや見つけてしまった、そう言うべきだろうか。
見つけたのは、一本の鍵。
金色に輝く三つ葉と伸びた棒の先に旗状の細工がしてある、今で言うところの棒鍵だろうか?
三つ葉の部分に赤、青、緑の小さな宝石が嵌められたその美しい鍵の輝きに、俺は思わず鍵を手に取ってしまった。
その時だった……俺の前に『向こう側』への扉が開いたのは。
扉の向こうは、果てしない草原。
オーロラのかかる不思議な空
澄んだ空気の中に時折見える、こちらを興味深そうに見る半透明の小人達。
子供ながらの好奇心と冒険心は大きく刺激された。
そこで最初に出会い、仲良くなり、一緒に『向こう側』を冒険する事になる最初の友達。
迷い込んだ森の中で出会う、見たこともも無い綺麗な人。
常に微笑を絶やさず、優しく俺を気遣ってくれるが、甘い物には目が無い人。
四季が混在する不思議な場所で出会う、だらしない面倒臭がりで、俺をからかう事だけは精力的に動くしょうがない人。
だけど、危ない時にはどこからかやって来て助けてくれる人。
山の洞窟で出会う、寡黙で多くを語らないが、自らの生き甲斐に打ち込む背中で多くを語る人。
他にも多くの出会いがあり、楽しい事も危険な事も多かった。
怪我をした事もあれば、死にそうな目に遭ったのも一度や二度じゃない。
だけど、その世界で知り合った者たちに助けられ、教えられ、鍛えられ、俺は決してその世界に行く事を止めなかった。
決して理由を言わず内緒で度々行方不明になる不肖の息子を、放任主義ながらも大らかな目で見守ってくれた両親には本当に感謝してる。
大きくなっても俺は勉強するより、友達と遊ぶより、彼女を作るより、『向こう側』へ行く事に夢中だった。
……そんな俺の前で、新たな扉が開かれる。