表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

この作品の本編は、訳あって凍結中です。


本編のキャラクターの一人の、日常を描いた「番外編」扱いですが、稀に本編に絡んで、「残酷な描写」が出てくる可能性があります。


苦手な方は、避けて頂けますよう、お願い申し上げます。

 香月は、生きていると確信している。

 わたしが、生きているのだから。

 将貴さんと、仲間と、一緒に戦っているのだから。


「……また、この季節が来てしまったねえ……」

 将貴さんは、わたしの右の頬を伝った涙を、長い指先で、そっと拭った。わたしは、俯く。

 いつも、いつでも、半身を強く想っているのは、この世に一人きりだと思いたくないから。将貴さんがいても、仲間がいても。

 わたしは、母のお腹の中にいる時からずっと……いや、もしかしたらその前からずっと、香月と一緒だったのかもしれない。双子としてこの世に生を受けた時から、私の半身は、香月ただひとり。

 父も、母も、親族も、とうに離れて行った。離れて行ってからの月日を数えても、無駄なことは知っている。それでも……寂しいと思うのは、悲しいことだとも、知っている。

「ひろちゃん……お茶、飲むかい?」

 いつの間にか、わたしの目の前に、温かそうな湯気の立っているわたしの湯呑みが、差し出されていた。……そんなに長いこと、物思いに耽っていただろうか?

「……いただきます」

 そっと両手で受け取ると、猫舌のわたし好みの、「熱くないお茶」の温かみが、指先からほっこりと、全身に回った。

 将貴さんは、何も言わない。わたしが、雪の季節になると、不安定になるのを、ずっと知っているから。「あの日の記憶」が、わたしを苦しめることを、知っているから。そして、何も聞かない。わたしはそれが、何よりも嬉しかった。

 将貴さんとわたしは、しばらく何も言わずに、お茶の温かさを楽しんだ。


「ひろちゃん、通信制大学って、楽しいかい? 友達が増えたり、しないのかな?」

「……将貴さんの大学のように、人がいっぱいいるところは、怖いんです。友達が、増えることも」

 わたしは、また俯いた。湯呑みを包む自分の手を、じっと見下ろす。まだ温かい湯呑みの中には、3分の1くらい、お茶が残っている。

「怖い?」

「友達は、仲間じゃないから。仲間じゃないと、異界の者が現れた時、守れないです」

「……」

 将貴さんは、ちょっと悲しそうな顔をした。すぐに、いつものへらりとした笑顔になったけれど、わたしは見逃さなかった。

「そんな顔をしないで下さい。わたし、ここで過ごすの好きですよ。将貴さんが集めて下さった仲間も、好きです。でも……友達は、守れないことが怖いから、作るのを諦めました」

 わたしも、へらりとした笑顔を返す。ちゃんと笑顔になっていることだけを、祈って。

 将貴さんが、また複雑そうな顔を一瞬して、そして笑顔を作るのを諦めた。今度は、本当に悲しそうな顔をする。

「ボクはね、ひろちゃん? ひろちゃんにも、ちゃんと『青春』して欲しいと思ってるんだよ。女子大生なんだから、友達と遊びに行ったり、彼氏作って恋愛したり、勿論、その合間にでも勉強し」

「必要ないです」

「……ひろちゃん」

 きっぱりと言い放ったわたしに、将貴さんが更に悲しそうな顔をする。

「守ることが、出来ないからかい?」

「はい」

「それは、お姉さんのことと、関係あるのかい?」

「……」

 沈黙は、YESの証だった。


 わたしは香月を守れなかった。

 その頃、まだその能力を持っていなかったと言われても、やはり守れなかったのは、わたしなのだ。

 香月が、何処にいて、どうしているのかと考えると、泣き喚きたくなる。

 どうしたらいいのか分からないから、将貴さんの元で、戦っている。

 いてもたってもいられないから、戦い続けている。

 ……あとどのくらい、戦わなきゃいけないのだろうと思うけれど、それには目を瞑って。


「目の前から、大切な人がいなくなるのは、堪えられないねえ……」

 将貴さんは、遠い目をした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ