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この作品の本編は、訳あって凍結中です。


本編のキャラクターの一人の、日常を描いた「番外編」扱いですが、稀に本編に絡んで、「残酷な描写」が出てくる可能性があります。


苦手な方は、避けて頂けますよう、お願い申し上げます。

広すぎる庭に、はらはらと舞う雪を、じっと見ていた。

あの日も、雪の日だった。

晴れ間を縫って、庭に出た。

そして香月は、二度と帰らなかった。


「おはようございます」

何だか分からない物も多い、でも配色的に寒々しい研究室に、ふんわりと白い呼気と共に、声が響く。主が留守をしている研究室には、暖房はまだ入れられていないようだ。わたしはとりあえず、ガスファンヒーターのスイッチを入れて、窓の外を見た。

まだ11月だというのに、雪が舞っている。研究室の主に言わせると、このところの気象が、格段に不安定になっているのも、「異界」の影響が考えられるらしい。

「異界」とは、この現実世界にあって、現実世界にない、まさに「異なる世界」。その世界に、現実世界の人間が連れ去られる事件が、何十年も前から続発していた。「神隠し」と呼ばれる現象だ。連れ去られた人間は、異界の生物の妾とされたり、食べられたり、奴隷として働かされたりしている。稀に、運良く逃げ出したり、助け出されたりした人間達もいるが、殆どは戻らない。

……香月のように。

この研究室の主は、その「異界」の存在を明らかにした人物の孫で、名前は「葛木将貴」と言う。いつも怪しい実験の、実験台を捜している、まさに得体の知れない人物だ。

それでも、わたしの双子の姉「香月」を、「わたしの能力で助けられるか」と聞いた時、微笑んだ顔とその言葉は、今でも忘れられない。


「助けられるよ」

と。


香月を、助けられる、と。


 将貴さん―――普段はこう呼んでいる―――は、「異界」の存在を明らかにした人物「葛木豊吉」が名誉教授をしていた大学で、客員教授をしている。あの変人が、一体何を学生に教えているのかと思うと、興味をそそられる。だが、きっと実験台を求めて、学生に怪しまれているに違いない。……そういう人なのだ。

「あれ、暖かい。……ああ、おはよう、ひろちゃん」

 物思いに耽っていると、研究室のちょうど対角線上にある戸口に、黒いコートを着た、やや童顔の長身の男の人が、入ってきた。わたしを認めると、眼鏡の奥の眼を細める。

 この人とは、もう9年ほどの付き合いになる。わたしの痣が確認され、「術」の発現を認められた後に、将貴さんはやってきた。神隠しに関するプロジェクトの、「司令官」として。

 その日からわたしは、家庭教師に付き添われて、研究所の中にある将貴さんの研究室に、時々訪れるようになった。本来、11歳の子供がうろうろして良いような施設ではなかったが、将貴さんはいつも、快くわたしを受け入れてくれた。

 そうして、香月が居なくなってから既に15年。今もわたしは、香月を捜して戦っている。


「おはようございます、将貴さん」

 わたしは、敢えてにっこりと微笑み返した。何故なら、うっかり落ち込んだ顔でもしようものなら、わたしの考えていることが、一発でばれてしまうからだ。

「寒いねぇ」

 寒い日に、香月は神隠しに遭った。

「雪までちらちらしてるよ」

 雪の庭に残された、香月の足跡。

「どうなってるんだろうねぇ、この世界は」

 突然居なくなった、わたしの半身。

「ひろちゃん」

 涙が、右の頬を伝う。微笑みの形を残したまま、わたしは目に涙を溜めたまま、言った。

「早く、行かなければ」

「ひろちゃん……」




 香月を、助けに行かなければ。

始まりました!

本編とは違うテンションで綴って行く予定の、番外編です。

どうぞ、長い目で見て頂けますよう、お願い申し上げます。

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