第1話 見て
その熱い日は久々、彼に会える日だった。
熱い日差しの刺さる中、
大きな期待感と緊張感を持ち合わせて俺は約束のバスに乗った。
バスの一番後ろから二番目、左の奥の座席に彼は居て、
こちらを見るでもなく、ただ無表情に・・・
いや、眠たそうにして座っていた。
俺がその横にすっと座ると彼はチラリと一度こちらを確認までに見て、また窓の外に視線を直す。
俺もそれを気にしなかったのは、別にそれが嫌われている故の行動では無いのは知っていたからだし、
多分、と言うかきっと、眠いだけで
バスの揺れ、流れる風景、涼しい車内、
静かな中に程良く聞こえる少しの話し声、
眠気を誘うには充分だった。
俺だって、一人でこの状況下に置かれれば、眠りそうになるかもしれない。
だが、仮にも今自分の目の前に(横だが)居るのは好きな人間なのだから、眠れるわけがない。
そんな状況でも、バスと時間は進んで行った。
窓の外に、そんなに楽しい物があるの?
こっち向いて。
ねえってば、何処見てんの?
ねえ、ねえ、ねえ。
・・・笑ってよ。
「今日、昼どうすんの?」
彼は後ろを振り返り、数歩後を歩く俺に問いかける。
俺は少し目線を上げて彼の目を見返し、少し間を置いて話し始めた。
「うん、俺はこれと言って食べたい物も無いし何でもいい
んだけど、何か食べたい物とかある?」
「いいや?特には無いな。・・・・じゃあファミレスでいいか」
「ん、了解。じゃあ行こっか」
俺は軽く笑いかけ、
再び歩き出す彼の後ろをいつも通り追う。
相変わらず笑わねえな・・・
ま、今んトコ、笑う要素も無いけどさ
そんな事を考えながら、目的の地へと向かった。
「いらっしゃいませーっ二名様で宜しいですか?」
「あ、はい」
「おタバコお吸いになられますか?」
「吸わないです」
「こちらへどうぞー」
淡々と店員とのやりとりをし、案内される彼の後をついて行った。
渡されたメニューに目を通して注文する。
頼んだ食事が来るまでの間、他愛も無い話をして待った。
料理が来ると、一緒に食べて、少しの会話を交えた。
その間、机一つ分の距離がどうにももどかしかった。
この手で触れたいと思った、もっと見たいと、
こちらを見て欲しいと、
そう想い願った。