ぐだぐだと自己紹介
三回死んで、チートが生まれた。
最初に死んだ後、目覚めれば改造人間になっていた。
次に死んだ後、目覚めれば変身猫耳娘になっていた。
三度目に死んだ後、目覚めれば神ともいえる力を手に入れた。
他人事なら笑い話でしかない冒険は、当事者である私にとっては笑い話にしかするしかない過去である。
おかげで、平穏で平凡な日常を送ることが絶望的。無駄な努力は試みているが、状況はひどくなっていくだけ。三日もがいて諦めた。悩んでいる状況でもなかったが。
とりあえず、今は私ほどではないが、少々異常といえる能力保持者の集団組織に所属している。公的に異能者の存在が秘匿されていることも有り、表向き公開されている情報とは多少違うが一応国家の管理下にある組織である。最初に死んだ時、私を改造人間にして蘇生した組織もここである。
そして、異能が関与しているか異能でしか解決できない仕事をこなす代わりに、日常の不都合を何とかしてもらっている。それなりの権限があるので、離反とかしないかぎりは大抵のことから守ってくれるそうだ。上司や仲間をネタにしたオリジナルBL本を作った時は、あわやの第三次になりかけたけど。
そんな私の最近の主な仕事が、穴を埋める仕事である。
この作業をすると、一秒が一年になったりしてしまう。とても大変で面倒な仕事。
上司は言う。「お前以外がやったら大抵死ぬ」と。
世界と世界の境界に穴が開いたら、それを埋めるのが私の仕事。
自分の仕事の事ながら、漠然としたニュアンスでしか理解していないので説明するのが難しい。残念なことに頭脳の方はチートではないのだ。それどころか仲間の中では一番馬鹿なのではないだろうか。
とりあえず、友人が言っていたことを例にする。
世界を一人の人間とした場合、別の人間がパーソナルスペースに侵入すると互いに影響が生じる。さらに近く接触をすると境界が明瞭となり、状態が不安定になる。そして、傷つけられることが、境界に穴が開いた状態である。人は傷つけられれば痛いし、酷ければ死ぬかもしれない。流れる血は、この場合は世界に暮らしている誰か。
そこで、チート能力を生かして、私がその傷を治したり、流れた血を処理したり、傷をつけた相手に報復したりすることになっている。
じゃあ、具体的にどうやるのかと言われると答えにくい。
大体その場で起きた事態にのって騒いでいれば、結果として穴が埋まる、らしい。多分、上司につけられた刻印とかがそういう作用をもたらしている。
正直に言えば、私は私を持て余している。
上司や仲間に散々叱られているが、私は自分の力に対して大体こんな感じといった感覚で使っている。理解した上での行使ではないし、制御の方法も何となくであり信用が置けるものではない。
必殺技とかは特に無い。敵は殴るか斬るか食うかの三択だし、名前とか付けてもすぐに忘れてしまうし、格好つけたいときにだけそれっぽくしてみるだけだ。
自分と同時期に改造人間となった同胞たちとは、埋め込まれた石が共鳴して相互テレパシー可能。目が赤くなるけど、つい妄想を垂れ流しにしてしまうことに比べれば些細なことだ。私の妄想は、男性の精神衛生上好ましいものではないからな。
肌が頑丈頑強、荒れ知らずだというのは、乙女としては大変うれしい。顔面土下座スライディングしても無傷だったときは本当に安心した。隕石受け止めたときは痛かったけど、ものの数秒できれいに治った。生水飲んでも無事だし、サバイバル向きだ。
影がどこか特別な場所につながっているらしく、重さとか大きさとか関係なく収納できる。最大収納量は不明。影は服にも変化できた。巨大化した時に裸にならないですむ。さすがに身長180km用のサイズの服を取り扱っている店は無いからな。便利。これまたサバイバル向きかも。
あまり長期間力を使わないでいたり、何かを生み出す系統の力を使っていたりすると、ものすごい破壊の衝動が沸きあがって暴走しかけるので注意が必須である。ストレスには注意が必要だ。
あとは、何があっただろうか?もう少し考察なり研究なりすべきなのだろうが、無理だ。深く考えたくない。
死亡フラグとかが見える上に、それに食欲がそそられる理由なんて理解したくない。結局、食べられる上にパワーアップした気がしたし。
「このままじゃ、お前、あいつと同じになるんじゃね?」
久しぶりに再開した同胞に、そう言われて自分を分けた。
改造人間な私。チートで猫耳の私。反面教師としてのあいつに似た外見の私。
気分一つで簡単に変わることができるからあまり意味が無いようだけど、気持ちは少し楽になった。
ついでに、守る対象を、依存する対象を作った。彼女がいる限り、衝動に負けて、暴走はしないと感じた。
さて、大分逸れたが、仕事へ話を戻す。
自分でも理解しえていないことを説明するのは難しい。が、説明しようと思考することが理解につながるからと、お前には必要だと、常々言われているので、ここは我慢して欲しい。
先ほどの例だと、人が傷つくような行為を世界の場合に置き換えると、どこぞの創作に出てくるような異常な現象になる場合が多い。
異世界召喚や転生もののテンプレなんかがそうだ。ああいったものは外からもたらされる。
世界にとって、内側に抱える誰かを奪う召喚の儀式や転生トラックといった行為は、人の身体から赤血球一つ奪うのにナイフを刺すようなものだ。しかも、断りもなしに行う、通り魔のようなもの。迷惑極まりない。
世界にだって意思がある。それは私たちにも認識できるものか、または神という存在かは分からない。が、その意思が痛みに悲鳴を上げるから、世界に異能者が生まれる原因になっていると誰かが言っていた。
上司にとっては、自分の庇護対象の人間を拉致される訳だから、異世界に対し攻撃的にもなる。
自称・神や召喚を行った者には悪いとは思うが、上司は当て付けに彼らの世界に私を送り込む。
私は世界を傷つけないで渡ることが出来るという。さすがチート。しかし、ものすごく気をつけて平穏な生活を試みていないと、私のフラグ喰いは世界にとって騒動の種でしかない。上司の力の影響下なら問題は無いが、さすがに世界を超えてまでは届かない。一度かなり強固な封印を施してみたが、結局反動でひどくなっただけだった。
死ぬはずの人が死なない。結ばれるはずの二人が結ばれない。起こる現象が起きない。
結果、多かれ少なかれ、その世界は本来迎えるべきだった未来とは違う歴史を歩む羽目になる。
また、上司が私を送り込まなくても、騒動に自分からいつの間にか係わってしまうことも大変多い。フラグ目当てである。
特に空腹時や寝不足時、酩酊時が該当する。平穏であろうという意思が弱くなって、本能に従っている時だ。
気がついたら、フラグが立っていた本人と一緒に異世界に来ていたとか、良くあることである。
おおっと、また話がずれた。どうも、相棒がいないと話が進まなくっていけない。
私と違って、普通の肉体の人間が何の助けもなしに世界を移動するという行為は、安全バーなしでジェットコースター30連続乗車するようなものである。死んでもおかしくない。
そこで、私以外の同郷の人間が異世界にいた場合、上司から受けている命令がある。死んでいたら、魂だけでも元の世界に。生き返らせられる状況だったり、生きていたりしたら、理解を求めて協力してもらい、安全なルートでの帰還方法を実施する。
理由は分からないが、元いた世界に帰っても時間が長く経っていることなどない。長くて一週間前後。 そこで生じた空白期間は、上司がなんとかしてくれるし、異能に目覚めていればそのまま仲間になることもある。
ちなみに、私と契約すると、結構お得だと思う。老い難くなるし、死ににくくなるし、私の中での優先順位が上位になるし。ヒモ生活が保障されるし。
デメリットとしては、精神が感応しやすくなって、私に情報が流れやすくなるってとこかな?
「上手く説明できなかったが、以上が私、ヒジリの自己紹介、かな。不運にも突如発生した穴から、君と一緒にこちらに来てしまったちょっと変わったお姉さんだ。どうだろう、ジョージ君。理解してくれたかな?何か質問はあるかな?」
にっこりと、思い切り歯を見せて笑ってみせる。ついでに腕を広げて包容力もアピールしておく。胸が残念なのは気にするな。
「冗談?」
「冗談じゃないんだよ。ほら、窓の外を見てごらん。月が二つあるだろう?」
窓の外を指差してみれば、そこには大小二つの月が昇り、空を夕闇に染め始めている。
遠くに見える大きな鳥影は、もしかしたらドラゴンなのかも知れない。
町並みも見慣れた日本の建築物と違い、ファンタジー映画の舞台になりそうなものだ。
「え」
しばし、沈黙。
私は待ちの体勢で、ジョージ君は困惑している。
「夢か、寝よう」
私の話を、熱に浮かされた状態で聞いていた少年は、そう答えると再び横になり寝てしまった。夢と、そう結論付けたようだ。
安物のベッドは、そのわずかな動きにも耳障りな音を立ててきしむ。
私の座る椅子も、この個室も正直言って質のいいものではない。ただ病人が身をおくには必要最低限の設備と、それなりの清潔が保たれていた。建物は古いが、働く人の誠実さがここを立派に施療院として成り立たせていた。
「んー、まあ、無理をさせても、ね」
軽く背筋を伸ばして、身体をほぐす。思ったより、気持ちが良かった。緊張していたのだろう。喉も少し渇いている気がした。
さて、これで5度目の説明が、前回同様に夢と片付けられて無駄に終わってしまった。
いいかげん、次の説明に進みたいと思うのだが、少年の具合が悪いことも理解の遅延の一因だろうし、強制することでもない。彼の具合が悪い原因は精神と肉体が乖離しかけているからで、それには安静にして、ただ時間が解決するのを待つしかない。
彼から回収した所持品は、彼がまだ保護されて当然な未成年であることを強調し、庇護欲を抱かせる。寝顔も幼く、まだ中学生といっても通じるだろう。
私が出来ることは、彼が安静で切る場所の提供と、彼が帰還を望む場合は送還を、ここに残ることを望むなら寿命を迎えるまでの手助けをするだけ。あとは彼を害そうとするものからの守護くらいか。
当面は、その為の資金稼ぎが問題であった。彼のいるこの部屋は施療院の一室で無料ではない。むしろ今私が寝起きしている宿屋よりも高い。
こちらに来た当初は、影から取り出したものを売っていた。とは言っても、金目のものなど、そう持ってはいない。正直困った。頭を使うのは苦手である。
が、運よく、ここは剣と魔法とダンジョンのあるテンプレじみた世界だった。
異世界蹂躙で、最強系で、チートな主人公が私ですね。わかります。