表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/12

12話 - 錬金術

「えー……何事?」


 翌朝。

 いつものように顔を出したダニーは、不思議そうに目を丸くする。

 その視線の先――深い木々の間に立つエリオットは、ぶつぶつと何かを呟きながら、手慣れた様子で木に印をつけていた。


 エリオットを眺めていたミラとマオが、振り返る。


「おはよう、ダニー」

「おはよう、ミラ。……まだいるし、魔王……」

「…………」


 ぴた、とミラにくっつくマオに、むっと顔を顰めるダニー。

 まるで気にも留めないミラが、得意げに息巻いた。


「これはね……なんと! エリオットが、マオのお家を作ってくれてるの!」

「…………おうち?」

「実は朝ね……――」




 ――それは、朝食時。


 ダイニングテーブルを囲んでいる、ミラ、エリオット、マオ。


「――で? マオ、今日からどうするの?」


 ミラがサンドイッチを頬張りながら、マオへ顔を向ける。


「ミラと住む」

「のは僕だから」

「ミラと寝たい」

「だめに決まってるだろ」

「なぜだ」

「ミラは僕の奥さんだから」

「? 別にいい」

「(ピシ)」


 ふざけるなよ、とエリオットは笑みを浮かべながら、勢いよく立ち上がった。




「――……って感じで、エリオットが『家建ててやる』って」

「…………」

 

 エリオット……マオのためにあんなに頑張って……優しい……! きゅん! とするミラに、ミラそれ善意じゃないと思う、と内心突っ込むダニー。

 するとマオが、ぽそっと呟く。


「……遠い」

「えっ? ああ、そういえば? うちとは少しだけ離れてるね? でも近いよ? 見えるし」

「遠い……」

「ってこれ、もしかして錬金術で建てようとしてる?」

「そうなの! すごくない!?」

「いや、すごすぎて、何がすごいのかもわかんないけど……エリオットは何やってんの?」


 すると、ミラが空に円を描いた。


「木から家を錬成するために、錬成魔法円っていう、錬成式を構築するための魔法円を描いてるの。家の錬成なんて、かなりの大きさだから、部分ごとの小さな魔法円で、さらに1つの大きな魔法円を作るの! かなりの技術と集中力がいると思う」

「まるで理解できなかった」

「それだけ、エリオットはすごいってこと!」

「そーなんだ?」

「私は、こんな大規模な錬成したことない……! 一体いくつ錬成魔法円があるの……!?」

「……そういえばミラ、昔錬金術得意ではないって言ってたよね」

「そ、そうなの……好きだったんだけど、失敗も多くて……」


 しゅん……と俯くミラ。

 すると、はっ!? とすぐに目を見開いた。


「でも私、丸描くのは得意だった!!!」


 まる? とダニーは目を瞬く。

 何で得意なんだ? と聞くマオに、せめて綺麗に速く描こうと思って、小さい頃小屋の周りでずっと練習してたの、とてれてれと答えるミラ。


 するとエリオットが、えっ、とミラへ顔を向けた。


「え、ミラすごい。僕むしろ魔法円描くの苦手かも」

「え!? 天才錬金術師のエリオットにも苦手なものが!?」

「それはあるでしょ」

「それはある!」


 えっ、もしかして、私のが得意? 丸……! と嬉しそうなミラ。

 その表情を見たエリオットが近づいてきて、はい、とペンを手渡した。

 え!? とミラは驚いたようにエリオットを見上げる。


「じゃあ、魔法円はミラに描いてもらおうかなあ。そうしたら僕も助かるし」

「ぼくもたすかる!?」

「魔法円は、ミラ担当ね」

「わたしたんとう!!!」


 きゃー!!! と嬉しそうに身をよじると、どこに丸描けばいいですか!? ときらきら瞳を輝かせながら息巻くミラ。

 じゃあ、こことこことここにお願いね、とエリオットが指差す箇所に、ミラはうきうきと魔法円を描いていく。


「………………エリオット…………お前……丸苦手なの?」

「苦手かもしれなくもない」

「…………それ……絶対嘘だろ……」


 あ、やだ、ちょっとはみ出しちゃった……ともじもじするミラに、これくらいなら全然大丈夫、速いねミラ、とにっこり答えるエリオット。


 呆然とその様子を見守る2人。


「…………俺……たまにあいつがまじ怖いんだけど……」

「私は今日蹴り落とされた」

「……何で?」

「ミラにくっついて寝ていたら」

「それは俺でも蹴り落とす」

「――!?」


 マオと頭の上の鳥が、同時にダニーを驚いたように見た。


「何でトリコちゃん乗せてんの」

 



「……――!」


 エリオットが手をかざした瞬間、煙のような残像のようなものが目の前を渦巻く。

 その規模に、ダニーは息を呑む。

 錬成を初めて見るマオ(と鳥)も、目を丸くして固まった。


 少ししてその煙がふわっと消えると――



 木々が生い茂っていたその場所に、1軒の小屋が現れた。



 おおー! と声を上げる皆。


 ふう……! とエリオットは息を吐いた。


「これで安心かな(僕が)」

「ありがとうエリオット……! エリオット、ほんとすごい……! 優しい……!(きらきら)」

「(にこ!)」

「……何か、納得いかねー……」

「……ちょっと遠い……――」

「うるさいな2人」



 ミラたちは一度、庭へ移動し、ティーテーブルを囲む。

 紅茶の入ったカップを傾けながら、ダニーがやや興奮気味に声を上げた。


「やっぱすげーんだな、錬金術……! 魔法みてー」

「魔法の一部ではあるかな?」


 ミラがマオのカップにさらさらと砂糖を入れながら答える。


「魔法って、何でも出来そうなイメージだけど、錬金術は『物質変化』。物質の性質を変えて、形相を変化させる術? 誰にでもできるものではないって…………そういえば、言ってたような……?」


 おや……? と不思議そうにエリオットを見るミラ。


「……物質変化……??? 全っ然わかんねーけど、それで、何をどうしたらミラは10年も異世界に飛ぶんだ……?」

「えっ?」

「それは、ミラが錬成式を間違えたから」

「どう間違えたら……? じゃあ、元々は何を変化させる錬成だったの?」

「……髪」


 ミラが、申し訳なさそうにおずおずと呟いた。

 ……髪? とダニーは目を瞬く。


「ま、街で話しかけられたおじさんがね……! うっかりうたた寝してたら、キセルの火で頭火傷しちゃって、髪なくなっちゃったんだって……! うう……かわいそう……!」

「どこが?」

「ミラ、お人よしすぎ」


 思わず突っ込むダニーとエリオット。


「それは大変だな」

「魔王は黙って」

「だからね……! 『時間』」

「!」


 えっ、と皆がミラを見た。


「時間……?」

「時間を……髪のね。10か月前に戻せないかと思って」

「それ、禁忌に近いよね、ミラ」

「そ、そう……! で、でも、かわいそうで……!」

「そうかな……」

「で、試してみたら、うっかり失敗しちゃった」


 ついつい、と頭をぺちっと叩くミラ。


「……その軽さで10年いなくなってたの……?」

「錬成式が間違ってて、10か月じゃなくて10年になってた」

「ああ、それで……?」

「時間の錬成式、難しかった!」

「いけません」

「すみません……」


 すると、カタ、とカップをソーサーへ置いたマオが、ミラを見た。


「でも、どうしてクロウへ」

「クロウ?」


 ダニーとエリオットが同時に声を上げる。


「私が1年間いた国名。20年に一度、世界の空間が大きく歪む……ってアーヴィンが言ってたから、それでかな……?」


 アーヴィン、の言葉にぴく、と反応するダニー。

 その表情を見たミラが、少しだけ気まずそうにカップをもじもじと触った。

 

「私、異世界に転生した時……実は、不審者って王国に捕らえられちゃって」

「え!? 何で!?」

「城の、王子様の前に突然現れたから?」

「…………」


 目を瞬く3人。


「……何で、そんな場所?」

「恋に落ちたりしてないよね? ミラ」

「王子に会っていたのか」

「三者三様」


 目を瞬くミラ。


「それで、その時助けてくれたのが――」


 ふっと小さく笑うと、ミラはダニーを見た。


「――アーヴィン」




 ◇




 光の届かない石牢の床は冷たい。

 ミラは足をスカートの上へ乗せるように、ぎゅっと膝を抱えた。


 コンコン、と鉄格子を叩く音に、はっ! と顔を上げる。


 そこには、背の高い黒髪の騎士が立っていた。

 ちょいちょい、と手招きする。


 眉を下げたまま、ミラはゆっくりと近づく。


 すると――その騎士が突如、ぷっと吹き出した。

 えっ!? と目を丸くする。


「これはこれは、随分とかわいい暗殺者だな」

「……ち、ちがいます……」

「全然違う場所から来たって?」


 小さく頷くミラ。


 すると、その騎士が、すっと腕を格子の隙間から出す。


(傷だらけ……)

「手、かざしてみてよ」

「え?」

「20年に一度、世界の空間が大きく歪む。その年に突如現れる女性は、聖女と崇められるんだって」

「聖女……?」

「20年前は現れなかった」

「…………」


 恐る恐る、騎士の腕に手を触れる。

 すると、突如全身が光り輝き、触れている騎士の腕がみるみるその光に包まれる。

 驚いて、目を見開いたまま固まるミラ。


 にや、と嬉しそうに微笑む騎士。


「…………あ、あの……あなたは…………? どうして……――!?」


 そう言いながら、ちらっと視界に入った騎士の腕を見て驚く。

 腕の傷は、きれいになくなっていた。


 どきどきとミラは騎士を見上げる。


「ずっと……会ってみたかった。聖女って……――」


 そう言うと騎士は、格子越しにミラの手に触れた。


「――どれくらい、かわいいのかなって!」

「…………(軽そう……)」


 もや……と、ミラは細い目をその騎士に向けたのだった。



 ――これは、ミラが聖女として過ごした、少しだけ慌ただしい1年の話――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
読ませていただきました! このエピソードもニヤニヤしました…! めちゃかわいいミラに、あまあまなエリオット、ほんとにニヤけます。 他の子達もミラ大好きなの、最高にかわいいです。 丸のエピソード、凄く可…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ