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第4話 雑用、牙を剥く

雑用係としての日々が続いていた。

馬小屋の糞をかき集め、汚れた鎧を磨き、煮炊きをし、

また馬小屋の糞をかき集める。

団員たちはそれを当然のように命じ、

時にはわざと汚した鎧や靴を押しつけて笑った。


「おい、化け物。俺の鎧を輝かせろ。鏡みてえにな」

「こんなガキに何させても無駄だろ。せめて使い潰して笑わせろよ」


グレンは黙って耐えた。悔しさに涙を流しても、ますます嘲笑われるだけだ。


『――耐えろ。強くなるためだ。』


だが、耐えるだけでは済まない夜が訪れる。

酒に酔った三人の団員が、グレンの寝床に押しかけてきた。


「おい、雑用。今日は遊んでやる」

「俺たちに歯向かうなよ。化け物は化け物らしく人間さまに従え」

 

笑いながら彼を殴り、足蹴にする。

木剣を握り締めたくなる衝動を、グレンは必死で押さえ込んだ。

ここで反撃すれば、ただの反乱者として斬られるかもしれない。

しかし、一人の男がとうとう踏み込みすぎた。


「お前の母親”も”きっとオークに抱かれて喜んだんだろうな」


心が爆ぜた。

次の瞬間、グレンの拳が男の顎を跳ね上げた。

鈍い音と共に、男の体が後ろに倒れる。

ランタンの炎がざわめき、残りの二人が目を見開いた。


「……テメェ!」


怒号とともに刃が抜かれる。酔いも吹き飛び、血の気を帯びた目でグレンに迫る。

その刹那、低い声が夜を裂いた。


「――やめろ」


ヴァルドだった。

いつからそこにいたのか、焚き火の影に立つ巨体が視線を突き刺す。


「団員同士で殺り合うなら、俺が先にお前らを斬る」


三人は息を呑み、武器を下ろした。殴られた男は唇を裂き、呻きながら退く。


「ちっ……化け物のくせに」


吐き捨てて背を向ける彼らを、ヴァルドは一瞥しただけで追わなかった。

残されたグレンに、ヴァルドはゆっくり近づく。


「……よく堪えたな」


その声には、わずかな労りが滲んでいた


「牙を隠すのも強さだ。だが出すべきときに出せなきゃ、ただの犬だ」


グレンは拳を握りしめたまま、荒い息を整えた。

 

「……俺は、犬じゃない」


低くつぶやいた言葉に、ヴァルドの目が細められる。


「なら証明しろ。明日から、俺が鍛えてやる」


その一言が、グレンの胸を熱くした。

雑用係の化け物。

そう嘲られ続けた日々の向こうに、初めて差し伸べられた手だった。

だが、少年は知ることになる。

傭兵としての地獄の日々が、まだ始まりにすぎないことを――。

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