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第3話 雑用係の化け物

傭兵団の拠点に足を踏み入れた瞬間、グレンに冷たい視線が降り注ぐ。

焚き火の周りにたむろする、屈強な男たちは眉をひそめる。


「なんだ、あのツラは……」

「オークのガキじゃねえか?」

「ヴァルド、冗談だろ。こいつを戦わせるつもりか?」


哄笑が広がる中、ヴァルドは鼻を鳴らした。


「戦わせる?馬鹿言え。こいつは荷物持ちだ。雑用が足りねえから拾っただけよ」

「……は?」

「糞掃除も、飯炊きも、鎧磨きも、誰もやりたがらねえだろが。こいつなら黙ってやる」


団員たちは一拍置いて大笑いした。


「雑用の化け物か!」

「ははっ、そりゃいい!俺の靴も舐めさせてやろう!」


グレンは唇を噛み、反論すらできずに立ち尽くす……、

翌朝から、地獄のような日々が始まった。

馬小屋の糞尿を素手でかき出し、油にまみれた鎧を磨き、冷たい川で洗濯をした。

飯を配れば、わざと膳を蹴飛ばされ、汚れた床を舌で舐めろと笑われた。


「オークのガキでも役には立つな!」

「おい、化け物!ぼやぼやすんなっ。次は俺の靴だ!」


それでも、グレンは逃げなかった。

村にいた頃の冷たい蔑みよりは、まだ前へ進めている気がする。

強くなるためなら、泥をすすることでさえ、どうということは無いように思えた。


夜、皆が寝静まったら木剣を握る。月明かりの下で素振りをしてみる。

泥と汗にまみれ、手のひらの皮は剥け、血が滲む。

だが、その痛みこそが、幼き誓いを揺るぎないものとする……。

そしてある日、小隊長格の男がにやりと笑った。


「雑用野郎、ちったあ体は出来たか?なら試してみようじゃねえか」


傭兵たちの粗野な笑いと嘲りの輪。その中央に一匹の犬が、放り出された。

骨ばっているが、牙は鋭く、目には飢えた光が宿っている。


「殺せ。できなきゃここで終いだ」


団員たちが口々にあざける中、グレンは木剣を握り締めた。

犬が牙を剥き、飛びかかる。

咄嗟に振り下ろした木剣が、鈍い音を響かせると……犬は次第に動きを止めた。

震える腕。生臭い血の臭い。それでもグレンは立っていた。


ヴァルドの低い声が焚き火の向こうから響く。


「……悪くねえ」


団員たちは再び笑った。だが今度は、嘲りだけではなかった。

ほんのわずか、戦士としての芽を認める色が混じっていた。


『――ここで、もっと強くなる。必ず!』


その誓いを胸に、グレンは使い古しの剣を抱き、眠りにつく。

いつしか、その想いが嘲りを越え、誇りへと変わる日を夢見ながら――。

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