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第2話 旅立ち

夜明け前の村は、まだ眠りに沈んでいた。

グレンは小さな袋に干し肉と水袋を詰め込み、穴ぐらを出る。

最後に母のところへ寄ろうかと思ったが、

また冷たい言葉をかけられるかと思うと、怖くなってやめた。


村を抜け、原っぱを越え、森へと入った。東の空が白む頃、冷たい風が頬を打つ。


『これから俺は……俺の道を歩くぞ!』


胸の奥でそう誓うと、心に小さな勇気が灯った気がした。

だが現実はすぐ牙を剥いた。

村を出て三日目、食料は底をつき、水袋も空になった。

森で小動物を狩ろうとしたが獲物は逃げるばかり。

罠だって獲物がいつかかるかなんてわからない。

空腹と疲労で足が重くなる中、背後から甲高い笑い声が響いた。


「なんだぁ?化け物が迷い込んでやがる!」


三人の盗賊が現れた。錆びた短剣や棍棒を手にしている。


「半端な人もどきか。村から追い出され、行くあてもねぇんだろ?」


彼らは、にやつきながら近づいてくる。


「大したもんは持ってねえだろうが……まあ、身ぐるみ置いてけや」


グレンの心臓が跳ね上がる。

身ぐるみ置いていったとしても、どうせ殺されるだろう。

逃げたとしても背中を斬られるだけだ。


……母の、冷たく期待をしない目を思い出し、歯を食いしばった。

こんなところで死んでたまるか!


「来い!」


震える声で叫び、手製の木剣を握りなおす。


盗賊たちは哄笑した。


「棒切れ一本で俺たちに勝つ気か?化け物のガキは面白ぇな!」


一人が突進してくる。棍棒が振り下ろされる。

必死に身をかがめ、棒切れを振り上げると、顎をかすめ男が呻いた。


――当たった!


その瞬間、胸の奥で何かが弾けた。

だが二人に同時に襲いかかられ棒切れは折られた。

腹を蹴られ、地面に叩きつけられ、視界が霞む。


「やっぱり半端な化け物だな。そろそろ死ねや!」


刃が振り下ろされる。その刹那、悲鳴が森に響いた。盗賊の手首から先が無い。


「次は首を刈るぞ――小僧ども」


低く響く声。片目に傷を負った大柄な男が立っていた。

肩に擦り切れたマント、腰には重厚な剣。

盗賊たちは顔色を変え、森の奥へ逃げ去った。


泥と血にまみれたまま、グレンは男を見上げた。


「な、なんで助けた……?」


「死にかけのガキを見捨てるほど、俺は腐っちゃいねえってことよ」


男は鼻で笑い、背を向ける。


「じゃあな」


その背が離れていく。グレンの胸に恐怖と焦燥が広がった。

――このままじゃまた独りだ。

震える足で立ち上がり、声を張り上げる。


「待ってくれ!俺は、あんたみたいに強くなりたいんだ!」


男の背中が止まる。振り返った片目が鋭く光る。


「強く、だと?」


「俺は半端者で……誰からも蔑まれてきた。だから強くなりたい……俺を連れていってくれ!」


荒い息を吐きながら叫ぶグレン。その目は涙で濡れている。


男はしばらく無言で見つめ、やがてふっと口元を吊り上げる。


「名前は?」


「……グレン」


「グレンか。俺はヴァルド。傭兵だ。団の雑用が足りねえ。ついてきな。」


こうして、蔑まれし子は傭兵ヴァルドの後を追い、己の運命を切り開く第一歩を踏み出したのだった。

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