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秘密を抱えたふたりの錬金術師  作者: 雪月フィア


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八話

 ノアとの一件を終えて部屋に戻ってきたアルメリアは、椅子に座るや否や疲れからか大きく息を吐いた。

(まだやるべき事があるのに……。まさかこんなに疲れることになるなんて……)

 椅子の背もたれに体を預けて、何度か深呼吸を繰り返して心を落ち着かせた後、ベルを鳴らした。ほどなくして部屋に規則正しいノックの音が響いた。「どうぞ」と声をかければ、ルシエンともう一人の使用人が部屋へと入ってきた。彼女は白い髪を短く切りそろえ、ルシエンと同じように黒を基調とした燕尾服を身にまとっている。だがルシエンとは違い、下はショートパンツにサイハイブーツといった格好で、背中にはフクロウを思わせる羽根が生えていた。カトリスもまた、亜人と呼ばれる種族なのである。

 二人は軽く礼をすると、カトリスが先に口を開いた。

「市場の異変調査ですか?」

「話が早くて助かるよ。それと聖凛教団、あと可能なら王家の方も調査してきてほしい」

「かしこまりました」

「おや、では協会はアルメリア様自身が?」

 話を聞いていたルシエンが疑問を投げかける。その言葉にアルメリアは頷き、続けた。

「行くついでにね。噂話のひとつやふたつくらいなら、得られるだろうし」

「なるほど……。では、私も少し話を聞いてくるとしましょう」

「そうしてくれると助かるよ」

「なんの前触れもなく、しかもノア様にさえわかるほど雰囲気が一変するとは。もはや何も隠す気がなさそうな感じがします。ですが……」

「だからと言って、公表するかどうかはまた別だからね」

「そうであるなら、こうして探る行為は窮地に自ら飛び込むようなものですね。ご自分の立場が悪くなる可能性はお考えですか?」

「ちゃんと考えてあるから、小言は終わってからにしてくれるかな」

「なりません。ルシエンから聞きましたよ、先ほども休むことなく錬金薬を作っていたそうですね?」

「ルシエンッ!」

 アルメリアが声を張って使い魔の視線をルシエンへと向ければ、彼は口元に手を当てクスクスと笑っていた。待っている間に話したらしい。わざわざ話す必要はなかっただろう、という言葉を飲み込み、代わりに深いため息で返す。

 そのアルメリアの様子をカトリスは呆れたような目で見ながら言葉を続けた。

「言い訳は帰ってから聞きましょう。ひとまず行ってきます」

 そう告げるとカトリスは窓の方まで歩いて行った。そしてふと、何かを思い出したかのように立ち止まった。カトリスは振り返り、使い魔を見つめる。

「その子に魔力を流しておいた方がいいですか?」

「……そうだね。念のためお願いするよ」

 アルメリアは少し思案した後そう返答した。それを聞くや否やカトリスは使い魔へと近づき、その手を取って目を閉じ、己を魔力を流していく。亜人はそれぞれが固有魔法を有しており、こうして魔力を流すことで、その魔力を持つ相手の固有魔法が使えるようになるのである。カトリスは姿を消す固有魔法を持っているため、使い魔の存在を隠して活動したい時にはとても重宝するのだ。

 ほんの少しの間そうした後、カトリスはゆっくりと目を開けて手を離した。「では改めて行ってきます」と告げると窓を開けて羽ばたいて夜の空へと消えていった。

 軽く呼吸を整えながらカトリスを見送ったアルメリアを、ルシエンは感心した様子で見ていた。

「使い魔相手とはいえ、他人の魔力を流されて平然としているなんて。相変わらずタフですね」

「たまにだから耐えられてるだけだよ。そうじゃなかったら、さすがにキツイ」

「普通ならたまにであっても耐えられないと思いますけどねぇ」

 緩く首を振りながらルシエンは言うが、このタフさがあるからこそ今もなお大錬金術師としていられるのだろうとは思っていた。そうでなければ、視力を失った段階で命を落としていた可能性もあるからだ。

「では、明日に備えてしっかり休んでくださいね。私も準備をしてから休ませてもらいますので。おやすみなさい、アルメリア様」

「あぁ、おやすみ」

 返事を聞いたルシエンは軽く一礼をしてから部屋を出て行った。その後ろ姿を見送ったアルメリアは、今度こそしっかり休むかと思いながら、軽く息を吐き寝る準備を進めるのだった。

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