五話
昼食をとって少しした後、アルメリアの部屋のドアが控えめにノックされる。「どうぞ」と声をかけると、ノアがどこか緊張したようにそっと部屋へと入ってきた。
「えっと、依頼品が出来たから見てほしいな~って思いまして……」
「わかった。少しだけ待って」
「わ、わかりましたっ」
そう勢いよく返事をするも、ノアはどこか落ち着かない様子で、しきりに自分の髪を触っていた。自分の作る薬にあまり自信がないようで、確認を頼みに来る際は、いつものような勢いや元気さはなく、むしろかなり大人しい。その自信のなさを、自分が薬を飲むときにも持ってほしいとアルメリアは思うが、もはや今更だ。
だが、いつもの緊張とはまた違った雰囲気にアルメリアは疑問を抱く。今は考えず、部屋に行くまでに聞くと決め、途中であった錬金薬作りを手早く終わらせた。
「お待たせ。それじゃあ行こっか」
「ひゃい!」
声を裏返して返事をするノアに、アルメリアはますます訝しんだ。そしてノアの作業部屋に向かいながら尋ねた。
「なんだか態度が変だけど、どうしたの?」
「え、えっと……おししょーの部屋にいたら、なんだかソワソワしちゃって……」
「確認の時にソワソワしてるのはいつもの事でしょ。でも、今日はいつもの緊張とは違った雰囲気だと思ったんだけど」
「うっ……えっと、えっと~……その~……なんだか、アソコも変な感じで……」
「………………は?」
意を決してどこか恥ずかしそうに口を開くノアに、アルメリアは眉をひそめた。
昨夜、そして今朝と、特に異常もなさそうだったため、特に気にしてはいなかったのだが、少しずつ体に変化があるようだった。
(もう少し注意して見ておくべきだったか……)
と思いながら、アルメリアはため息をつく。
「ひとまず、気にしすぎないように。気にしてるから余計違和感を覚えるんだよ」
「そう言われましても~……」
「そうしておけばそのうち落ち着くから」
「はぃ~……」
情けなく返事をするノアを尻目に、むしろそのまま落ち着いてくれないと困るのだとアルメリアは考えていた。違和感を覚えたままでは、錬金薬作りにも影響が出るからだ。ただでさえドジでやらかすことも多いというのに、集中力まで欠けてしまったら目も当てられない。
そうして話しているうちに、ノアの作業部屋へとたどり着いた。
「それじゃあ、早速見せてもらおうか」
「は、はい! これです!」
ノアはいそいそと、机の上に置いてあった箱をアルメリアに手渡す。アルメリアはそれの蓋を開けて、中に入っている瓶をひとつずつ、魔力を通じて鑑定していく。そして全て鑑定し終えたアルメリアは、軽く頷き告げた。
「うん、どれも納品水準に達してるね」
「よ、よかった~……」
「早い方がいいだろうし、明日にでもルシエンに持って行ってもらおうか。本人には後で伝えておくから、箱に薬の種類と個数、そして納品場所を書いた紙を貼って、薬庫に置いておくこと。わかった?」
「いつものやつですね! わかりました!」
安心したように息を吐いたノアに、アルメリアは一通り指示を出した。納品前のいつもの作業ではあるが、万が一忘れたなんてことを防ぐために、都度指示を出しているのである。
そしてノアの返事を聞いて「それじゃあ戻るから」と告げて部屋から出ようとするアルメリアの袖を、ノアは掴んで引き留めた。その事に若干の胸騒ぎを覚えつつ、ただひと言「なに」と聞いた。
「昨日、生えちゃったこれのこと、教えてくれるって言いましたよね……?」
「言ったけど、今は無理だよ。まだ作業途中の薬があるの、見たでしょ?」
「でも、今がいいです。おししょー……」
「ノア」
どこか切なげに言うノアに、アルメリアは強い語気で、拒絶するかのように返した。その声にノアは軽く体を跳ねさせ「わかりました……」と少し落ち込みながら掴んでいた手を離した。アルメリアは安堵するが、あまりの落ち込み具合に申し訳なさがこみあげてきた。
「……今は無理ってだけだから。夕食後なら手は空いてるし、その時なら構わないよ」
とばつが悪そうに顔を逸らしながらそう告げると、ノアの表情がパッと明るくなった。
「ありがとうございます! おししょー!」
「……それじゃあ、また後で」
自分は結構甘いのかも知れないと思いながら、アルメリアはそう言い残して、逃げるように部屋から出て行くのだった。




