表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

day 6

授業中の今、また私は保健室にいた。


『またサボりかー。不良少女になり下がったな』

「先生の身内もチャラいですけどね」

『あー、拓海か。喋ったんだな』

「勝手に喋りかけてきただけですから」


私の言葉に適当に返答した森先生は、カタカタとパソコンで何かを作っている様子。それを視界に入れず、身長計に乗った。自分の手で計測するとメモリをみた。


「…縮んだ」

『何センチなんだ?』

「158.6センチですけど」

『チビだなー』

「この前までは159でしたから」

『誤差だ。そんなに変わんねぇよ』


カタカタとキーボードを打ちながら、そういう先生は無駄に身長が高い。何も気にせずに教室に入ったら、おでこが激突する気がする。その姿を想像したらどんくさすぎて、笑えて来た。


『とうとう頭もやられたか?』

「もう面白過ぎてっ、先生ださいですよっ。プププッ!」

『俺はダサくないし面白くもないけどな』


あー、好きだ、この時間が好きだ。この会話が好きだ、楽になれる。心がホッとする。そんな感情がそんな気持ちが、溢れ出てきた。


「私、先生のことは嫌いじゃないですよ」

『俺のことが嫌いな奴がいたら吃驚だけどな』

「そうですね。先生はお兄ちゃんみたいですから」

『お前、珍しく可愛いこと言うな』


パソコンの画面から視線を私に移した先生はくしゃりと笑った。そんな姿を見てお兄ちゃんじゃなくて、お父さんかもって思ったのは言わないでおこう。


『立花絢香だったな、お前』

「そうですけど、何ですか、今更」

『ん?いや、何でもないけどな』


変な質問。知ってるくせに。ベッドに向かいごろりと寝転がる。少し黄ばんだ天井をみつめてみた。


「(私、何してんだろ)」


メロンパンは捨てた。私の家はむちゃくちゃだ。家にいると苛々して仕方が無い。


「やっぱりこんな私嫌いだ」


私のこの呟きを森先生が、はっきりと聞いていたことは知らない。


いつのまにか眠っていた。ぱちりと目が覚め、時間を確かめるために携帯を開く。


「11時23分か…」

『あ、起きた?ぐっすり寝てたね』


そして目の前には森拓海。いつからいたんだろうか。全く気付かなかった。私、こう見えても神経質なところあるのにな。そんなことを思いつつも、ベッドから降りようと足を伸ばすと、何故か手を握られた。


『絢香ちゃん、今アイツいないよ?』

「そうなんだ。手、離してくれない?」

『えー、どうしよっかなー』


何故かベッドから降りようとする私の腕を、引っ張ってそれを不可能にする。口調からして苛々してきた。


「離して、今すぐ離して」

『何で? 離して欲しかったら、こっちから降りればいいじゃん』


その衝動をグッと抑えて、森拓海がいる方から降りることにした。

踏ん張れ私、ここで壊れたらダメだ。心の中で自分にそう言い聞かせながら、地面に足を付けようとした瞬間。


「…ッん!」


森拓海に腕を引っ張られて、キスをされていた。何で、何で、何で、何で。掴まれていた腕を今度は、私がグッと掴み返した。空いているもう片方の手で拳を作り、森拓海のお腹に打ち込もうとするが、呆気なくその腕を掴まれてしまう。


「んんっ、やめ―――」

『―――絢香、俺が守ってあげるから』


その言葉がすんなりと心の中に入り込んだ。ずっと欲しかったものが手に入れれて満たされたような。私はずっと誰かに自分の存在を肯定して欲しかったのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ