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day 5

次の日から大和は私に関わってこなくなった。もちろん私も話しかけることはない。何もなかったかのように男友達の輪に紛れて、楽しく話していた。花巻さんはどこからか私と大和が離れたことを聞き、クスクスと笑ってこちらを見ていた。


一日が長く感じる。今までは大和といたからこそ、早く感じていただけだった。好きな人に嫌われることはとても辛い。でもこれでいいと思った。思った通り私は今までと何も変わらず、こうやって目の前の恋心を潰すだけ。


「何やってんだろ…」


お昼休みに大和がいつも飲んでいたいちごみるくを飲む。今日のお昼はコレだけ。窓から見える空を見上げてみる。曇一つも無い、晴天の青空が広がっていた。いっそ私、消えちゃいたい。踏み出せない自分に、自己嫌悪を抱く。変わりたいと願いつつも、変わろうとしてない自分。


「やっぱりこんな私、嫌いだ…」


ポツリ呟いたら、隣に誰かがいる気配がした。ちらりと横を見てみると知らない人。


『自分の事嫌いなんだ、立花って』

「……だ、れ…?」


口に入れていたストローを出して、顔をじーっと見てみる。見覚えは全くない。こんな人、私は知らない。


『俺のことまじで知らない?』

「知らない」

『へえ、まあそりゃそうか』


何か分かったかのように、ニヤリと笑った男。最近、理解出来ないことが多い気がする。


『俺、森 拓海(Mori Takumi)』

「そうなんだ」

『関心ないねー、立花って』

「別にどうでもいいし」


森って名字がちょっと気になったけど、別に目の前の男が森先生の身内だろうが、違おうがどうでもいい。可能性は大分、高い気がするけど。


男に向けていた視線を、いちごみるくに向ける。あー、空は青いな。


『立花の周りはスッカラカンだねー』

「嫌み?って言うか何か用でもあるの?」

『ん?別にないよ。今までは大和がいたからねー』

ここでも大和か。やっぱコイツ、森先生の身内か。


いちごみるくを一気に吸い込んだ。これ、飽きるな。甘過ぎる。私はまだ半分も残っている、いちごみるくのパックを森拓海に差し出した。


「飲む?これ甘くて飽きた」

『くれんの?』

「飽きたって言ったじゃん」

『ふーん。じゃあご厚意に甘えて貰っとく』


森拓海はいちごみるくを受け取ると、すぐに口をつけて飲み始めた。コイツも間接キスを気にしないんだ。でも大和の時みたいに顔が真っ赤になったりはしなかった。やっぱり私は大和が好きなんだ。


「で、大和がいたってどういうこと?」

『んー。“今まで”は立花の周りに大和が居ただろ?』

「うん、まあ」

『その所為で立花に近づけた男は、大和一人。でも今はいないからこうやって俺と話してるでしょ?』


そんな森拓海はニヤリと笑って、人差し指を私の鼻の先に置いた。


『それってどういうことか分かる?』

「(何で鼻に指を乗せるんだろう…)」


カッコつけて問いただしてくるこの男を無視して、鼻の先に置かれた指をじーっと見る。と、何故か急に笑いだした森拓海。


『ハハハハハっ。ホント立花って面白いな』

「別にそんなことないけど」

『って言うかさっきの話し聞いてた?』

「聞いてたよ。理由なんて大和にしか分からないし」


空を見上げる。だってそうだ。大和の考えていることなんて、大和だけにしか分からない。


「アンタ、エスパーなの?」

『違うよ、男心ってやつ』


もし森拓海が大和の気持ちを分かっていたのだとしても、それを森拓海から聞くのは可笑しい気がする。


「そうなんだ。でも私は理由なんて知らなくても良い」

『へえー。面白いね、立花は。でも何で?』


何が面白いのか、やっぱり森先生の身内だ。しかも森先生よりもタチの悪い男。口角をあげて私に詰め寄って来る森拓海に、体が勝手に後ろに下がる。


「知った所で何も変わらないし、聞くならアンタからじゃなくて大和から聞きたい」


その返答が予想外だったのか一瞬、森拓海の目が見開いたような気がした。でもその顔はすぐさま元の顔に戻る。


『大和から、ね。まあ、それは無理なんじゃない?』

「無理ならそれでいい」

『諦めるの早いねー、“絢香”ちゃん?』


ビビビっと虫唾が走った。この男、なんだか怖い。普 通にしていたらほんわかとしていて、優しそうに見えるのに。


『眉間にシワ寄ってるよ? もしかして下の名前は大和だけに呼んで欲しかったの?』

「いや、名前知ってたんだって思っただけ」


そんな言い訳をしてみるけれど、実際は怖いと思った。絢香を強調して呼ぶもんだから、尚更。


『でも、大和が居なくなってくれて良かったー』

「なんで?」

『お蔭で絢香ちゃんとは仲よくなれたんだもん』

「私は仲よくする気無いけど」

『まーまーそんなこと言わずに仲よくしよーよ。間接キスした仲だし?』

「私はしてない」


この男、軽い気な。それなら赤髪になった大和の方、がよっぽどマシ。と言うか比べ物にならない。

グラウンドには大和の姿が見えた。サッカーをしてるみたいだった。そんな姿を見て笑顔が零れる。


「(仲直り…、したいな)」


拒絶したのは私だったし、今更そんなこと思うのはダメだと思う。


『俺が居るのに、見つめる先は大和ってか』


ポツリといちごみるくが無くなったらしい、森拓海がそう呟いた。


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